図は2018年調査における平日の学外でのネット使用時間と学力テストの結果の相関を日本とOECD平均についてあらわしたグラフである。 全体として日本人生徒の学力はOECD平均より高いが、ネット使用時間別のカーブに着眼すると、ネットの低利用、適切利用、過剰利用による学力の起伏の程度が日本はOECD平均と比べて小さい(すなわち生徒間格差が小さい)。 また、日本の場合は「30分〜1時間」を境に、OECD平均だと「2〜4時間」を境に学力が低下していく傾向が、読解力(国語)、数学的リテラシー(数学)、科学的リテラシー(理科)のいずれのテストでも認められる。 この相関関係を因果関係としてとらえ直すのは難しい。スマホを使い過ぎたから成績が低下したのか、それとも成績が悪い生徒ほどスマホにのめり込む傾向があるのかを判別できないからである。つまりスマホを使うと馬鹿になるのか、馬鹿がスマホを使っているのかが分からないのである。 また、スマホが原因で成績が落ちているとしてもスマホの影響の仕方には複数の仮説がありうる。学力に影響するのがスマホ使用そのものなのか、それともスマホ使用にともなってそれだけ家庭での勉強時間や睡眠時間が削られ、それが理由で成績が落ちているだけかもしれないからだ(後者だとしても問題は問題だろうが)。 スマホの影響の有無や影響経路を明らかにするため、仙台市立中学校の通学生に対して大掛かりな調査が行われてきた。下図にその結果を示そう。 これを見ると、携帯・スマホの使用時間が1時間未満ならば、家で30分未満とほとんど勉強しなくても、勉強をよくしても携帯・スマホを3時間以上使う生徒より成績がよくなっていることが分かる。 スマホを長く使うと勉強時間が削られ、その結果、学力も落ちると考えられてきたが、このデータは、勉強時間を削っていなくてもスマホを使えばそれだけで成績は落ちることを示していると言えよう。 このデータをもとに「オンライン脳 東北大学の緊急実験からわかった危険な大問題」(アスコム)を著した東北大学加齢医学研究所の川島隆太所長は、「この結果から想定される“最悪”の仮説は、携帯・スマホの長時間使用によって、学校での学習に悪影響を及ぼす何かが、生徒の「脳」に生じたのではないか、というものでした。 可能性@は、学校の授業で脳の中に入ったはずの学習の記憶が、消えてしまった。可能性Aは、脳の学習機能に何らかの異常をきたし、学校での学習がうまく成立しなかった。当時は、あくまで仮説であり可能性でしたが、ただ事でないことは間違いありませんでした」(プレジデント・オンライン記事)。 川島所長は、スマホの使い過ぎが睡眠時間を削り、それが学力低下につながった可能性の検証を進めるため、調査をさらに持続、拡大した。その結果、睡眠時間も勉強時間と同じように、十分に確保していても、やはりスマホを使うだけ学力が低下することが分かったという。 つまりスマホ使用はそれだけで学力に悪影響をもたらすことが証明されたとしている。 そもそもスマホは原理的にその便利さ故にヒトの頭脳活動を停滞させる側面がある、すなわちスマホを使うと馬鹿になるとかねがね考えていた(そのためもあって、私のスマホデビューは今年2022年6月にまで遅れた)。 というのは、スマホがない時代に2人の人間がどこかで待ち合わせする時には、正確に何時何分にどこそこの場所で落ち合うかを計画し、両者の間で正しく合意しておく必要があった。スマホを使うようになった今では、何時ごろ何々駅でぐらいを合意し、実際には直前にスマホで連絡を取り合い合流すればよいということになった。詳細な計画を正確に伝え合うにはそれなりの頭脳活動が必要だったが今ではその必要が薄れたのである。 待ち合わせを例にとったが、そのほか、お金の使い方、儀式・儀礼、書き言葉によるコミュニケーション、夫婦や家族の関係など細かい生活の諸局面で事前の計画立案や文章化、他人の行動予測といった頭脳活動が不要とされるに至っており、人間は短絡的な刺激と反応だけで生きるアメーバに近づいていると思われる。肉体に備わった人間の神経活動全般がスマホの情報処理と通信の機能に置き換わって行っているのである。 いい悪いの問題ではない。必要だから頭脳活動が発達したのであり、必要が薄れれば頭脳活動も衰えていくのは当然である。馬鹿になっても幸せに暮らせるようになったのだから、ある意味、喜ぶべき事態なのである。 スマホ利用と学力や頭脳活動との関係については以上であるが、参考までに、スマホ利用と幸福感との相関についてもPISA調査で調べられているので、その結果を下に示した。 日本でもOECD平均でもネットを使いすぎている生徒ほど幸福感が薄いことが分かる。これについても、学力と同じにように、ネットを使いすぎるとと幸福感が薄まるのか、それとも薄幸の生徒ほどネットに走りがちだからなのかは分からない。両面があるのだろう。 (2022年11月27日収録)
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