米国の2000年国勢調査では先祖あるいは民族系列が何かを調査している。この調査の結果から、地域別(州State、および郡County別)の分布図と各民族系列の人口と構成比のグラフを掲げた。

 最も多い先祖はドイツ人であり、ドイツ系の人口が4,284万人と総人口の15.2%を占めている(注)。次に多いのは、アイルランド系であり3,052万人、10.8%、第3位は、アフリカ系アメリカ人、すなわち黒人であり、2,490万人、8.8%となっている。

(注)ドイツ系の住民が目立っているのは、イギリス系クエーカー教徒が創設し、その後多くの国から様々な信条の者を受け入れたミッドランド地域(地域図は下図参照)である。「多元的で中流階級を中心に組織されたミッドランドはアメリカ中西部の文化とハートランドを生んだが、そこでは民族的な純血や思想の純粋性は決して優先されなかった。政府は歓迎されざる侵害者とみなされ、政治的見解は穏健で、無関心でさえあった。1775年に英領北アメリカで非イギリス系が多数派を占めていた唯一の地域であったミッドランドは、「アングロサクソン」ではなく、ドイツ系子孫が1600年代末以降最大の集団を構成しており、長きにわたって民族的モザイクとなっている」(コリン・ウッダード「11の国のアメリカ史」岩波、原著2011年、p.11)。そして、ミッドランドはアングロサクソン純系ではないにもかかわらず、最も「アメリカ的」とされ、「奴隷制廃止から2008年の大統領選に至るまであらゆる国民的議論で鍵となってきた「勝敗を左右する票」を握る場所である」(同前)。

 先祖がイギリス人と認識している米国人は2,451万人、8.7%、第4位にとどまっており、英国植民地から出発した米国という我々の常識と異なるが、これは、南部諸州では、イギリス人を祖先としていても自分の民族系列は生粋アメリカ人であると考えている米国人が多いからだと思われる(注)。こうした認識をもつ人口は2,019万人、7.2%、第5位となっているが、地域的な分布は、南北戦争時に南軍を構成した11州とほぼ重なっている点が興味深い。

(注)タイドウォーター地域やヤンキーダム地域、あるいは深南部地域に遅れて、英国の辺境地域から大アパラチア地域への入植がはじまった。この地域への入植者はみずからを生粋アメリカ人と答える場合が多い。「大アパラチアは、北アイルランド、イングランド北部、スコットランド低地の、戦争で荒廃した辺境地帯から相次いでやってきた粗野で好戦的な入植者の一団によって18世紀のはじめに創設された。(中略)ブリテン諸島ではこの文化は、ほとんど絶え間のない戦争と動乱状況の中で形成され、戦士的倫理観と個人の自由や個人主権を強く重んじる風土を育んだ。これらのボーダーランド人たちは、貴族や社会改革者についても同じように強い疑念を抱いて、ヤンキーの教師、タイドウォーターの領主、深南部の貴族を軽蔑した。(中略)大アパラチアの人びとは、自らの文化的起源について長らく乏しい認識しかもたなかった。スコットランド系アイルランド人のある学者は、彼らのことを「名もなき人びと」と呼んできた。合衆国国勢調査調査官がアパラチアの人びとに出身国やエスニシティを尋ねるとき、彼らはたいてい決まって「アメリカ人」あるいは「生まれつきの(ネイティヴ)アメリカ人」と答えるのである」(コリン・ウッダード前掲書、p.14〜15)。彼らは、南北戦争では北軍に与して戦ったが、南部再建に当たっては反ヤンキーに転じ、タイドウォーターや深南部の勢力と同盟を形成したという。

 次に多いのはヒスパニック系の中心となるメキシコ人を祖先とする人口であり、さらにイタリア、ポーランド、フランス、そしてアメリカ・インディアンと続いている。

 アジア系では、中国系が227万人で最も多く、これに韓国系119万人、日系110万人、ベトナム系103万人が続いている。

 地域分布では、この他、以下のような点が目立っている。
  • イギリス人を祖先とする人口は、ボストンより北側のニューイングランド地方とモルモン教とが多いユタ州を中心とする地域で最多となっている。
  • アフリカ系アメリカ人を祖先とする人口は南部諸州に多い。シカゴやデトロイトといった工業都市にも集中している。
  • メキシコ系はメキシコとの国境に接する地域全体に広がっている。
  • ドイツ人を祖先とする人口は、こうした祖先がイギリス人、アメリカ人やアフリカ系アメリカ人、メキシコ人とする地域を除く全土に広がっている。
  • ニューヨークの中心部から周辺部にかけて、中心の黒人・プエルトリコ系地域を取り囲む形で、次にイタリア系、そしてさらに北側に向けてアイルランド系の人口地域となっている。
  • アメリカ・インディアンの系列の人口はアラスカ、及び西部の保留地周辺に多い。
  • カナダのケベック州と隣接する地域、及びニューオリンズの周辺では、フランス系米国人が多く住んでいる(注)
  • 五大湖沿岸やカナダ国境には、フィンランド人、オランダ人、ノルウェイ人を祖先とする入植地が立地している。
  • ハワイの日系人、サンフランシスコの中国系、フロリダのマイアミのキューバ系など、特定民族系列が集中している特定地域がある。
(注)ケイジャンは北米東部アカディア地方入植のフランス人が英国によって追放されニューオリンズ周辺に難民として移住した仏系米国人を指し、茶色のジャンバラヤなどケイジャン料理が知られている。ルイジアナ州でも同じフランス系のクレオールと異なり貧しい暮らしの者が多かった。米国ドラマ「コンバット」において戦地フランスで仏語通訳としても活躍するケーリ上等兵はケイジャンであり、原語では皆からケーリではなくケイジと呼ばれていた。

 住民の出身地事情が米国の政策判断に大きな影響を及ぼしてきた例として、対ナチス・ドイツの戦争準備について意見の相違が挙げられる。「1930年代の間、アメリカ連邦は戦争準備の必要性について分裂していた。ニューネザーランド選出の下院議員は、おそらく彼らの選挙区民の非常に多くがヒトラーによって危険にさらされた国々から移民してきたために、軍備については強硬派だった。レフト・コーストや極西部やエル・ノルテの仲間たちも、とりわけ連邦政府が軍需産業や軍事拠点をその地域に配置し始めるにつれて、同様の措置を講じた。ドイツ系アメリカ人は彼らのかつての同胞と戦争することに気が進まなかったという理由も一部あり、ミッドランド人は概してこれらの方策に反対した。ヤンキーダムの世論には深い亀裂が走っており、ニューイングランドの中核地は五大湖や中西部のヤンキーより戦争の準備に熱心だった」(コリン・ウッダード前掲書下、p.192〜193)。


(2004年11月14日収録、2020年9月25日・10月2日「11の国のアメリカ史」より、2024年11月15日仏系米国人ケイジャン)


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