この調査では、お役所の調査らしく、なりたい職業の選択肢も下に示したように厳密に長たらしく定義しているので、マスコミが取り上げるには不便である。このため一般には引用されず、目に止まることもないのであろう。ここでは、選択肢名の中から代表的な職業、あるいは小中学生が主に着目していると想定される職業に絞って略称とした。例えば、「パン屋,ケーキ屋(ケーキ職人,パティシエ),花屋」は「パティシエ」と単純化した。また、「コンピュータ関係(システム・エンジニア,ソフト開発など)」は「ゲームクリエーター」と大胆に言い換えた。 小学校高学年の男子では、「スポーツ選手」が択一回答で3割以上と圧倒的である。中学生でも男子では「スポーツ選手」がトップであるが、回答率は15%と半分になる。小学生のうちは夢のようなあこがれの感覚でいるのに対して、中学生では本当になれるのかなという現実感が少し増してくるのであろう。実際、中学生男子の2位は「公務員」という生活上の安定を象徴するまことに現実的な職業が来ているのである。 小学校高学年の男子のそれ以外の上位職業は、「医師」、「警察官」、「ゲームクリエーター」、「大学教授」、「運転士」などである。このうち「警察官」と「運転士」は中学生では順位がぐっと下がるので、夢の要素が強い職業だということがうかがわれる。「警察官」は「踊る捜査線」のようなテレビドラマや映画の影響であろう。特に中学生で順位の低下が著しい「運転士」は子どものころ熱病のように取り付かれることの多い電車マニアのなせる業だろう。 また、男子では、小学生、中学生ともに、「ゲームクリエーター」へのあこがれが女子と比べると大きい。男子では、上述のように中学になると「公務員」が上位となるのも目立った特徴である。 小学校高学年の女子では「パティシエ」がトップであり、人気のほどがうかがわれる。これは中学生ではぐっと順位を下げるので夢的な側面の強い人気だということが分る。だいたい、ケーキ作り職人の需要は限られているのに、女の子の10人に1人は、これになりたいというのは妙な話だ。2015年前半のNHK朝のテレビドラマ「まれ」はパティシエ修業の女性の話であるが、どうしても余りに非現実的な少女マンガ感覚がぬぐい得ないので共感しにくいのである。 2位の「保育士」(幼稚園の先生)、3位の「看護師」、あるいは7位の「獣医」では、中学生でも上位を維持する。それぞれ、子ども、病人、ペットと対象は異なるが、ケアする仕事に女性は小さいときから強くあこがれるのだということが分る。もちろん、これは母性の予行演習的な要素のあらわれといえよう。「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」という有名なボーボワールの見解は、生まれつきに近いこれらの職業への小中学生の根強いあこがれを考えると本当かなと疑わせるのに十分である。 また、女子では、小学生、中学生ともに、「タレント」、「デザイナー」へのあこがれが男子と比べると大きい。歌手や俳優、ファッションなど、はなやかな世界へのあこがれが強いのであろう。 男女に関わりなく、小学生の段階では順位の低かった「学校の先生」が中学では男女とも4位に浮上するのも目立っている。毎日会っている学校の先生になりたいという感覚は、夢に夢見る小学生的な段階から現実存在に夢見る段階への進歩なのだろう。
(2015年7月8日収録)
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