米紙ニューヨーク・タイムズによると、大統領選での敗北を認めていないトランプ米大統領は11月12日、イランの核施設をミサイルで攻撃する選択肢についてペンス副大統領やポンペイオ国務長官ら政権幹部に意見を求め、紛争拡大につながるとして制止されていたという。

 トランプ政権は、2018年に突如「核合意」から離脱して対イラン制裁を発動した。イランはその後も合意を履行し続けていたが、経済悪化とコロナ禍で昨年から合意破りに方針転換、低濃縮ウランの生産を増やし始めていた。

 今回のミサイル攻撃の検討は次期バイデン政権が核合意に復帰させないためのいやがらせを意図したものともとられているが、政権の移行時期に敢えて対外的な危機を煽る選択肢を検討する気持ちになったは、核合意からの離脱の際と同様に、やはり何とか選挙民から支持をとりつけたいという考えからなのではないかと疑ってしまう。

 英エコノミスト誌は、国家的な大異変に際して、政治指導者への支持が高まる現象をアカデミズムで「旗の下結集」(rally-round-the-flag)と呼ばれる効果によるものだとし、コロナの感染爆発による多くの国での指導者の支持率上昇の例(図録j032参照)とともに、ここで図録に掲げたようなその他の大事件・危機の例を示している(The Economist May 9th 2020)。

 フランスや英国の爆破テロや米国のハリケーンのような国内的な危機に関しては、政権による対応の適切さに対して国民が厳しい目を注ぐためもあって、必ずしも政治指導者の支持率上昇にはむすびつかない。

 一方、英国におけるフォークランド紛争のような対外的な危機に際しては、多くの場合、対応の適切、不適切を超えて、その時の政治指導者に対して、支持が高まる傾向が認められる。2011年に米国で起こった同時多発テロ攻撃は国内的な危機というより、戦争行為と国民がみなしたため、支持率も上昇したと考えられるのである。

 こうした実例から、為政者はとかく対外危機を煽りたくなる、あるいは煽りたくなっているのではないかと疑われることになるのである。

(2020年11月25日収録)


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