米国のトランプ政権をはじめ世界的にポピュリストと呼ばれる政治家の活躍が目立ってきている。ポピュリズムはどの程度、世界の中で影響力を増大させているのだろうか。

 そこで、ここでは、世界のポピュリスト政権の割合の推移を示した。データは、Funke,Schularick,Trebesch(2022)"Populist Leaders and the Economy"(HAL Discussion Paper DP15405)から取られており、GDPで世界の95%をカバーする60か国の100年以上を対象とし約1,500人の政治指導者についてポピュリストかどうかを判定している。ポピュリスト政権の判定には網羅的に文献が参照されており、この研究方法を著者は、いわゆる“big data”になぞらえ、a “big literature” approachと呼んでいる。

 論文が最終目標とするポピュリスト政権による経済的な影響の計量経済的な分析の大前提となるポピュリストの厳密な定義については後述の通りである。

 ポピュリスト政権の割合は最近は4分の1にも達している(2018年が16か国、26.6%と最多)。第二次世界大戦以前はヒトラー政権など強烈なポピュリスト政権が存在したが世界に占める数的割合はせいぜい10%前後だった。戦後直後も左翼政権を中心に1時期ポピュリスト政権割合が大きくなったが、先進国を中心に戦後の経済成長が続いていた時期にはいったん割合が低下していた。ところが1970年代から割合が増大しはじめ、冷戦崩壊後増勢が加速し、現在は、戦前を大きく越える割合にまで達しているのである。特に最近は右翼ポピュリズム政権が拡大している点が目立っている。

 なぜこのようにポピュリスト政権が多くなっているかについて論文は取り上げていないが、冷戦崩壊という世界政治の構造変化に加え、誰もが政治と関係する意識をもたらすインターネットやスマホの影響を無視できまい。

 具体的な政権名はページ末尾に掲げた。対象となった60か国のうちポピュリスト政権が登場したことがあるのは28か国であり、またイタリアやメキシコなど繰り返し登場する国とそうでない国とがある。日本では1回だけ、小泉政権が右翼ポピュリスト政権としてカウントされている。

 データの出所である論文の著者は、政治学の主流にならって、社会を「民衆people」と「エリートelites」とに人為的に区分し、自分こそ民衆の唯一の代表だと主張する政治リーダーをポピュリストと定義している。ポピュリストは民衆(我々)によるエリート(彼ら)に対する戦いを言い立てる。善意に満ちた民衆は虐げられている多数派であるのに対して、権力をふるう少数者であるエリートは、汚職にまみれ、自己利害しか考えていないとされる。

 この定義は、左翼にも右翼にも適用され、また時代によらず、大統領制か議会制といった政治制度によらず、先進国か途上国かも関係ないという意味で普遍的な定義とされる。さらに、インフレや財政赤字を厭わない所得再分配に傾く左翼政権でも反エスタブリッシュの主張がなければポピュリストではなく、大衆受けのため物事を単純化して語るカリスマ政治家でも民衆対エリートにフォーカスしなければポピュリストではない。英国のトニー・ブレアやサッチャー、あるいはロシアのプーチン、フランスのサルコジ、米国のレーガンも民衆とエリートの間の対立を政見の基本としてはいないのでポピュリスト政治家とは見なされない。

 左翼ポピュリズムか右翼ポピュリズムかは、攻撃する相手が経済エリートかそれとも外国人やマイノリティかによって決まる。攻撃する相手には、それぞれを擁護している政治エリートが含まれる。小泉政権については、「自民党をぶっ潰す」との小泉首相の標語も取り上げられており、官僚エリートや民営化前の日本郵政公社、そしてそれを擁護する自民党エスタブリッシュメントが攻撃対象だった点が右翼ポピュリズムの判定にむすびつけられている。

 上記論文は題名からも分かる通り、こうして定義されたポピュリスト政権が経済にどのような影響を及ぼしているかを計量経済学的に計測している。

 論文の要約によると結論は次の通りである。「我々は1900年から2020年までのポピュリスト大統領・首相を取り上げ、そのポピュリズムの経済的コストは高いことを示した。1人当たりGDPは15年間でポピュリスト政権でなかった場合と比較して10%ほど低くなっている。経済的な統合の棄損、マクロ経済的な安定性の減退、制度の浸食が典型的にはポピュリスト支配とむすびついている」。

 この点、左翼ポピュリスト政権か右翼ポピュリスト政権かは結果に余り差がない点も明らかとなっている。「さらに、「普通のひとびと」の利害を「エリート」に対抗して追及するという彼らの言い分とは裏腹に、所得分配は平均すると改善されない」(序文)。


 検索のためポピュリスト政権の一覧を図の順番に並べると以下である。アルゼンチン(イリゴエン、ペロン家、メナム、キルチネル家)、ボリビア(エステンスソロ/スアソ(MNR)、モラレス)、ブラジル(バルガス、コロール、ボルソナロ)、ブルガリア(ボリソフ)、チリ(アレッサンドリ/イバニェス)、エクアドル(イバラ、ブカラム、コレア)、ドイツ(ヒトラー)、ギリシャ(チプラス)、ハンガリー(オルバン)、インド(インディラ・ガンディー、モディ)、インドネシア(スカルノ、ジョコ・ウィドド)、イスラエル(ネタニヤフ)、イタリア(ムッソリーニ、ベルルスコーニ、レガ/M5S)、日本(小泉純一郎)、メキシコ(カルデナス、エチェベリア、オブラドール)、ニュージーランド(マルドゥーン)、ペルー(ガルシア、フジモリ)、フィリピン(エストラーダ、ドゥテルテ)、ポーランド(カチンスキー、SiS)、スロバキア(メチアル、フィコ)、南アフリカ(スマ)、韓国(盧武鉉)、台湾(陳水扁)、タイ(タクシン・チナワット)、トルコ(エルドアン)、英国(ジョンソン)、米国(トランプ)、ベネズエラ(チャベス/マドゥロ)

(2024年4月8日収録)


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