近年の社会の変化の中で大きいものの1つは、全国の市町村が半分近くにまで減った「平成の大合併」であろう。私が市町村の計画・調査をさかんにお手伝いしていた時期には、市町村数は3,250と区切りの良い数で記憶していた(250は1000の4分の1と憶える)。これが今や、合併特例法(新法)が期限切れとなり合併推進はこれ以上行わないとされる期限の2010年3月末には1,727となった。

 2009年の衆議院総選挙で自民党が大敗北した背景の1つには、選挙で自民党候補者を応援することの多い町村部の議員数が市町村合併に伴い激減したことがあげられる(下表の通り、市町村議員定数は6.1万人から3.8万人に減少、その多くは合併して消滅した町村部議員)。小泉政権以降「改革」の旗に下に市町村合併を推進した政権政党自民党はいわば自分で自分の首を絞めたわけである。

 この他、国民の地域生活にも様々な影響、そして大きな影響をこの市町村合併は与えていると考えられる。

 そこで、この図録では、明治以来の市町村数の変遷と「平成の大合併」における都道府県別の市町村数の変化をグラフ化した。

 都道府県別に市町村数の減少を見ると地域差が大きいのが今回の大合併の特色の1つであった。経済力、財政力の低い自治体にとっては、アメとムチが大きく効いたが、自発性のタテマエもあって、経済力、財政力の高い市町村自治体にあってはいくら規模の小さな市町村であっても、必ずしも周辺自治体からの合併の提案に乗る必要はなかったのである。

 市町村数の減少率が最も高かったのは長崎県、第2位は広島県であり、減少率は73%に達した。また、50%以上の減少率、すなわち半分以下に減った都道府県が26と過半数を占める。

 一方、東京都と大阪府では合併はそれぞれ1件のみであった。神奈川県、あるいは千葉、埼玉の都心に近い地域では、やはり、市町村合併はほとんど進まなかった。関西圏でも事情は似ていた。

 なお、平成の大合併で「村」がなくなった県は11、具体的には栃木県、石川県、福井県、静岡県、三重県、滋賀県、広島県、山口県、愛媛県、佐賀県、長崎県である。兵庫県、香川県はもともと「村」がなかったので「村」がない県は13となる。こうした県では県内市町村という用語は使えず、県内市町という他ない。

 全国の市町村数は、近代的な行政単位として市町村を創設した「明治の大合併」で約5分の1(7万から1万台へ)、民主主義を具現する地方自治体としての位置づけや行政的な役割強化に伴う「昭和の大合併」で約3分の1(1万台から3千台へ)に減少した。

 1999年から2010年にかけての「平成の大合併」は、前2回の大合併が上からの指示、指導の性格が強かったのに対して、地域の発意を基本とする下からの運動というタテマエをとり、合併を目指す市町村が自発的につくる市町村合併協議会により推進されたが、実際は、新旧の合併特例法、及び三位一体の改革が合わさったアメとムチにより促進された(下記年表参照)。

 アメの中心は、合併特例債であり(この他、地方議員の在任特例や市や政令指定都市への昇格の要件緩和)、ムチの中心は、合併しない市町村における地方交付税の減少(合併市町村でも一定期間後は同等となるわけであるが)であった。

「平成の大合併」年表
1997年 7月 政府「地方分権推進委員会」が合併推進を勧告(第2次勧告)
1998年 4月 第25次地方制度調査会が合併推進を答申
1999年 4月 「平成の大合併」第1号兵庫県篠山市誕生
7月 旧合併特例法施行(2005年3月までの時限法)
 主な内容
@合併特例債(特別の地方債であり合併後10年建設事業の95%に使用でき、国が70%を地方交付税で補填)
A合併算定替(合併しても合併前の市町村の基準で地方交付税額を保障)
B在任特例(旧市町村議員の任期を合併後2年間まで延長することが可能。実際は縮減圧力には抗せない場合も多かった。なお、合併を決断する市町村長には何の特例もなかった)
2000年 12月 合併後自治体数1000を目標とする「行政改革大綱」閣議決定
合併特例法改正/市の人口要件を3万人に緩和
2001年 7月 埼玉県上尾市で合併の賛否を問う全国初の住民投票
8月 国が政令指定都市の人口要件を70万人程度に緩和
2002年 1月 群馬県川場村と東京都世田谷区との飛び地合併構想浮上(非実現)
11月 西尾私案(地方制度調査会副会長が人口一定規模未満の自治体を他の自治体に「編入」することなどを提言)公表。全国の自治体に大きな衝撃
2002年度 小規模自治体向けに地方交付税を割り増す「段階補正」の削減開始
2004年度 三位一体改革(補助金と地方交付税を削減する一方で税源を国から地方へ移譲)の影響で地方交付税大幅カット(前年度23.9兆円から21.1兆円へと3兆円減)。「合併算定替」のアメの効果高まる
2005年 3月 旧合併特例法が失効。条件付きで1年間の適用延長
4月 新合併特例法(2010年3月末までの時限法)
 主な内容@合併特例債を廃止
       A合併算定替の保障期間を短縮
       B都道府県知事による合併協議会の設置勧告を可能に
旧静岡市と旧清水市が合併、政令指定都市静岡市誕生。人口約71万人
2006年 3月末 前年度末からの1年間に「駆け込み」合併増(05年3月末2,521→06年3月末1,821)
2009年 6月 第29次地方制度調査会が合併推進の打ち切りを答申
2010年 3月末 平成の大合併終結
4月 以下を廃止した延長法へ切り替え
・都道府県知事による市町村合併推進の構想、合併協議会設置の勧告
・三万市特例(合併する場合の市となる人口要件を5万人から3万人に緩和する特例)
(資料)東京新聞大図解「検証・平成の大合併」(2009.11.1)ほか

 平成の大合併に伴って、越県合併やブランド地名の乱立など様々な話題を生じたが、主なものを下の表に掲げた。

市町村合併にかかわる話題
都道府県名 話題
青森県 ・津軽で飛び地3箇所/現在の五所川原市、中泊町、外ケ浜町が地名をめぐるトラブルなどですべて飛び地合併となった。効率的で一体感のある行政運営上はマイナス。
秋田県 ・マンモス議会誕生/2005年3月誕生の大仙市(人口約9万6000人)では東京都議会を超える定数136のマンモス議会となった。これは在任特例によるもので現在の定数は30人。・由緒ある自治体名も消える/有数の観光地名を冠する「田沢湖町」「角館町」などが合併し仙北市となる
福島県 ・2001年10月、矢祭町が全国初の「合併しない宣言」。職員による役所掃除や議員報酬の日当制など徹底した自立を目指す。
埼玉県 ・さいたま市が政令指定都市に
東京都 ・合併は西東京市のみ(2001年1月、田無市と保谷市が合併)
神奈川県 ・相模原市が政令指定都市に(2010.4.1予定)
新潟県 ・市町村数減少率全国第3位(72%)・新潟市が政令指定都市に
福井県 ・ブランド地名乱立「越前」/「越前市」「越前町」「南越前町」という隣接3市町が誕生
山梨県 ・珍しい分村合併「旧・上九一色村」/オウム真理教の活動拠点があったことで知られる村は、生活圏に合わせて北部は甲府市、南部は富士河口湖町にそれぞれ編入
長野県 ・越県で新たな「夜明け」/文豪・島崎藤村のふるさとであり、中山道馬籠宿をかかえる旧長野県山口村は2005年2月、生活圏が一体化している岐阜県中津川市と合併
岐阜県 ・日本一広い高山市誕生/2005年2月、9町村が編入合併し高山市が誕生。新市面積約2,178平方キロは東京都約2,187平方キロと同等の日本一
静岡県 ・ブランド地名乱立「伊豆」/伊豆半島に「伊豆市」「伊豆の国市」「東伊豆町」「西伊豆町」「南伊豆町」の5市町が並立・静岡市と浜松市が政令指定都市に
三重県 ・外国人も住民投票/名張市では永住外国人にも合併の是非を問う住民投票資格が認められた
滋賀県 ・外国人も住民投票/旧米原町(現米原市)では永住外国人にも合併の是非を問う住民投票資格が認められた
大阪府 ・合併は2005年2月堺市に美原町(みはらちょう)が編入のみ・堺市が政令指定都市に
岡山県 ・岡山市が政令指定都市に
広島県 ・市町村数減少率全国第2位(73%)・由緒ある自治体名も消える/日本3景のひとつ「安芸の宮島」がある宮島町は2005年11月、他1町とともに廿日市市に編入合併
愛媛県 ・市町村数減少率全国第4位(71%)
長崎県 ・市町村数減少率全国トップ(73%)
大分県 ・市町村数減少率全国第5位(69%)
(資料)東京新聞大図解「検証・平成の大合併」(2009.11.1)

市町村合併の個別一覧(総務省市町村合併資料集ページ)

 なお、以下に平成の大合併の総括表を掲げた。この表は2009.11.19時点の2010年3月末見込み(総務大臣告示済ベース)によっているので注意されたい。

 合併前と合併後を比較すると、市町村数は半分弱に減少し(46%減)、その分、市町村の平均人口と平均面積は倍増している。

「平成の大合併」前後の変化
  合併前 合併後 期間
市町村数 3,232 1,742 1999→2010
全市町村の平均人口 3.6万人 6.8万人 1999→2010
全市町村の平均面積 114.8平方キロ 211.2平方キロ 1999→2010
合併自治体の平均人口 2.6万人 9.2万人 1999→2008.11.1
合併自治体の平均面積 100.9平方キロ 357.4平方キロ 1999→2008.11.1
人口1万人未満自治体 1,537 465 1999→2010年3月末見込み
市町村の職員数 154.6万人 133.9万人 1998.4.1→2008.4.1
市町村議員定数 61,595人 38,356人 1998.4.1→2007.4.1
(資料)東京新聞大図解「検証・平成の大合併」(2009.11.1)

(2010年2月26日収録、4月1日市町村数を3月末見込み数から実績数に更新)


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