結論的から言うと、リスクを好機ではなく単に脅威と感じる傾向があり、世界の中で最も失敗を恐れる日本人の姿が明らかである。慎重さが共通と見られるドイツ人と日本人だが、ドイツ人のプラス思考とは対照的な日本人のマイナス思考が目立っている。 まず、成人の意識調査結果から見てみよう。 OECDのスキル報告書は、ロイズが2019年に行ったリスクに対する各国意識調査の結果を掲載している。これは、リスクを「危険」と考えるか、「好機」と考えるかの違いを探った調査である。 OECD全体では、リスクを「危険」と考える回答率、「好機」と考える回答率がそれぞれ68.2%、22.3%となっており、一般的には「危険」と考え、「好機」とするのは2割強の少数派であることが分かる。 対象40カ国の中で日本は、「危険」回答が79.6%と7番目に高く、「好機」回答が15.3%と28番目と少ない。 ちなみに「危険」回答の最大、最小は、それぞれ、メキシコ、ラトビアであり、「好機」回答の最大、最小は、それぞれ、ドイツ、クロアチアであった。 「危険」回答の高い国は、メキシコ、コロンビアなど中南米の国が多く、実際、犯罪などの危険が多い国だから回答も「危険」が多くなっていると考えられる。日本は安全な国であるはずなのに「危険」回答が多い点が目立っているといえよう。ヨーロッパでも、スペインやスウェーデンは日本以上に「危険」回答が多くなっているが、これは日本と同様に用心深い国民性によるところが大きいと考えられよう。 以下では主要先進国(G7諸国と韓国)のデータを抜き出して表にした。日本が「危険」回答がトップ、「好機」回答が最低であるのが目立っている。同じく慎重で用心深いと考えられているドイツが「危険」回答最低、「好機」回答最高であるのは意外である。
なお、下図で属性別の「危険」回答率を比較すると、男性より女性、富裕層より貧困層、大卒以上より大卒未満の方がリスクを好機というより危険と感じやすいことが分かる。男女差は本性的なものに根差していると考えられるが、所得や学歴の差は、好機を生かせる恵まれた環境にあるかどうかが回答結果に反映していると見なせよう。 下図には、PISA調査から中学生が抱く失敗への恐れの調査結果を示した。関連3設問への回答を総合インデックスにした値では、日本が最も高く、オランダが最低、ドイツが下から2番目となっている。同インデックスを構成する「失敗したときダメな自分を悔やむ」の回答率では、日本がやはりトップであり、最下位はドイツとなっている。 成人向けと中学生向けという全く異なる調査であるにもかかわらず、日本やドイツに関して、ほとんど共通の結果となっている点に信ぴょう性の高さが感じられる。 日本人が用心深く、失敗を恐れるというのは納得的であるが、日本とドイツがリスクや失敗に対する姿勢に関して正反対である点は、やはり、気になる。ドイツの場合、慎重さがマイナスにならないように、失敗を恐れない気風を子どもの頃から養う国民性なのであろうか。いずれにせよドイツの場合、リスクテイキングの気風があるといっても、地がチャレンジング(または無謀)な英米とは異なった脈絡で考える必要があろう。 (2024年8月23日収録)
[ 本図録と関連するコンテンツ ] |
|