「東海から九州沖を震源域とする「南海トラフ巨大地震」について、中央防災会議の作業部会と内閣府の検討会が29日、死傷者や浸水域など被害想定を発表した。」全国の死者数が最悪となるのは冬の強い風(秒速8メートル)の深夜に駿河湾から紀伊半島沖の断層が大きく動くケースであり、この「最悪のケースでは死者32万3000人、倒壊・焼失建物が238万6000棟に上り、1015平方キロが浸水する。内閣府は「発生確率は極めて低く、対策を取れば被害を減らせる」として冷静に受け止めるよう強調している。」(毎日新聞2012.8.29)
32万人という数字がテレビ新聞で大きく報道された。ここでは都道府県の死者数の最大想定をグラフにした。都道府県ごとに想定ケースが異なるのでこの図のような事態が全国で一気に起こるわけではない点に注意が必要である。なお、想定される最大津波については図録
4382参照。
津波、建物倒壊、火災の内訳別には津波が中心となっている。東日本大震災、阪神・淡路大震災、関東大震災の死因構成の違いについては図録
4363f参照。
元資料は内閣府報道発表資料
「南海トラフの巨大地震に関する津波高、浸水域、被害想定の公表について」である。
- 東海地方
- 最大の被害が想定されるのは静岡、愛知、三重の東海地方である。その中でも静岡県の被害想定が最も大きい。静岡県の津波による死者数は95000人と全国1である。このように津波による被害が最も大きいが、揺れの被害も甚大であり、建物倒壊によって多くの死者が出ると予想されている。愛知県では建物倒壊による死者が15000人と静岡の13000人を上回って全国1であり、津波や火災による被害想定を大きく上回っている。
- 関東・甲信地方
- 関東地方は津波による被害のみである。東京都は島嶼部における津波被害のみであり23区に人的被害は出ない想定である。山梨、長野、岐阜の3県については建物倒壊による人的被害のみが想定されている。
- 近畿地方
- 近畿地方の最大被害地は和歌山県であり人口がずっと多い大阪府の10倍以上の被害想定となっている。大阪府は大阪湾の奥にまで数メートルの高さで押し寄せる津波被害に加えて、建物倒壊や火災による死者が多く出ることが想定されている点が特長である(大阪府の火災による死者2100人は2位の愛知県1800人を上回る最大規模)。これは木造密集地域が多いためである。兵庫県の被害が大きいのは最大9メートルの津波が襲う淡路島地域を含むためであると考えられる。
- 中四国地方
- 最大の津波が襲うと想定されている高知県に加えて徳島県の人的被害が大きいと考えられている。瀬戸内海沿岸地域は大きな津波が来ないので比較的被害が小さいが、合併伊方町が全域を占める佐田岬より南の地域を含む愛媛県では高知、徳島に次いで被害が大きいと想定されている。
- 九州地方
- 宮崎県と大分県で津波を中心として被害を大きく受ける想定である。
2024年8月8日に発生した最大震度6弱(宮崎県日南市)の日向灘を震源とするマグニチュード(M)7.1の地震で気象庁が初の「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。
南海トラフ地震臨時情報は、想定震源域でM6.8以上の地震が起きると第一段階の臨時情報「調査中」が発表され、その後、有識者による評価検討会が開催され、速報されるマグニチュードよりも地震のエネルギーを正確に反映されるとされる国際的な指標「モーメントマグニチュード(Mw)」が8以上であれば「巨大地震警戒」、7以上8未満の地震などの場合は「巨大地震注意」が発表される。今回の日向灘の地震はMw7.0であった。
今回の同規模のM7級の地震は1923年以降、7回発生しており、直後に巨大地震が発生したケースはない。しかし、直前の巨大地震(昭和東南海、南海地震)から約80年たっており、震源域ではひずみがたまっているとみられ、その点は中位が必要である(東京新聞2024.8.10)。