(ウクライナ侵攻)

 2022年2月にロシアがウクライナに侵攻した。ヨーロッパ諸国の天然ガス対ロシア依存が再度話題となっているので最新データを掲載した。図には過去との比較のために2011年の値も示した。天然ガス・パイプラインの状況も末尾に加えた。

 2013年のクリミア併合前年と比べると、ロシアとの争論でウクライナが51%から0%に減らし、その他の東欧や旧ソ連国でもロシアの影響からの脱却を図ってか、天然ガス依存度を低下させていた国が多い(注)

(注)ハンガリーは旧共産圏としては例外的にロシア依存度をむしろ高めている。2010年に首相に再登板したオルバーン政権はロシアや中国との関係を深める東方開放政策を進め、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にも、国益に反するとしてウクライナへの軍事支援を拒否。他のNATO諸国と一線を画した(2022年4月に再選)。そういったハンガリーの特殊な立場が天然ガス依存度にもあらわれているといえる。

 セルビアも親ロシア感情が強く、もう1つの例外国となっている。90年代コソボ紛争におけるNATO軍空爆により大きな打撃を受けたセルビアを支援したのは多数のロシア人義勇兵だった。さらに溯れば、オスマン帝国時代、ロシアは汎スラブ主義を掲げてセルビアの独立を支援し400年に渡るトルコ支配から解放したという経緯もある。このため、ブチッチ大統領は、EU加盟を目指す一方、ロシアとの関係も重視。ロシアのウクライナ侵攻を非難する国連総会の決議では賛成にまわったが、対ロ制裁には加わらず、欧州とロシアの間でバランスを取ることに腐心してきた(2022年4月に再選)。

 例えば、リトアニアは2009年に電源構成の70%以上を占めていたソ連製原発を停止させ、海岸部にLNG受け入れ設備を整備するなどエネルギーの脱ロシア化を進めてきたが、2022年4月2日には「ロシアによるウクライナ軍事侵攻を考慮し、ロシア産の天然ガス輸入を完全に停止したと発表した。ロシアの国営ガス大手ガスプロムからガスを購入するEU加盟国では初めての試みという」(東京新聞2022.4.5)。

 これに対して、ドイツ、オランダ、スウェーデン、スペイン、ベルギー、英国など主要欧州国の天然ガスの対ロシア依存度はむしろ高まって来ていた。脱炭素へ向けた世界ルール化で主導権を取って欧州の繁栄を取り戻そうという戦略の下、再生可能エネルギーが主力化するまでの経済的つなぎとして天然ガスをとらえていたからであるが、ウクライナ侵攻後の現在から考えると、経済を重視する余りロシアを甘く見ていたと言わざるを得ないだろう。

 それでは日本は、という点を下図に示した。日本の天然ガス供給はパイプラインではなく全量、運搬船によるLNGなのでLNG輸入のロシア依存度の8.8%がそのまま当てはまる。


 ロシア極東サハリンで日本が関わる石油・天然ガス開発事業では、英BP、米エクソンモービルなど米欧企業が相次ぎ撤退を表明しているが、日本は調達先の多角化を進める上で、中東などに比べて距離が近く、資源の豊富なロシアを重視してきた経緯から、難しい対応を迫られている模様(東京新聞2022.3.8)。

(クリミヤ併合時のコメント−図は変更)

 ウクライナでは、2014年2月の政権崩壊以降、首都キエフを含む親EUの西部とロシア人が多く親ロの傾向の強い東部の地域性の違いを背景に、欧米やロシアの対立を含んで国内の政治混乱が続き、クリミア半島の地方政府が行った住民投票で決まったロシアへの編入をロシアが了承したことから世界の関心を集めている。そこでにわかに重要課題として浮上したのがEU諸国におけるエネルギーのロシア依存の状況についてどう対処するかである。

 EUとロシアは複数の天然ガスパイプラインで結ばれており、中でもウクライナを通るパイプラインは大きなシェアを占めている。ここでは、EU各国の天然ガス供給に占めるロシアへの依存度を示した。ロシアからの天然ガス供給への依存度はEU平均で24%。80%以上の国が7カ国。主要国ではドイツの37%、イタリアの29%が高くなっている。一方、英国やスウェーデンではロシア依存度はゼロである。

 ヨーロッパの天然ガス供給体制について、東京新聞はEUが策定しようとしているエネルギー安全保障と関連付け、こうまとめている(2014年4月11日)。

「欧州にはロシアからウクライナやベラルーシなどを経由して天然ガスを送るパイプラインがくまなく走る。クリミア半島を併合したロシアにEUが経済制裁を科さないのは、ガス供給停止といった報復を恐れていることが影響している。

 EUが検討しているのは、供給停止などの緊急時に備え、隣国に融通して助け合うためのパイプラインの接続と備蓄体制の拡充に加えて、ロシア以外からの輸入先確保と代替エネルギーの開発を中長期にわたって進める−という内容だ。

 欧州には、欧州向け天然ガスの5割が通過するウクライナをめぐる苦い経験がある。2006年と09年、ガス料金の値上げなどをめぐる争いからロシアがウクライナへのガス供給をストップ。欧州向けは無関係にもかかわらず、09年にはブルガリアなどに真冬の2〜3週間、ガスが全く来ない事態となった。

 この教訓からEUは、パイプラインの接続を推進。ハンガリーとルーマニア、クロアチア、スロバキアが結ばれ、チェコとポーランドも接続。最大輸入国ドイツからはポーランドやチェコ、イタリアにも送れるようになった。ロシアにガス供給を頼るブルガリアやバルト三国も、隣国との接続を急ぐ。

 こうした緊急時対策は進むものの、代替源は見あたらないのが現状だ。

 ロシアと並ぶ供給元のノルウェーは増産できてもロシア分の16分の1を賄える程度と専門家は分析。液化天然ガス(LNG)も、カタール産は単価の高い日本などアジアに振り向けられ、アルジェリアやリビアなどの北アフリカは政情不安で供給が安定しない。

 米国産シェールガスへの期待を高めるEUは、米国とエネルギー協力の話し合いを今月から始めた。ただ米国がLNGを輸出できるようになるのは15年以降で、欧州への輸出に踏み切るかはまだ分からない。

 EUはロシアの全輸出の6割を占め、その8割が天然ガスや原油などエネルギー資源。欧州のロシア離れは、ロシアの歳入源が失われることを意味する。専門家は英紙フィナンシャル・タイムズで「ロシアはガスの単価を下げてでも、EUの取り組みを阻むだろう」と予想している。」

 東京新聞はこの記事に図録に掲げた英国エコノミスト誌データをやはり掲載している(残念なことに新聞掲載図では依存度の小さい国やゼロの国を省略しているので説得力がかえって落ちる結果となっている)。この記事と同様の内容を記述した後にエコノミスト誌は次のように総括している。「ヨーロッパは天然ガスの24%をロシアから得ている。その半分(年800億立米)はウクライナ経由となっている。(中略)エネルギーの備蓄、相互融通、供給源多角化、自由化、シェールガス開発、そして省エネに関するヨーロッパの意思決定はのろのろしているが、クリミア併合のショックを契機にこれらについての意思決定を早めるべきであろう。政策決定の当事者たちはプーチン氏をひどく嫌っているようであるが、うらではいい機会を与えてくれたと認めるであろう。何をなすべきかは分かっている。ただしようとしていないだけである」(The Economist April 5th 2014)。

 世界のパイプライン及びLNGによる輸出入状況については図録4120参照。


 データを掲げた国は、依存度のたかい順にハンガリー、ラトビア、北マケドニア、モルドバ、チェコ、スロバキア、ブルガリア、フィンランド、ドイツ、セルビア、リトアニア、エストニア、ポーランド、イタリア、ギリシャ、オランダ、トルコ、ルクセンブルク、フランス、スウェーデン、スペイン、ポルトガル、スロベニア、ルーマニア、ベルギー、英国、ノルウェー、デンマーク、アイルランド、クロアチア、オーストリア、アルバニア、ウクライナである。

(2014年4月10日収録、4月11日東京新聞記事引用、2022年2月25日最新データ、パイプライン図、3月8日日本のロシア依存度、3月23日データ源をEurostatに変更、3月24日過去データの時点を2011年からクリミヤ併合前年の2013年に変更しコメントも改変、3月26日(注)ハンガリー、4月5日リトアニア、(注)セルビア、コメント補訂)


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