これは、機械技術者やエレクトロニクス技術者、また情報通信技術者の独立化の傾向が止まり、2005年から2010年にかけてはむしろ低下したことに加えて、我が国における建設需要の低迷に伴って独立割合の高い土木・建築技術者の数とシェアが大きく低下している影響という2つの要因によるものである。土木・建築技術者はピーク時の93.5万人から2010ネンの45.8万人へと半減しているのである。なお、土木・建築技術者の独立割合は2010年では25%を越えており最近でも若干ながら上昇している。 かつて述べた「マイクロビジネスとしての独立技術者の積極評価」には現在のところ大きなはてなマークがついてしまった。 (2000年段階のコメント) 1.技術者独立化の傾向
技術立国日本の人的基盤である技術者の活躍の形態に大きな変化が見られる。企業に雇われる形態から独立した企業家として働くかたちへと大きく転換してきた(図参照)。 国勢調査の職業分類(仕事の種類)で「技術者」とは、医療、法務、教育などの専門家は含まれず、生産関連の技術者のみを指している。この定義の技術者は2000年に252万人おり、就業者全体6298万人のうちの4.0%を占めている。技術者数は85年の173万人から着実に増加してきており、ハイテク日本を支える力となっている。 技術者の従業上の地位を見ると雇用者218万人に対し、自営業主14万人、役員19万人と合わせて33万人、13.2%が独立企業家となっている(ここでの役員は従業上の地位における役員であり、仕事自体が役員に特化した管理職の者は含まれない)。 技術者そのものの増加に合わせて独立企業家である技術者も75年の7万人から5年おきに9万人、17万人、25万人、31万人そして2000年の33万人と大きく増加してきているが、技術者に占める比率は85年まで10%前後であったのが、90年12.0%、95年13.3%と上昇傾向にあった点が目立っている。2000年には13.2%と比率自体は横ばいに転じた。 図には掲げていないが、技術種別に見ると、かねてより設計事務所を構えることの多い建築・土木技術者で独立企業家比率が24%と高く、機械技術者10%、電気・電子技術者8%と続いている。情報処理技術者は6.6%とこれら技術者を若干下回っている(若年層では独立比率が低く、平均年齢の若さが情報技術者の独立比率の相対的な低さの原因であろう)。こうした技術者のいずれにおいても1995年までおおむね独立企業者の比率は上昇傾向にあり、独立企業化の動きは技術者全体の傾向であったが2000年にかけては横ばいに転じている。ただし情報処理技術者の独立企業化はなお進展している。 2.技術者独立化の要因 こうした技術者の独立企業化の要因としては以下のものが考えられる。 ・定年後の技術者の独立 ・技術者のリストラ ・技術のアウトソーシング ・情報ネットワーク化を背景とした設計技術者等の独立 年齢別の独立企業家比率を見ると60歳以上で比率が高くなっており、高度成長期以来増加した技術者が定年後も独立して働く姿がうかがえる。しかし、30歳代後半以降いずれの年齢でも独立比率が上昇していたことから必ずしも定年後だけの問題ではないことが分かる。 技術のアウトソーシングは、企業のリストラの面と柔軟な技術サービスの調達の可能性の拡大という面の両面があると考えられるが、技術がネットワーク化し設計情報などが電子的にやりとり可能となったという後者の要因を今後に続く構造変化として積極的に評価したい。 3.マイクロビジネスとしての独立技術者の積極評価 専門サービス、個人的創造活動ビジネス、テレワークによるSOHO、新生活支援サービス業などの分野でマイクロビジネスが欧米で大きく進展していることが注目されている。ベンチャー企業が注目されているが、株式公開を目指すのではない個人企業も21世紀へ向けた新しい動きとして重要であり、日本では欧米と異なって個人企業数は減少しているため経済を活性化させる1手段としてマイクロビジネスの振興が特に望まれているのである。 これまでふれてきた技術者の独立企業化は、日本において特に大きな意義をもつマイクロビジネスの1形態として注目できる。なぜならわが国は、技術者を積極的に育成してきた国として知られ、人的ストックの蓄積において世界でもトップクラスにあると考えられるためである。こうした蓄積を有効に活用できるか否かが今後の経済社会の発展にとって重大な意義を有するのである。 独立技術者の活躍の諸形態については、なお、目立った調査がなく不明な点も多い。定年後の独立技術者の集団アタック(財団であるがNPOのような存在)はかつてNHKでも紹介されたが、中小企業の工場改善などの要請を受けて専門技術者を派遣している。この事例が示しているのは、高度成長期以降の技術者の経験と知恵が、なお内外で求められる貴重な技術資源となっている点、また、NPOという形態をとった技術サービスは、ある意味ではおせっかいな面があるとともにある面では単なるビジネス取引では得られない貴重なサービス提供である点などである。 (2004年6月24日データ更新:国勢調査2000年を速報から確報に、2015年10月9日更新)
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