買物などをクレジットカードで支払うことが多くなっている。買物後一定期間ののちに口座から引き落とされるのでなく、買物をするとその度直接口座から引き落とされるデビットカード方式も普及しつつある。拡大するネット通販によってカード決済が促進されている側面もある。

 プリペイドカード(電子マネー)を除くカード決済金額の対GDP比の推移を図に示した。

 日本やドイツで低く、英米、中国、韓国で高いなど、各国でカード決済の普及度には大きな違いがあるが、総じて、カード支払いは増加傾向にある(カード決済が現金決済と反比例の関係にある点については図録5098参照)。

 日本の場合は、2005年に対GDP比6.6%が2016年には1.54倍の10.1%へと拡大している。

 特に中国の場合は、2006年の8.9%から2016年には75.7%へと実に8.5倍の急拡大を示し、世界一のカード決済国になっているのが目立っている。これは急速に普及した全てのスマホ端末に基本、個人ID(身分証明書)と銀行口座がひも付けられ、スマホを使ったネット通販やタクシー予約、各種シェアサービスなどを通じ、カード決済が支配的となったためと考えられる(ダイヤモンド・オンライン記事、図録5098参照)。

 中国におけるデジタルエコノミーの普及は驚異的である。経済評論家の加藤出氏の報告によれば、「デジタル通貨の普及により、中国の大都市では現金を持たない人が本当に増えた。路地裏にある小規模な精肉店でも現金で買う客は少なく、デジタル決済用のQRコードが柱に貼ってある。...スマートフォンで指示すると、配達員が飲食店に買いに行って届けてくれる「ネット出前」も爆発的な普及を見せた。オフィス街ではランチタイムに多くの人がこれを利用している。...高校生の娘がいる友人の話では、生徒がスターバックスのフラペチーノなどを「ネット出前」で休み時間に校門まで配達させることも日常頻繁に行われているという」(ダイヤモンド・オンライン「こんなに早い中国のITサービス普及、日本のスピード感で大丈夫か」)。

 同氏の次のような結論はまあ妥当だろう。「なぜ日本ではデジタルサービスの展開が遅くなっているのだろうか。一つには政府の規制が多方面で厳しいことが挙げられる。また、従来のアナログサービスの質が高いことが逆に新サービスへの需要を阻んでいる面や、社会が高齢化して新しいサービスに飛び付く好奇心が低下している面もあるように思われる。日本のデジタルサービスは全て中国のようになるべきだと言っているのではない。しかし、近年見られる日本の変化の遅さは、将来において多方面に影響してくるのではないかと気になっている」。

 この図録で掲げた中国の突出ぶりを見ると、私は、むしろ、とんでもない落とし穴が中国の経済社会に待っているのではないかということが気になる。銀行破綻あるいはシステム障害によりカード決済が出来ない事態に至ったとき中国人はどうやって生活を続けていくのだろう。

 さらにスマホ情報を通じた行き過ぎた監視社会や社会の分断も懸念される。東京新聞(2018年5月30日)はこう報告している。

「中国では2015年から、IT企業アリババグループが電子決済サービス「アリペイ」の追加機能として「芝麻(ジーマ)信用」を開始。電子決済の履歴を通じて買い物傾向を細かく分析するほか、SNS上の交友関係などインターネット上の行動履歴まで捕捉し、AIが信用できる人物かどうか算出する。スコアが高いと低金利でお金を借りられるのはもちろん、飛行機に乗る際に特別な搭乗口を利用できたり、ホテル宿泊やレンタカーなど同国ではさまざまな場面で求められる「デポジット(預け金)」が不要になったりする。利用者は爆発的に増え、数億人といわれる。生活が数値で自動的に管理され、利用者がスコアを競う姿は近未来の監視社会を描いたSF映画さながら。だが、スコアが低いと就職で不利になったり、高級店に入れないなど差別的扱いを受けることもあり、「バーチャル・スラム(仮想現実での下流層)」の懸念も指摘されている」。

 日本でも、みずほ銀行とソフトバンクの合弁会社「Jスコア」が、職業や収入のほか陽気に振舞うかなど最大150の質問への回答からAIでスコアを算出し、これを基にした個人向け融資を展開し、利用者を増やしているという。大森隆一郎社長は「今後は外部企業もスコアを活用できるよう」にしたいといっている。将来はスコアが何点以上でないと社員として採用しませんというような企業が現われるかもしれない。

 スマホを通じて個々人が相互にランクづけし、ランクの低い人間は皆から軽蔑されるだけでなく、望みの住居が借りられなかったり、飛行機にも乗れないような生活の不便を強いられる未来社会の恐怖を描いた英国TVドラマがある。ブラック・ミラーのシリーズ3の1話目「ランク社会」(2016年NETFLIX放送、原題Nosedive:急降下)である。これはシリーズの中でも評判が高いエピソードとなっている。

 取り上げているCPMIメンバー国は、ドイツ、メキシコ、日本、イタリア、スイス、ブラジル、オランダ、ベルギー、インド、シンガポール、フランス、南アフリカ、トルコ、スウェーデン、香港、ロシア、米国、カナダ、オーストラリア、サウジアラビア、英国、韓国、中国である。

(2018年5月23日収録、5月24日加藤氏記事引用、5月30日スコア社会化、2021年2月27日「ランク社会」)


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