天然ガス発電の発電コストは、天然ガスの調達コストで変わってくる。そこで、図には、天然ガスの輸入価格をLNG(液化天然ガス)とパイプラインとの分けて20数年の実績を示した。

 日本や韓国の天然ガス(LNG)の輸入価格は、米国やEU平均のLNGあるいはパイプラインのいずれの輸入価格と比較してもかなり高くなっている。とくに2010〜13年には日本は韓国より高くなっている。東日本大震災と原発事故におそわれた2011年3月以降は、発電源の天然ガスシフトが起こったため、輸入価格が大きく上昇した。米国以外の国でもやはり天然ガスの輸入価格は大きく上昇した。

 2015年〜16年には日本も海外も輸入価格が大きく下落したが、日韓の天然ガスが相対的に高い点は変わらない。。

 米国の天然ガス輸入価格は2009年に大きく下落し、その後、他国、他地域のような上昇傾向から独立して横ばいの傾向だった。これは、米国においていち早くシェールガスが実用化されたためと考えられる(図録4118参照)。2014年前後には高騰したがその後また収まっている。

 こうした動きは、資源価格についてのIMFデータでオランダ、日本、米国における天然ガス価格の動向を示した図録4714でも明らかであるので参照されたい(以下にその図を再掲)。


 こうした天然ガスの輸入価格の国別の違いは、原油の場合は輸入価格にほとんど国別の差がない点と比較して印象的である(下図参照)。


 LNGとパイプラインの相対価格は、EUではウクライナなど経由国をめぐる輸入元ロシアとの緊張関係もあり、最近、パイプラインの方が高くなっているが、米国の場合は、パイプラインの方が概して価格が低い傾向にある。

 発電の方法による発電コストの見直しが、原子力発電(原発)の事故コストや稼働率の想定をめぐって論議されている。毎日新聞はこう報じている(2011.11.08夕)。

「東京電力福島第1原発事故を受け、重大な原発事故に備えるための「事故コスト」を試算している内閣府原子力委員会の専門部会は8日、被害額などの想定を見直した結果、事故コストは1キロワット時当たり少なくとも0.006〜1.6円になると修正した。試算は原子力委に報告後、政府が12年夏をめどに新たなエネルギー政策を策定する際の参考資料になる。試算は、出力120万キロワットの新設炉が重大事故を起こす事態を想定。被害推定額と発生確率をかけ、稼働率60〜80%の年間発電量で割って算定した。発生確率は最小で国際原子力機関(IAEA)の基準を満たす場合の「10万年に1回」、最大で全国の原発が延べ1500年近く稼働し、今回原子炉3基が事故を起こした国内の実績に基づいて「500年に1回」とした。」

 コスト検証委員会の最終的なコスト計算結果は以下である(図録j009)。


 発電方法相互の比較の議論は、もっぱら原発の発電コストの想定に集中しているが、LNGを米国やEU並みの価格で輸入できたらという想定は報道されていない。LNG船による輸送距離、輸送コストの違いやスポット契約なのか長期契約なのかなど種々の条件の想定が必要であるが、欧米並みの価格が可能なら原発の発電コストは天然ガス発電より確実に高くなるのではと思われる。

【コラム】天然ガスの価格事情

 週刊エコノミスト(2012年2月28日号)は天然ガスの価格事情について以下のように紹介している。

「天然ガスは原油と違い、パイプラインで輸送するか、専用の液化プラントでガスを冷却してLNGにして専用タンカーで運ぶ以外、輸送方法がない。このため、地域で値段が異なり、需給で決まる米国産のガス価格は現在、急落しているが、日本や韓国が輸入するLNGは原油価格に連動するため、逆に急騰している。

 世界の市場は主に北米、欧州、アジア太平洋の3つ。国産ガスを産出する米国には全土にパイプライン網が整備されており、純粋に需給で価格が決まる。ルイジアナ州のヘンリーハブというガスの集積地でガスが売買されており、ここでの取引価格が全米の指標となる。

 現在、米国は暖冬のうえ、近年シェールガスという新型ガスの商業生産が本格化しているため、価格は急落している。ガスの価格は英国熱量単位(BTU)で表示されることが多く、現在のヘンリーハブの価格は100万BTU当たり2ドル40セントと歴史的にも低い価格で推移している。米国産ガス価格は08年に寒波の影響で一時15ドル台まで高騰したことがあるが、ここ10年の年間平均価格は、2〜8ドル台で推移している。

 一方、欧州も全土に国境を越えたパイプライン網が整備されており、ロシア、北アフリカ、ノルウェーからパイプラインでガスを購入できるほか、英仏など欧州5カ国にLNG受け入れ基地がある。パイプラインとLNGの双方を購入できることから、競争原理が働き、日本より安いガスを購入できている。欧州でスポット取引されているガス価格は現在、100万BTU当たり8〜9ドルで、これは日本が現在購入しているLNGのほぼ半値の水準だ。

 一方の日本や韓国はLNGを輸入する以外、ガスを購入する方法がないため価格交渉力がなく、事実上、売り手の言い値で買わざるを得ない。現在、日本が輸入しているLNGは7800万トン。スポットで購入する価格はその時の需給で決まり、長期の契約は日本が輸入する原油平均価格に連動する値決め方式のため、昨年10〜12月に日本が輸入したLNGの平均価格は100万BTU当たり約16ドルと米国の6倍、欧州の2倍程度の価格となっている。このため、日本の一部の電力・ガス会社では、原油価格連動の値決め方式の変更を検討し始めたところもある。」

 原油価格連動だけでなく、買い手による転売を禁止する「仕向け地条項」まである。「日本に輸入されるLNG契約のほとんどにこの条項が付く。条項がなければLNGを購入する電力、ガス会社や商社は他社に融通できるため、自社の利用量に左右されない大口の契約を結ぶこともできる。また積極的なトレーディング(取引)事業で利益を拡大することも可能だ」(毎日新聞2015年10月2日)。こんな生産国側に一方的に有利な契約条件がいつまでも続いているのはヘンである。

 東京新聞(2012年2月25日)は「電気値上げ−燃料費高値買いは背信だ」とする社説を掲げ、日本の天然ガス輸入価格の高さを電力業界の怠慢によるものとしている。

「ドイツはパイプラインで輸入するロシア産と、LNGで輸入するカタール産などを競わせて値引きを迫れるが、日本には産ガス国との間を結ぶパイプラインがない。

 電力業界は高値の理由をこう説明しているが、同じ条件下の韓国は日本企業が投資したロシアのサハリン2から日本の半値以下で輸入し、3年後にはガス輸出国に転じる米国とも安値で契約済みだ。なぜ電力業界は、のほほんと大手を振っていられるのか。主たる理由は原燃料費調整制度の存在だ。

 産ガス国が値上げしても、為替変動で輸入価格が上昇しても、上がった分を電気料金に自動的に上乗せできる制度なので、過保護を見抜かれた電力業界は産ガス国の言い値で押し切られてしまう。

 産業界からの批判を避けるため、大口企業と割引契約を結んでいるともいわれている。中小・零細企業や家庭など、力の弱い需要家ばかりにツケを回し、声の大きい企業は割引で黙らせる。

 こんなあしき構造を許しては原燃料費調整制度を続ける政府も背信のそしりを免れない。円高を活用した海外ガス田の権益獲得など燃料調達も視野に入れた料金制度のゼロからの見直しを求める。」

 自動的な価格上乗せ制度は、実際より高い価格で買ったことにして差額を産ガス国や日本の政官界に流す余地があるということなのでよっぽど厳格なモニターリングが平行して制度化されていなければならないと考えられる。

(2011年11月21日収録、12月13日発電コスト計算結果掲載、2012年1月9日更新、1月10日原油輸入コストの図を追加、2012年2月24〜25日コラム追加、4月13日更新、2013年9月2日資料を同じIEAの統計であるが"Energy Prices and Taxes"から"Natural Gas Information"に変更して更新、2014年8月22日更新、2015年10月4日更新、仕向地条項コメント追加、2016年10月13日更新、2018年2月16日更新)


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