技術依存度の推移を見た図録5700や日本の技術貿易収支の推移を地域別に見た図録5920でもふれているように、日本は1970年代初頭には、まだ、圧倒的に、技術輸入超過国であったが、その後、自前の技術力を高め、ついに1990年代半ばには、むしろ輸出超過(黒字)に転じた。その後も、この図録で見るように、黒字幅は順調に拡大し、今や英国を抜き、米国に次ぐ世界第2位の技術貿易黒字国となっている。日本のこうした黒字幅の拡大には、アジアなどへの企業の海外進出にともなう技術供与・技術指導を通じた受取額増加の影響が大きいといえる(下図に海外子会社との間の技術貿易収支とそれ以外に分けた推移を示した)。 米国は、1990年代半ばの段階では、他国を寄せつけないほどの技術貿易黒字大国だったが、いまや、日本や欧州諸国との差は縮まってきており、一時期、誇っていた世界の中での圧倒的な技術支配力は失われたことがうかがわれる。かつては米国の国内だけで何でも技術的に実現できたが、今では、米国でも(それ以外の国でもそうだが)、世界各国の得意技術をグローバルに集めて物事を実現する状況に変化したといえる。 さらに、日本と並んで欧州のドイツやオランダ、スウェーデンの技術貿易黒字も目立つようになっている。 なお、OECDのこの統計では、技術貿易黒字の国が多いが、一般の貿易と同じように、世界全体ではプラスマイナスゼロとなるべきデータである。中国を中心としたアジア地域が世界の工場として、先進国からの直接投資を受け入れてきていることで説明がつく。データがないが、中国の技術貿易の巨大な赤字拡大が裏に横たわっているといえよう。 これは、中国が技術後進国であることを意味するが、同時に、中国が現代的な経済成長パターンのさなかにあることを示している。現代では、技術進歩のスピードがかつてとは比較にならないほど速くなっており、企業単位でも国単位でも自前開発ですべての技術を揃えようとすると出遅れてしまう時代になったといえる。米国の黒字が圧倒的でなくなったのも、中国などで経済成長に伴って技術貿易の赤字が拡大しているのもそうした時代潮流のあらわれだという側面が大きくなっているためだと考えることができよう。半導体や液晶パネルで世界をリードしている韓国や科学技術立国の道を進み、今や(2015年には)、IMFデータでは購買力平価ベースの1人当りGDPが先進国第2位(日本は21位)にのぼりつめているシンガポールの技術貿易のマイナス拡大にもこうした傾向の一端があらわれているといえよう(図録4543参照)。 最後に、技術貿易収支の規模ではなく、対GDP比の各国比較の図を以下に掲げた。 技術貿易収支の黒字額の対GDP比が最も大きいのは、イスラエルであり、オランダ、スウェーデン、フィンランドがこれに次いでいる。こららの国は技術で稼いでいる側面が強い国といえよう。技術貿易黒字額の規模が大きい米国、日本、英国は、これらの国よりずっと小さい値である。 逆に、最も技術貿易収支の赤字額の対GDP比が大きい点で目立っているのは、シンガポール、ルクセンブルクであり、台湾がこれに次いでいる。これらの国は、技術輸出で稼いでいるという意味でハイテク国なのではなくて、技術輸入を経済発展につなげているという意味でハイテク国なのである。上でふれたように韓国なども同様のパターンであろう。 (2017年3月27日収録)
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