世界の市民だと思う割合が高い理由としては、積極的な世界市民の意識が高い場合もあれば、むしろ、特定の国への帰属意識が低い場合もあろう。最も世界市民だと思っている人間が多い国のグループは後者なのではなかろうか。 G7諸国の順位は以下の通りである。 1.ドイツ 33.8% 2.フランス 32.0% 3.米国 27.9% 4.日本 25.7% 5.英国 23.6% こうした先進国での世界市民意識の高さは、特定国への帰属意識の低さというより、世界市民の意識の高さのせいであろう。 反対に、自分が世界の市民とは思う者が最も少ないのは、ジョージアであり、ノルウェー、リトアニア、フィンランドがこれに次いでいる。 世界市民の原語には世俗からの超越というニュアンスのあるコスモポリタン(Cosmopolitan)という言葉もあるが、この設問では、単純に世界のシチズンとされている。原設問の英語版ステートメントは、”I feel more like a citizen of the world than of any country”である。 下の図には、階層ごとの世界市民意識の回答結果を掲げた(Human Development Report 2016 Human Development for EveryoneのFIGURE 1.7で世界価値観調査から集計方法も結果のパターンも同様のグラフを掲げているのにならった)。 世界全体では、下層と上層の両極で世界市民意識が強くなっている一方で、世界市民意識をきっぱりと否定する割合は下層ほど強くなっている。上層階級はグローバリゼーションから利益を多く得ているため世界市民意識も強いのに対して、下層階級では、グローバリゼーションから余り利益を得ていない(ある場合は不利益を得ている)ため、世界市民意識をきっぱりと否定する意見が多いのであろう。下層で世界市民意識が強く見えるのは、移民や難民が多いなどの理由により国民意識が下層で弱いせいであろう。 いずれにせよ、下層階級では、世界市民派と反世界市民派への両極化が目立っており、これが、グローバリゼーションにともなう国内トラブル増加の背景となっていると考えられる。 票数が少ないので確定的なことはいえないが参考までに日本の結果を示しておいた。世界とほぼ同様の結果となっている。 英国の放送局BBCは、同様の設問で過去から何回も国際意識調査を実施している(上図参照)。日本が参加していないので報道されることがないが、これを見ると、OECD諸国と非OECD諸国で推移が正反対であることが分かる。すなわち、非OECD諸国では、世界市民意識が高まって来ているが、OECD諸国では、欧州債務危機以降、非OECD諸国を下回り、低い水準になった。
「債務危機が絶頂だった2009年にはOECD諸国の7カ国の国民は48%が自らを国民というより世界市民(global citizenship)と思っており、7カ国の非OECD諸国の45%とほとんど同じ割合だった。途上国の回答者は、その後も、大きくこの感情が成長し、2015年と2016年には56%のピークに達している。OECDの7カ国の国民は、逆に、正反対の軌道をたどり、2011年には39%と最低となり、それ以降、低い水準のままである(現在42%)。後者のトレンドは特にドイツで目立っており、そこでは世界市民意識は、2009年以降に13%ポイント低下し、現在30%に過ぎない状況となっている(2001年以降最低)」(BBC, Global Citizenship a growing sentiment among citizens of emerging economies、2016年4月)。 なお、BBC調査の14カ国の中で最も世界市民と考えている者の少なかったのはロシアの24%だった。 ○調査対象国 対象国33カ国を世界市民意識の高い順に掲げると、フィリピン、インド、南アフリカ、トルコ、スペイン、メキシコ、スイス、ドイツ、フランス、ベルギー、ポルトガル、アイルランド、台湾、米国、日本、スロベニア、ラトビア、英国、チェコ、アイスランド、デンマーク、クロアチア、ハンガリー、ロシア、韓国、スウェーデン、エストニア、スロバキア、イスラエル、フィンランド、リトアニア、ノルウェー、ジョージアである。 (2016年5月30日収録、5月31日設問原語について、2017年4月13日階層ごとの回答結果、5月9日BBC調査結果)
[ 本図録と関連するコンテンツ ] |
|