政府の債務残高(SNAベース)の対GDP比の推移を国際比較した図を掲げた。

 1993年に発効したマーストリヒト条約下の通貨統合スケジュールの中で、1994年以降、EU各国の財政健全度が「財政赤字が対GDP比が3%を超えているかどうか。」及び「公的債務残高の対GDP比が60%を超えているかどうか。」で判断されることとなった。マーストリヒト条約ベースの債務残高は、SNAベースとは、貿易信用等が含まれない点や国債が名目価格で評価されている点などで異なっているが、一時期、EU主要国の債務残高の対GDP比が60%前後に収束する傾向が見られていたのは、やはりEUの財政規律の基準が効いていたためと考えられる。

 1990年代初めには60〜70%であった日本の債務残高は、失われた10年と呼ばれる長期不況の際に景気対策として実施された財政支出(図録5090、図録5165)によって借金がかさみ、最近は200%を大きく越え欧米諸国と比較しても特に大きい債務を抱えるに至ったことが明確である。これが、小泉政権で開始された厳しい財政抑制政策の根拠となったが、その後の状況は、図の通り、母数のGDPの拡大で比率を下げるという経済成長への空しい期待で財政の抑制がきかないまま推移していると言わざるを得ない。

 赤字国債の発行増には1990年代前半の米国からの減税要求が大きな影響を与えたといわれる。米国は、対日貿易赤字解消のための内需拡大・景気拡大を実現させようと財政赤字などには目もくれず強硬に減税を迫ったのである。そして1994年の国民福祉税(消費税率を3%から7%へ)の挫折により財政均衡は幻となった(NHKスペシャル「 862兆円 借金はこうして膨らんだ」2010.11.7放映)。米国の要求の影響は当時の公共投資拡大についてもあてはまる(図録5165)。

 主要国は、米国、英国、韓国を除いて、2006〜2007年には景気回復などにより債務残高比率が低下しており、日本も例外ではなかった。小泉純一郎元政権下で策定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(いわゆる「骨太2006」)が、歳出・歳入一体改革による2011年度の基礎的財政収支黒字化などを示す財政再建の指針として打ち出された効果があらわれているのである。

 ところが、その後、社会保障経費切り詰めなどに伴う国民の不満(格差拡大のおそれに対する反発等)に対して財政的対応が図られ、また2008年後半に顕在化した世界的な経済危機の中で、日本では2008年から2009年にかけて巨額な経済対策が講じられ(図録5090参照)、また2009年の政権交代により民主党政権が財政的裏付けが乏しい中で公約を実現しようとし、その後の安倍政権でも消費税増税を優先しアベノミクス期待や消費税増税による景気への悪影響を予防しようとして、財政再建は繰り延べしているので、再度、債務残高比率は反転、上昇しつつある。

 この結果、2018年には国の借金が下図のように太平洋戦争時と肩を並べる過去最大のレベルとなっている。


 EUの中でもイタリア、ギリシャは日本ほどでないが債務残高が大きいことで目立っている。またフランス、ドイツは1990年代後半には財政健全化の道を辿り、2000年代よこばい基調となったが2007年以降はリーマンショックや欧州債務危機の中で財政再建が進まず債務拡大傾向となった。ドイツだけは優等生的に縮小に向かっているが、英米仏は減らす方向になっていない。韓国も、債務残高のレベルは他国に比べ低いが、一時期増加傾向が目立っていた。

 リーマンショック後の経済対策による債務拡大傾向は日本以外の欧米諸国も同様と考えられる。2010年になってギリシャで国家財政危機が顕在化して欧州に金融不安が広がっているのもこうした基調変化が背景にあるといえよう。ギリシャの国家財政危機の背景の1つとして指摘されるシャドーエコノミーの大きさについては図録4570参照。

 2014年の情勢。EUの執行機関である欧州委員会は新たに付与された権限により、加盟国の予算案について各国議会に提出される前の段階で変更を求めることができるようになった。ところが、フランスやイタリアの政府は、景気が悪化する中でEUの求める水準の歳出削減は理に敵わないと主張。EUの要請を拒否する構えという。「フランスやイタリアなどの大国が新規則に違反できることになれば、EUの権限は信頼性が大きく傷つく恐れがある。ひいては、厳しい予算制度はギリシャやポルトガルといった小国しか対象にしないということになりかねない」という(ウォール・ストリート・ジャーナル2014年10月7日アジア版を紹介する毎日新聞2014年10月13日記事)。フランスではオランド大統領の支持率が過去最低であり、EUに従って歳出削減を行えば与党・社会党からも叛旗があがり、結果として反EUの極右政党、国民戦線(FN)の思つぼの状況にあるという。

 そして、リーマンショック後の世界金融・財政危機に次いで、2020年には新型コロナウイルス感染拡大のパンデミックにより、世界各国の債務は財政支出増によりさらに拡大し、ついに第二次世界大戦時の債務レベルに達することとなった(下図参照)。


 データを取り上げたのは9カ国、具体的にはフランス、ドイツ、イタリア、日本、韓国、スウェーデン、英国、米国、ギリシャである。

(2008年12月19日収録、2009年4月11日更新、2010年5月13日ギリシャ追加、5月31日更新、11月9日米国要求の影響コメント追加、2011年10月17日更新、2012年1月10日更新、6月22日更新、12月24日更新。2014年3月26日更新、10月13日2014年の情勢コメント追加、2016年2月2日更新、2019年12月17日更新、日本長期推移、2021年6月10日更新、世界の歴史的推移図、2022年12月11日更新)


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