終身雇用慣行(長期継続雇用慣行)は、年功序列、企業別組合と並んで日本型経営システムの3本柱の1つといわれる。この慣行に関する企業意識がどのように変化してきたかを企業規模別に調べてみた。 厚生労働省の雇用管理調査は、採用管理と採用後管理と退職管理の3分野をほぼ毎年順繰りに調査しており、雇用慣行については採用後管理の調査時に調べていた。他のアンケート調査と異なって1988年からほぼ3年おきに2002年までの10年以上の企業意識の変化を知ることが出来る(2004年調査をもって調査廃止となった)。 どの年をとっても大企業と中小企業とを比べると、大企業の方が終身雇用慣行を重視しているが、変化の方向は、同じである。すなわち、1988年から1993年にかけては、終身雇用慣行を重視する企業が増加していたが、それ以後は、逆に終身雇用慣行重視の企業は激減している。終身雇用にこだわらないとする企業の割合の変化は、重視する企業割合とほぼ正反対の動きを示している。 終身雇用重視に関し、大企業と中小企業とで変化の方向は同じであるが、大企業の場合、1980年代のレベルからかなり低下しているのに対し、中小企業の場合は、当初余り重視していなかったのが93年までに重視する企業割合が急速に増加した後、再度重視割合が低下したという違いがある。日本の競争力の高さが世界的にも注目された1980年代には、その一因として終身雇用が着目されたため、もともとはそうした意識は薄かった中小企業までそうした雇用慣行を目指したが、90年代に入ってむしろ日本型経営に関して疑問が付されるようになると中小企業ももともとの意識に戻ったのだといえよう。 2.良い終身雇用、悪い終身雇用 以上のような動きを、単純に、終身雇用慣行の見直しが進行しているという結論で終わらせることは出来ない。ここで注目したいのは、「どちらともいえない」とする企業割合の増加である。この割合は、大企業では、最大割合となっているし、中小企業でも近年大きく割合を増加させている。 この点の解釈としては、「日本型から欧米型への転換の中で振り切れないでいる」ともとれるし、「終身雇用のいいところを残した新日本型へ向け努力している」ともとれる。 現在のところ実証的データをもとに論証は出来ないが私は後者であると思う。欧米と違いブルーカラーにまで適用された終身雇用慣行が知的熟練の形成や長期的なモチベーションの維持といった点で日本企業の競争力へもたらした寄与度はやはり非常に高いと言える(小池和男「仕事の経済学」第2版、1999年、東洋経済新報社)。もちろん、年功序列とセットとなった終身雇用慣行を、成長が止まった企業でそっくり維持することは不可能となっており、また、雇用者の選択度・自由度増大の観点、女性・高齢者の活躍の観点からも大方の雇用者が終身雇用を前提に働くという経済体制は問題が多すぎる。別の企業に移りながら能力を開発・発揮していく自由度を保証する社会システムが必要なことはいうまでもない。しかし、だからといって終身雇用慣行の良さが機能的な観点に立って存続していることも確かである。 「どちらともいえない」という企業割合の増加の背後には、終身雇用の良さを中小企業まで知ってしまった日本では、より自由な雇用環境と終身雇用の良さを組み合わせた新しいシステムの開発に向け、社会も企業も取組中であるという事態を読みとりたい。
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