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人口当たりの患者数は受診率と呼ばれるが、高齢者ほど、外来にせよ、入院にせよ、受診率が高いのは当然である(図録2000参照)。従って、入院患者数と高齢化率の都道府県別の相関図を書けば、正の相関が見られることは予想通りである。むしろ、図を見て気がつくのは、必ずしも、相関度が高くない点である。長野県などは高齢化率が高いのに入院患者は少ない。逆に、沖縄県や福岡県では、高齢化率が全国より低いのに、入院患者が多い。 これは、同じ年齢でも入院患者が多い県と少ない県とがあるからだと考えられる。そこで、第2の図に、65歳以上の高齢者だけを対象に都道府県別の入院受診率をグラフにした。 これを見ると入院患者数は都道府県別に大きな違いがあることが分かる。最も多い高知県と最も少ない長野県では、2.5倍もの違いがあるのである。また、地域的な傾向として、西日本や北陸では入院患者が多く、東日本で少ないという点も目立っている。地域的にそもそもの健康状態や医療技術に違いがあるはずもないから、医療体制や生活パターンなど生理的要因というより制度的な要因が大きく働いていると考えざるを得ない。 これについて歴史的要因が指摘されることもある。高齢者の入院患者数が多い地域は人口当たりの病院数の多い地域であり、それは明治維新の立役者となった薩長土肥各県である(都道府県別統計とランキングで見る県民性サイト)。「明治維新で新政府の高官となった人が、自分の地元に医療施設を建てさせた影響が残っている」ためである。「厚生労働省が直接経営する国立病院の多くは、戦前の陸軍病院や海軍病院、国立療養所などを前身としています。その分布を見ると、東北地方は6県で15カ所なのに対し、九州は7県で26カ所、国の方針として、西のほうが医療施設の拡充に力を入れられてきたのです」(久保哲朗「47都道府県の偏差値」小学館新書、2018年)。 なお、入院受診率は医療費の水準に直結するため医療制度改革の際にこの点が大いに注目された。 小泉政権下の医療制度改革は2006年に行われたがそこに至る過程は小泉首相が政権に着いた時(2001年)からはじまった。財務省や規制改革会議の意見が反映した経済財政諮問会議の方針は、基本的に、医療費の伸びを抑えるため、経済成長率とリンクした医療費抑制政策を取るべきだとするものであった。一方、厚生労働省や与党、医療界は、命にかかわる医療の提供を経済や景気の動きとリンクさせることは出来ず、また国民の理解も得られないとしてこれに反対した。 医療費の抑制ではないとしても医療費の適正化は必要だとの合意には達したが、なお、両者の間ではせめぎ合いが続いた。 医療費適正化の短期対策として、経済財政諮問会議が主張したのは、一定額(例えば千円まで)の保険免責制であったが、厚生労働省側は、診療報酬切り下げ、現役並み高齢者の3割負担で対処した。また混合診療解禁を経済財政諮問会議は主張したが、厚生労働省側は一部緩和を受け入れることで対処した。 医療費適正化の中長期対策として、経済財政諮問会議が主張したのは、上記の総額規制(対GDP比管理)であったが、厚生労働省側は、予防医療の充実、平均在院日数短縮、及び都道府県ごとの医療費適正化計画による具体的対策と目標設定によって対応することとした。 ここで都道府県別の医療費適正化計画による医療費管理が打ち出された根拠として注目されたのが、ここで見た地域別の入院受診率、あるいは地域別の医療費の差であった。長野県で実現している医療体制を高知県でも取り入れることが出来れば、全体として、医療費は抑制されるという理屈が説得力をもったのである。 今後、各県の医療費適正化計画が建てられる過程で、地域別の受診率の差の理由や実態が検証されていくこととなろう。 表示選択で2017年のデータを追加した。2005年当時と比べて高齢化は一層進んだが、地域分布はそう大きくは変化していないことが分かる。 (2007年3月9日収録、2020年10月21日2017年データ、2024年2月18日歴史的要因コメント)
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