中国における農業と主要農産物の動向


 上図には中国における主要作物の輸出入率の動きを掲げた。以下に、これと関連づけて、中国における農業と主要農産物の動向を概観することとする。

 なお、世界の主要農水産物輸入市場における中国のシェアについては図録0315参照のこと。

■以下は2004年段階(データ2002年まで)のコメント

1.中国農業の基本課題

 中国における第1次産業の生産のシェアは2003年には対GDP比で15%と急速に低下して来ているが、就業者数のシェアはなお50%と大きい。日本の第1次産業の対GDPシェアが15%であった1960年に就業者比率は33%であったのと比べれば、バランスの悪さが目立つが、これが1990年代後半から盛んに使われるようになったいわゆる「3農問題」の背景をなしている。

 「3農問題」とは農業問題、農民問題、農村問題の3つをさすが、農業問題は、農業構造の内部調整による付加価値の高い農業への転換を内容とし、農民問題は、都市との所得等の格差問題を、農村問題は、幹部の腐敗や法定税外税・治安の悪化等の広範な問題を意味している。中国経済の高度成長にともなって都市部を中心に食糧需要の大きな構造転換が起こっており、またアジア地域全体の経済の成長や2001年12月の中国のWTO加盟など中国農業を取り巻く国際環境も大きく変化してきているにも関わらず、都市部や世界の変化のスピードに中国農業の対応スピードが追いついていないというのが3農問題の根本要因であると考えられる(中国の食料需要の大きな変化については図録0300参照)。

 中国政府は3農問題解決へ向け、中国農業の地域ごとの比較優位を発揮させ輸入減、輸出増を目指す農政7大体系と呼ばれる農政綱要を発表している。すなわち、@職業転換・作物転換、A地域特化、B品質と安全性確保、C土地制度改革、D農業関係の税と税外負担の軽減、E流通制度改革、F備蓄と国際競争力である。

 さらにWTO加盟後の対策として、@補助金削減に代わって農業インフラと技術支援・交通・情報など補完サービス拡充、A農業への外資や民間企業の投資誘導、B付加価値を高めるための農業加工企業への優先融資・外資導入といった政策を追求することとしている。

 以下では中国農業の比較優位を発揮して所得を高めるための「農業問題」、特に主要作物の動向について概観する。

2.主要農産物の動向

(穀物全体)

 中国の作物生産動向の最大の特徴は、所得向上に伴う食糧需要構造の変化に伴い、食料穀物生産が減少し、それに代わって野菜や果実といった部門の伸長が著しい点にある。生産量で見ると、1990年から2003年にかけて、野菜と果実は3倍以上の生産増となっているのに対して、コメや小麦といった食料穀物は1割以上の減少となっている。トウモロコシは需要が伸びている畜産の飼料用需要が伸びているため、またこれら3大穀物と同様土地利用型の作物である大豆は、需要が増大している植物油、及び飼料用大豆かすの原料として需要が伸びているためそれぞれ同期間に17%増、50%増と、野菜や果実ほどではないが生産が拡大している。

 1993年から94年にかけて国の買い付け価格が4割以上引き上げられ、良い天候、「省長責任制」(主要食料の需給に省長が責任)「保護価格政策」(保護価格による全量購入)も合わさって生産が維持されたが供給過剰から98年以降価格が下落傾向となり、穀物生産は減少に転じた。2003年10月頃から穀物価格は再び上昇しはじめ、2004年は補助金増額や農業税の減免などの政策も新たに打ち出されているのでコメを中心に生産の回復が見込まれている。

(コメ)

 中国農業の最大作物であり世界の3割の生産規模を有しているコメについては、90年代半ばの供給過剰を受け、輸出が拡大し、輸入が減少したが、それ以降、インディカ米の価格低迷、良質米転換政策による二期作の減少などから2003年まで6年連続の生産減少となり、再度、2003年には輸入が拡大した。生活向上に伴いコメ需要は全体として減少するなか食味のよいジャポニカ米の需要は伸びており、特に南方のジャポニカ米需要に対する東北ジャポニカ米(良質米の代表は黒竜江省)の供給が追いつかないという地域需給のアンバランスが生じている。

(小麦)

 90年代半ばの生産増で輸入は急減し、輸出は増加傾向であったが、近年はコメと同様生産が減少したため輸入が再度増加する勢いにある。洋風化に伴い、饅頭、餃子、麺など普通小麦製品からパンや菓子など強力粉、薄力粉用等の専用小麦に需要がシフトしており、輸入も主としてこうした種類である。政府の計画ではWTO加盟後の米国、カナダとの競争も考慮に入れ、専用小麦の作付面積比を2001年の25%から2007年に40%まで上昇させようとしている。

(トウモロコシ)

 伝統的に中国が輸出国であるトウモロコシは1994年の不作により突如輸入国に転じ、世界の穀物需給と国際価格に大きな影響を与えた。米国のワールドウォッチ研究所所長のレスター・ブラウンが「誰が中国人を養うか」という論文を発表し、中国人の食料消費の拡大、特に肉類消費の拡大に伴う飼料穀物の需要爆発により、世界が穀物不足になるという懸念を指摘したのは1995年である。その後、各地域で生産が回復、増加し、再度世界第3位の輸出国の地位を維持している。

 2001年の需要先構成は飼料:工業加工用:食料:その他が72:11:15:2となっているが、今後伸びが高い澱粉、アルコール等工業加工用のシェアは米国などの半分近くである。また北方の生産シェアが70%近いため畜産飼料需要の半分以上を占める南方との需給アンバランスが生じている。北方から南方に移出を行うとともに米国と競争し
ながら日韓市場への輸出を目指し、南方は北方からの移入とともに海外からの適切な輸入を行う中で、生産性の向上と品質向上とともに専用トウモロコシへの転換や加工産業の育成を図り、全体として輸出大国を維持するというのが政府の方針である。

(大豆)

 大豆は中国の所得向上、都市化、食生活の高度化によって、食用油及び蛋白含有量の多い飼料源としての大豆かす需要が大きく増加している。特に搾油需要の上昇に対して輸入大豆に比べ油分の少ない国産大豆では量的質的に対応できず、結果として、輸入率が40〜55%となるまで輸入量が急増し、今や中国は世界最大の輸入国となっている。海外及び華僑資本による沿海部中心の大型搾油工場の新設・増設ラッシュもあり、2003年には輸入量が2,074万トンと2001年のピークを大きく上回る量を記録し、自給率は44%に低下した。産地はコメや小麦と比べ特化しており、黒竜江省を中心に東北3省内蒙古東部が半分以上を占めている。今後、海外大豆を需要する国内勢力に抗して、農業部としては国内大豆の増産と高油大豆化を進める計画である。

(野菜・果実)

 収益性の高い農産物への生産意欲の高まりや経済成長に伴う食生活の高度化により、買い付け価格が低下傾向の穀物等から野菜や果実への転換が進んでいる。野菜の生産量は1990年から2003年までに3倍以上に増加し、今や主要穀物の合計を上回るまでに至っている。果実も野菜よりは規模は小さいものの伸びは同期間に3.5倍近くと野菜を上回っている。リンゴ生産は世界1、ミカン生産は世界3位にもかかわらず、飲料市場の急成長に対応したジュース加工が遅れ、市場の主力となっている濃縮ミカン果汁は主に輸入に依存するなどの問題がある。

 輸出入については、土地利用型の穀物等と比べ、労働集約型の野菜や果実の生産は、国際的にも高い価格競争力を有しており、生鮮度保持や品質、輸送コスト、安全性確保の制約はあるものの輸出量は国内需要とほぼ同等の伸びを示している。その結果、野菜、果実の輸出率は国内需要の高まりを受け低下してもよいにもかかわらず、それぞれ1.5%、3%の水準を保っており、また、ここ数年は輸出率が高まる傾向にある。政府もまた野菜、果実については輸出基地化に意欲を示している。

 野菜の輸出については相手国第1位が日本であり(2000年に6割のシェア)、2001年の輸入急増の長ネギ等のセーフガード問題、2002年の冷凍ホウレンソウの残留農薬問題と日本との間で複数の貿易問題を生じている。なお、前者について暫定発動の後の確定措置は両国協議により実施しないこととなった。後者については政府の輸出野菜農家への規制強化措置を講じたため輸入禁止措置は見送りとなった。

 果実が野菜と異なるのは輸出だけでなく輸入も多い点である。輸出率、輸入率ともに現在では野菜よりかなり高い4〜5%となっている。輸出金額上位の品目はリンゴジュース、リンゴ、柑橘類缶詰、桃缶詰、冷凍イチゴなど、輸入金額の上位品目はバナナ、冷凍オレンジジュース、龍眼、ブドウ、オレンジなどである。政府は果実の主要品目の柑橘類とリンゴについて生果とジュースの輸出をいかに伸ばすかという観点から品種更新、加工基地の整備といった対策を進めることとしている。

(2004年11月20日収録、2010年6月8日更新)


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