日本のチョウ(蝶、蝶々)のうちの代表的な種を図示した。掲載したチョウの特徴は以下の通りである。 日本の蝶
国内にチョウは約240種、ガは6000種が生息している。チョウは日本人を取り巻く自然の中の代表的な生き物のひとつとして親しまれている。最近では、チョウは他の動植物と比較して環境の変化の影響がいち早くあらわれることから自然の状態がどれほど失われてきているかの指標生物となっている。 蝶には花から花へと飛び、みつを吸ってまわる華やかで気まぐれな存在というイメージがある(フランス語のパピヨンにはこうした含意)。また、どこからか急に現れ、ヒラヒラと舞う姿がこの世のものでない精霊や死者の霊が化したものであるかのように感じられることがある。中国の「荘子」に魂が蝶となって夢の中で遊んだ話があるのもこうした感覚にもとづいていると考えられる。日本では蝶が和歌に詠まれることは案外少なかったが、これは死者霊を想起させ不吉だからという説もある(丸谷才一)。蝶の読みの「ちょう」は音読みであり、訓にあたる読みはない。「かはひらこ」という和語があったが消えてしまった。 江戸時代になると、荘子の胡蝶の夢の話がことに好まれ、夢から覚めた感覚をあらわす次のような俳句がよまれた。蝶は春の季語である。 雪隠を出れば驚く小蝶哉 蕪村 島原の草履にちかき小蝶哉 〃 ここで島原とは京の遊廓のことであり、島原からの帰りに草履をはくとき、そこで遊んだ時間が夢のように感じらるという訳である。蕪村には、さらに、こうした感覚に加えて、蝶とはかけ離れた存在との対比が印象的な名句がある。 伏勢の錣にとまる胡蝶哉 蕪村 *錣(しころ):兜から垂れた覆い 釣鐘にとまりてねむるこてふ哉 〃 さらにこうした想念をすべて含み込んだ次のような句もある。 うつゝなきつまみごゝろの胡蝶哉 蕪村 なお、蕪村俳句の季語ランキングについては図録3990a参照。 (2014年4月30日収録、2016年1月18日ルビ表示)
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