1.首相選出 2021年9月29日の自民党総裁選で岸田文雄前政調会長(64)が新総裁に選出され、次期総理大臣となることが決まった。岸田新総裁は、広島県出身の通産官僚だった父・衆議院議員岸田文武の秘書を経て旧広島1区から衆議院選に立候補し、1993年に初当選した。永田町小、麹町中、開成高、早稲田大を卒業し、長銀に勤務していたので基本的には東京人である。広島出身の総理としては4人目であり、広島は山口、東京に次いで3番目に多い総理大臣出身県となった(注)。 (注)岸田新総理誕生の時点での当図録の話題をふくらませてプレジデントオンラインの記事にしたので参照されたい(ここ)。 東京人だが広島選出の政治家という点では、49人目の宮澤喜一元首相と同じである。宮沢喜一は、広島県福山出身で山下汽船勤務後広島3区選出の衆議院議員となった宮沢裕の長男として東京で生まれ、武蔵高校、東大、大蔵省と進み、父裕と古くから付き合いのあったやはり広島選出の池田勇人蔵相の秘書官となった。そうしたことから東京生まれ、東京育ちだが、広島選出の政治家となったのである。池田勇人元首相がつくった自民党の名門派閥「宏池会」はこうして、父親の地盤を受け継ぐ世襲政治家が主流となる中で、宮沢喜一、岸田文雄と広島選出の東京人政治家に引き継がれていくことになった。なお、宏池会の名は中国の古典に拠っているが「池」は池田勇人、「宏」は広島に掛けているとも言われる。 2021年9月3日、菅義偉総理大臣が内閣支持率の低迷の中で総裁選不出馬、すなわち事実上の退陣を表明した。9月10日には河野太郎ワクチン担当相兼規制改革担当相が、告示日前日の16日には野田聖子党幹事長代行が自民党総裁選に立候補を表明し立候補者は以下の4人となった。
2020年9月14日の自民党総裁選で菅義偉官房長官が新総裁に選出され、次期総理大臣となることがほぼ決まった。菅新総裁は秋田県の農家出身の衆議院議員であるが、自らが神奈川1区選出の小此木彦三郎代議士の秘書を務めていた関係で、選挙区は神奈川2区であるため、図では神奈川県に区分されている。秋田出身だとすると歴代初となったところである。 民主党の代表選で前日選出された野田佳彦代表は2011年8月30日午後の衆参両院本会議で首相に選出され、第95代、62人目、千葉県出身で初の首相に就任した。新憲法下の総理大臣としては31人目であり、旧憲法下の31人とちょうど並んだ。 野田佳彦首相は、富山市八尾の農家の6人兄弟の末子で元自衛官の父親と千葉県のやはり農家の末子の母親との間の長男として、千葉県船橋市で1957年に生まれた。県立船橋高校、早稲田大の政経学部を卒業後、松下政経塾に第一期生として入塾。駅前での毎朝の演説(「朝立ち」)を86年10月からずっと続けて来た点に今も胸を張る。県会議員を経て1993年衆議院選挙に初当選。千葉4区(船橋市1市)当選5回、54歳。元国対委員長、前財務大臣。格闘技ファンの愛煙家。 (以前のコメント) 2010年6月4日午後の衆参両院本会議で民主党の菅直人代表が首相に選出され、第94代、61人目の首相に就任した。東京では5人目(戦後2人目)の総理誕生である。 菅首相は山口県宇部市生まれであるが、サラリーマンであった父の転勤に伴い東京都三鷹市に転居。東工大理学部卒業後、市民運動に参加し、参院選で故市川房枝氏の選対事務長を務めたことが、政界入りのきっかけとなった。父親が政治家でない完全非世襲の首相は村山首相以来16年ぶり。市民運動家出身の首相も戦後初。図で表現している出身県の位置づけもこれまでとは全く異なっている。選挙区は衆院東京18区(武蔵野市、府中市、小金井市)。当選10回。63歳。 2009年9月16日に衆議院総選挙後の特別国会が召集される。総選挙における民主党圧勝を受け、同日中に行われる衆院本会議の首相指名選挙で、北海道選出の民主党鳩山由紀夫代表が第93代、60人目の首相に指名された。北海道からの首相ははじめてとなった。 鳩山首相は、曽祖父の鳩山和夫元衆院議長、祖父の鳩山一郎元首相(初代自民党総裁)、父の鳩山威一郎元大蔵事務次官(外相)に続く政治家4代目であり、鳩山一族は全員東京生まれの東京育ちである。北海道には明治時代、和夫氏が牧場を経営した因縁で、「鳩山神社」もあるが、東京の鳩山家の地盤から弟邦夫氏が出馬していたため、由紀夫氏は「落下傘」で北海道から出馬したにすぎない。 2008年9月24日の国会で麻生太郎が総理大臣に指名され、59人目の首相となった。福岡県は2人目、戦後だけでは初の総理となった。 2007年9月25日の国会で福田康夫が総理大臣に指名され、58人目の首相となった。群馬県出身の4人目の総理であり、親子2代は初めてという。戦後だけをみれば群馬の4人という数は山口の3人を上回り最多となった。 振り返ると2006年9月の自民党の総裁選では、いわゆる「麻垣康三」の4人が候補となっていた。各候補者の出身県は、麻生太郎:福岡県、谷垣禎一:京都府、福田康夫:群馬県、安倍晋三:山口県であった。結果は安倍晋三総理が誕生し、このときは山口県出身の首相が1人増えた。 2.首相の出身県 ここでは、戦前戦後を通じた過去63人の首相の出身県を図録にした。
最も多いのは明治維新の主導地域長州の山口県で8人であり、東京都が5人、岩手県が4人で続いている。戦後は群馬県が4人で最多である。 地域ブロックでは、明治維新の震源地であった中四国・九州が多く、幕府側の抵抗拠点があった北海道・東北、関東以北は、比較的少ないという傾向がやや見うけられる。北海道・東北の中で岩手だけが4人と多いのも目立っている。この他、兵庫、奈良、和歌山、鳥取といった近畿周辺も空白地域としてやや目立つ。 空白県は19道県と、47都道府県のうち40.4%を占める。 総理大臣になるには若くして国会議員に当選し当選回数を重ね、政治家として先輩の立場に立った方が有利であり、そのため総理大臣には世襲議員が多くなる。その場合、出身地は地方でも育ちは東京、出身高校も東京の高校である場合が多くなる。 以下には、旧制高校出身最後の49代宮沢喜一総理(上で履歴を略述)以降の出身県、卒業高校・大学を掲げた。東京隣接県出身の小泉純一郎、野田佳彦2首相を除くと、出身県の高校卒業は、森喜朗、菅義偉の2首相だけであり、他はすべて東京の高校卒業である。そして、森、菅2首相以外の自民党の総理大臣はすべて衆議院議員(石破首相は県知事→参議院議員)を父親に持つ世襲議員なのである。
これは、参勤交代の制度から江戸時代の藩主は母親が住む江戸生まれ・育ちが多く、藩主にとって地元はむしろ単身赴任先のような位置づけとなっていたのと近い(竹村公太郎「広重の浮世絵と地形で読み解く江戸の秘密」集英社、2021年、p.14)。
(2006年7月10日収録、2007年4月16日更新、2007年9月25日更新、2008年9月25日更新、2009年9月7日更新、2010年6月4・5日更新、2011年8月30日更新、2020年9月14日更新、2021年6月28日出身高校・大学、9月10日同2021年自民党総裁選立候補者、9月18日同追加、9月29日岸田新総裁、9月30日更新、10月5日末尾表に通算在職日数追加、10月9日顔写真表示、2024年9月27日石破茂新総理)
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