ここでは、時系列的に長くデータを得られる「家計調査」を使い、購入数量の20年間の増減によって「どんな野菜が食卓をより多く占めるようになってきているか」を見てみよう。種別ごとの野菜の生産量の推移については図録0284参照。 家計の購入数量は平均世帯員数の減少によっても影響されているので、その分をキャンセルするため、ここでは世帯員1人当たりの購入数量で増減率を計算している。 生鮮野菜全体の増減はこの20年間で1%増とわずかながら増加となっている。 漬物などの加工野菜、あるいは弁当、総菜、あるいは外食による野菜摂取は含まれていない点を踏まえてデータを解釈する必要があるが、同期間に、「食料需給表」の野菜供給量は「かなりの減」、「国民健康・栄養調査」の野菜摂取量は「ほぼ横ばい」というデータもあるので、「家計調査」によるこの「わずかの増加」は、これらとほぼ並行する結果と解釈できよう。 類別では「葉茎菜類」は増加、「根菜類」は大きく減少となっている。 また、品目別の増減も野菜によって大きな差がある点が特徴である。最も増加したブロッコリーは61%増、最も減少したたけのこは52%減と対照的である。品目数としては減少した野菜の方が多い。 日本は野菜の種類が豊富である点が特色だった。永井荷風な随筆「矢はずぐさ」の中でこう述べている。「つらつら按(おも)ふに我国の料理ほど野菜に富めるはなかるべし。西洋にては巴里に赴きて初めて菜蔬の味(あじわい)称美すべきものに遇ふといへどもその種類なほ我国の多きに比すべくもあらず。支那には果実の珍しきもの多けれど菜蔬に至つては白菜菱角(りょうかく)藕子(ぐうし)嫩筍(どんじゅん)等の外ほかわれまた多くその他を知らず、菜蔬と魚介の味美なるもの多きはこれ日本料理の特色ならずとせんや」(「荷風随筆集」(下)p.134)。 こうした日本の特色が失われて行っているとも見える。 品目別の特徴は、もやしを除くと、ブロッコリー、レタス、ピーマン、キャベツ、トマトなどカタカナで表記される「洋野菜」が伸び、かぼちゃ、ごぼう、たけのこ、さといもといった根菜類中心に「和野菜」が減っている点にある。煮物からサラダへといった食の洋風化が野菜品目の盛衰にもあらわれているといえよう。 地中海周辺が原産とされるブロッコリーは国内では1970年代からよく食べられるようになった。「ビタミンやミネラルが豊富で、がんなどの予防作用があるとされ人気に。筋力増強にも効果があるとトレーニングに励む人々からも注目を集める」(東京新聞2024.4.3夕刊)。 堅調な需要増を受け、農水省は2024年1月にブロッコリーを「国民に必要な野菜」として2026年度に「指定野菜」(注)に追加することを決めている。1974年のジャガイモ以来、52年ぶりの追加となる。 (注)「指定野菜」とは、1966年に「野菜生産出荷安定法」によって指定された野菜の種別や、その野菜を栽培する産地のことをいう。種別は野菜の中でも特に消費量の多いものを、産地はその野菜を毎年作る規模の大きな産地を、それぞれ国が定めている。また指定産地には、指定野菜の出荷数量における2分の1以上を指定された消費地域に出荷する義務が存在する。一方で、出荷価格が過去の平均に比べ大きく下落した場合は、補給交付金が支給される「野菜指定産地制度」も存在する。これらの制度が定められた理由は、野菜の価格変動の激しさを避け野菜の安定的な供給を確保するためである。 (2020年12月9日収録、2021年8月1日荷風引用、2024年4月4日更新、ブロッコリー指定野菜記事)
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