2000年からの推移を見ると、2000年代の前半では、日本との20分の1という大きな賃金格差を背景に(図録j022参照)、中国への企業進出が続いており、中期的な有望事業展開先としても、中国が8〜9割の回答を集め、次に多いタイの3割未満と比べても、中国の圧倒的な存在感が目立っていた。 ところが、2000年代の後半には、IT人材の豊富さや市場としての可能性からインドが大きく躍進し、2010年の前後の5カ年は、有望事業展開先としては、中国とインドの両頭体制の時代となった。 ところが近年は中国における賃金水準の上昇による途上国間での賃金格差の縮小あるいは逆転を背景に(図録j022参照)、中国での事業展開の展望は大きく後退し、それとともに、インド、あるいはそれ以外のベトナム、タイ、インドネシア、メキシコなどでの事業展開の有望性が上昇した。このため、現在では、有望事業展開先がアジアや一部ラテンアメリカを含んで途上国全般へと多様化するという大きな状況変化が訪れている。 なお、2012年は9月の尖閣諸島国有化を機に日中の対立が先鋭化、その後中国国内でデモが発生、尖閣周辺海域での中国公船が航行するなど日中関係が悪化した年である。2013年に中国を有望とする回答が急減した背景にはこの点の影響もあると考えられる(日中関係については図録7900参照)。 有望性上位の国について、その国が有望だと回答した企業に、その理由をきいた結果では、「現地マーケットの今後の成長性」(将来の市場性)がいずれも一位であるのに対し、中国では、この理由が低下し、2015年にはむしろ「現地マーケットの現状規模」(現在の市場性)がこれを上回っている。 また、中国は、「安価な労働力」という理由も低下し、他の理由を下回るに至っている点も特徴である。また、この理由への回答率は図の5カ国の中で最低となっている点にも、もはや中国での事業展開の理由は低賃金ではないことがはっきりとあらわれている。中国の賃金水準が上昇を続け、最近は、アジア途上国の中でも高い水準にある点については上記図録j022のほか図録8420参照。 「安価な労働力」という有望理由はいずれの国でも低下傾向にあり、海外での事業展開の理由としては、市場としての重要性が相対的に増していることが分かる。ただし、図の国の中ではベトナムは、まだ、「安価な労働力」という理由の相対的地位が高いことが目立っている。 日本の企業は、各国の市場性の現状と将来を中心にすえ、その他、各国の賃金水準の動向など、その時々の状況に応じて、アジア等の中で最適な生産拠点を選定し、活動を行っていることがうかがえる。 さらに同調査では、その国が事業展開先として有望だと回答した企業にその国の課題をきいているので、有望性上位の国についてその結果を下図に掲げた。これを見ると、中国について「労働コストの上昇」を課題としてあげる企業が7割以上にのぼっている点が特に目立っている。これまでの記述を別の側面から裏付けるものであろう。 最初のグラフで取り上げた国・地域は13であり、具体的には、順位の高い順に、インド、インドネシア、中国、タイ、ベトナム、メキシコ、フィリピン、ミャンマー、マレーシア、シンガポール、韓国、台湾、カンボジアである。 (2016年3月13日収録)
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