腰痛は図録2130で見たように、高齢者ほど悩まされている者が多くなるが、30〜40代でも1割近くが悩む国民病的な症状であることが分かる。

 パソコン仕事など座ったままの仕事が多くなった現代人だかろこそ腰痛持ちが増えていると思いがちであるが果たして本当だろうか。ここでは、腰痛と職業の相関を調べた図を掲げた。

 データの元になっている国民生活基礎調査(厚生労働省)の健康票では、体の具合の悪いところ(自覚症状)があればどんなところかをきいており、3年おきの大規模調査の際には、それぞれの症状について、男女年齢別だけでなく、職業別にも細かく集計されている。末尾にこの健康票の該当部分を掲げておいた。

 図は、職業別に腰痛の症状がある人の割合をY軸方向にプロットしている。最も腰痛の多い職業は農林漁業の16.1%であり、最も少ない職業は保安職の7.6%である。

 全体として、高齢者ほど腰痛は多くなるので、高齢者の多い職業ほど腰痛割合も高くなっている状況が、X軸に高齢者割合を取った相関図で右上がりの傾向が認められる点にあらわれている。

 年齢構成を考慮すると、回帰直線(オレンジの線)より上の職業は年齢構成の割に腰痛の多い職業であり、下の職業は年齢構成の割に腰痛が少ない職業だといえる。

 座ったままの仕事が他の仕事に比べて腰痛に悪いとすれば、タクシーの運転手などの運転職やデスクワークの多いホワイトカラーの職業で腰痛が多い筈である。

 実際は、生産職や建設職など、デスクワークの多いホワイトカラーより立ち仕事の多い現場職系で腰痛が多いことが図から分かる。現場職系の中では座り仕事の多い運転職については、腰痛が少ないとはいえないが、それでも立ち仕事の建設職、運搬・清掃職より多いとはいえない。

 また、ホワイトカラーの中でも、座り仕事が多い事務職や管理職より、立ち仕事が多いと思われる専門・技術職や販売職で腰痛が多くなっている。

 保安職は、自衛隊、警察、消防、警備の職業であるが、腰痛はもっとも少なくなっている。日頃の鍛錬のせいか、それとも立ったまま、座ったままということが少ないせいであろうか。

 立ち仕事の多い職業の方が座り仕事の多い職業より腰痛が多いことは、また、どんな作業で腰痛が起こりやすいかを具体的に調査した結果によっても裏づけられる(下図参照)。すなわち、デスクワークや車両運転よりも立ち仕事や力仕事の方が腰痛の原因になりやすいという結果が出ているのである。


 人類は、脳の発達にむすびついた「二足歩行」と引き換えに、「腰痛」、「内臓下垂」、「難産」という三重苦を負ったといわれる。「二足歩行に対する最悪の代償と考えられている腰痛は、椎間板という、脊椎骨の間にあるクッションが重力方向の力に耐えきれずに起こるさまざまな不都合のひとつであり、脊椎骨が重力に対して垂直である限り、避けることができないものである」(栃内新「進化から見た病気」講談社ブルーバックス、p.144)。ヒトは直立してから何百万年と経っているが腰痛がなくなるところまで進化できていないのは、運動能力を維持するためには脊椎骨を今以上に強固にできないからと考えられている。

 腰痛は、文明病ともいうべき座り仕事によって登場したのではなく、直立歩行という人類がそもそも抱えている根本姿勢そのものから生じている。このことは、職業別に見て、立ち仕事の方が座り仕事より腰痛が多いことからもうかがわれるのである。技術文明の進展に伴う職業構造の変化とともに、立ち仕事より座り仕事が多くなっている影響で、むしろ、腰痛は減ってきていると考えられる。実際、腰痛の年齢別有訴者率を2007年と2016年とで比較してみると各年齢で低下傾向が認められる。


(2019年2月24日収録)


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