東アフリカ、タンザニアの北部、ケニア国境近くに自然保護のために設けられているセレンゲティ国立公園の広さは14,763km2。四国全体の面積よりも広い。果てしなく広がる大草原にアカシア、ユーフォルビアなどの樹木が点々と生えている典型的なサバンナ景観と約300万頭の大型哺乳類が生息しているといわれる動物相からアフリカで最も有名な国立公園となっている。

 サバンナのたんぱく質含有量の多い草を基礎として生息しているといわれる多様な大型哺乳類の頭数内訳をグラフ化した図録を掲げた。

 動物たちの中で最も多いのはヌーであり、130万頭と全体の4割以上を占めている。第2位〜第3位は、トムソンガゼルの98万頭、シマウマの50万頭であり、第4位のインパラ7.5万頭を大きく凌駕している。ヌーとシマウマとトムソンガゼルという主要草食獣3種で全体の9割以上を占めているのが目立っている。

 その他草食獣の中でも7万頭台のインパラやアフリカスイギュウと3千頭台のグラントガゼル、ウォーターバック、アフリカゾウとで頭数の差が大きい。

 草食獣は、固い草を噛むための歯、分化した胃と腸内細菌をもつ反芻動物の偶蹄類、ゾウの鼻、キリンの首、サイの唇、シマウマの門歯といった特殊なしくみを備えて植物食に適応してきた。有蹄類の丈夫な肢と蹄は、乾期と雨期の植生・水場変動を乗り越えるための移動に役立つ。草食動物の分布には「食い分け」が存在しているといわれる。「シマウマは他のウシ科動物と違って上下に咬み合う門歯をもち、盛りの緑の草を食べる。ヌーはおもに葉だけを好み、シマウマが食べたあとに出芽してくる多年草が大好物といわれる。トムソンガゼルは、小さな口でもっとも柔らかい葉を選びつつ食べる。トピは、一般に他のレイヨウ類がきらう枯れた茎などを食べる。...トムソンガゼルと、体重が2倍以上もある大型のグラントガゼルとはよく同じ地域で見られる。グラントガゼルは草も食べるが、トムソンガゼルよりもよく木の葉を食べるので、ほとんど水を飲まずにいられる」(小原秀雄「草の海と草食獣たち」(朝日百科「世界の植物」1978))。

 ツェツェバエはインパラ、ガゼルなどアンテロープの血液を吸って生きているが、アンテロープはツェツェバエが媒介する原虫による病気に対する耐性を持っている。しかし耐性をもたない人間と家畜にとっては、感染したアンテロープの群れを食糧にするのは死を意味する。そこでコンゴなどツェツェバエの生息地域では、人間は捕食者としての役割をライオンに譲らざるをえなかった(W.H.マクニール「世界史」下、中公文庫、p.282)。これがハマダラカが媒介するマラリア原虫の蔓延とともにアフリカをかつて暗黒大陸と呼ばせた要因の1つだった。

 肉食獣は合計しても3.3万頭と全体の1%強と頭数的に少ない。肉食獣の中ではジャッカルやハイエナの頭数が多い。「サバンナにおける肉食獣の数は意外に少ない。ライオンが豊かに食べて生きていくとしても、えものは1頭当たり年間2300キロ程度が必要なだけという。セレンゲティにおける草食獣と肉食獣の生体量と数を、単純に計算して当てはめてみても、草食獣の方がはるかに多いといえる」(同上)。

 なお、アフリカでは大型動物の種類が他の大陸より豊富である点、また、その理由は、アフリカ起源の人類との共存の歴史が長いからだとする電撃戦説を図録4170で紹介している。

 以下に図に登場する動物たちの分類(目、科、属)を掲げる。

区分 動物名 属する目・科・属
草食獣 ヌー 偶蹄目ウシ科ヌー属
シマウマ ウマ目ウマ科ウマ属
トムソンガゼル 偶蹄目ウシ科ガゼル属
グラントガゼル 偶蹄目ウシ科ガゼル属
イランド 偶蹄目ウシ科イランド亜属
トピ 偶蹄目ウシ科ダマリスクス属
ハーテビースト 偶蹄目ウシ科ハーテビースト属
インパラ 偶蹄目ウシ科インパラ属
ウォーターバック 偶蹄目ウシ科コーブ属
キリン 偶蹄目キリン科キリン属
イボイノシシ 偶蹄目イノシシ科イボイノシシ属
アフリカスイギュウ 偶蹄目ウシ科アフリカスイギュウ属
アフリカゾウ 長鼻目ゾウ科アフリカゾウ属
肉食獣 ライオン 食肉目ネコ科ヒョウ属
ヒョウ 食肉目ネコ科ヒョウ属
チータ 食肉目ネコ科チーター属
ブチハイエナ 食肉目ハイエナ科ブチハイエナ属
リカオン 食肉目イヌ科リカオン属
セグロジャッカル 食肉目イヌ科イヌ属
キンイロジャッカル 食肉目イヌ科イヌ属
(資料)ウィキペディア等

(2009年7月1日収録、2020年10月14日図改良、2024年1月28日ツェツェバエ)


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