日本では「家」を絶やさないため、また「家業」を継続するため、婿養子などの養子制度がかつて支配的であった。農家や中小企業経営では婿養子による経営の継続が非常に多かった。血のつながりがなくとも可という日本的伝統は、血縁と系譜(リネッジ)を重視する海外の社会とはかなり様相を異にしている(韓国など血のつながりを重視する社会では嫁は別姓を維持する)。

 さてこうした血のつながりのない養子に支えられてきた日本の”家”制度と”家”意識はどう変化してきているのであろうか。

 戦前は民法上「戸主」の大きな権限と相続権に基づく”家”制度が成立していたが、戦後の民法改正で均分相続が中心に据えられ、この制度は崩壊した。しかし、1953年当時には、血のつながりのない養子による「家」の継続は74%の者がよしとしていた。

 ところが戦後の経済社会の変化の中でこうした考えはどんどん衰え、2003年には同じ選択肢への回答率は18%にまで落ち込んだ。著しい”家”意識の変化といえよう。

 農家や商家が少なくなったためだけでなく、サラリーマン家庭でも「家」意識が希薄になっているのがこうした変化の要因であろう。

 「家族」を重視する気持ちは一方でますます高まっている(図録2412参照)。ところが「家」を維持することによって先祖をまつり、世代から世代へと財産や業を引き継いでいくという枠組みは失われている。貝殻のない貝のようになってきているのである。家族が相互に身を寄せ合っているが、現在が総てであり、先祖からの継続や子孫への継続、家を通じた永遠性をみずからはぎ取ってしまったのである。「国家」や「新しい公共」は果たして我々の頼もしい貝殻になってくれるのであろうか。

 夫婦別姓は女性の権利の問題、子どもの幸せの問題という観点もさることながら、姓が残された「家」の最後の薄皮一枚であるので、日本の「家」伝統をどう考えるのかという観点からも検討されるべきであろう。

 統計数理研究所によって「日本人の国民性調査」が1953年以来、5年ごとに戦後継続的に行われている(同じ問を継続しているが問によっては必ずしも毎回聞いている訳ではない)。長期的な日本人の意識変化を見るためには貴重な調査である。この調査はすべて、全国の20歳以上(ただし2003年〜08年は80歳未満、2013年は85歳未満)の男女個人を調査対象とした標本調査である。各回とも層化多段無作為抽出法で標本を抽出し、個別面接聴取法で実施されている。

(2010年6月4日収録、2014年10月31日更新、2021年12月25日更新)


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