バブルが崩壊する以前、日本型経済・雇用システムが高く評価されていた時代に、年功賃金は、ブルーカラーの長期雇用に伴う熟練形成(特に企業特殊熟練の形成)によるものであり、このことが大企業の生産システムの革新による生産性向上につながり、日本の高い競争力の源泉になったという点が強調された(小池和男など)。 バブル崩壊後の論調では、年功賃金のこうした側面に関する議論はむしろ後景に退き、当初合理性を持っていたシステムが暴走し、従業員の貢献度を上回る賃金が中高年で成立するに至っている点が指摘されるようになった。こうした観点から厳しいリストラの中で賃金カーブが以前の7割の水準までフラット化してきている状況は図録3340参照。 リストラ・ムーブメントの中で、中高年の給与水準の抑制が進捗し、他方、賞揚された業績給・能力給にも限界があることが認識されるようになり、年功賃金への再度の見直しが進んだ。最初の図にそうした状況がうかがわれる。2000年代前半以降、20歳代も50歳代も年功賃金への支持率が上昇したのである。 年功賃金が不合理だと考えられていた時代には、年功賃金の見直しに賛成だったのは、相対的に給与水準が低かった若年層である。若者特有の自らの能力への自負心や積極精神も与っていただろう。このため、年功賃金の支持率を20歳代と50歳代で比べると、2000年代の前半までは、20歳代は50歳代より支持率が低かった。 ところが、2000年代の後半からは、驚いたことに、20歳代の年功賃金支持率は急上昇し、50歳代を追い抜くに至っている。若年層は、現在の高賃金より将来へ向けての安定した賃金上昇の方を優先するようになったのである。これは、リストラの激しい進展のなかで、中高年の悲哀を見て、明日は我が身という印象をもったためでもあろう。 最新の2015年には、年功賃金への支持率が50歳代で継続上昇だったものの、20歳代ではやや低下に転じたため、再度、両者は逆転した。 2番目の図は、新入社員が望ましいと考える給与体系についての意識の変遷を見たものである。ここにも、若年層が、年功賃金体系を再評価する傾向があらわれている。こちらの方では、1番目の図とは異なり、なお、若者の年功賃金への支持率が上昇している。もっともこちらの調査は年功賃金と言う用語を使わず、「年齢・経験により給与が上がる体系」という聞きかたをしているから上昇し続けているのかも知れない。 (2017年2月3日収録、2月10日コメント訂正、勤労生活に関する調査の最新データ、9月6日新入社員データ更新、2023年9月1日新入社員データ更新)
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