韓国首相の発言が責任逃れの言い訳なのか、それとも事実に基づいているのかを確かめるため、「政府や警察による市民の監視や市民生活への干渉」への許容度を調べた2018年のISSP調査の結果(実査は2016〜18年)を図録にした。 2013年、米国のCIA(中央情報局)の 元職員エドワード・スノーデンの告発により、 NSA(国家安全保障局)によって世界中の市 民や政府要人の個人情報が大量に収集されて いることが明らかになった。この告発が、社会の安全と市民のプライバシーのバランスをどうとるか、各国で大きな議論の契機となった。 「政府の役割」をテーマにした2018年のISSP調査は、その中で、政府の監視に対する許容度を「防犯カメラ」(Keep people under video surveillance in public areas)、「電子メールなどネット情報」(Monitor e-mails and other internet information)についてきいている。また、警察のテロ対策に対する許容度を「電話の盗聴」(Tap people’s telephone conversations)、「手あたり次第の職務質問」(Stop and search people randomly)についてきいている。 グラフの国の並び順は、政府の監視と警察のテロ対策について、それぞれ、最初の設問の許容度の低い順とした。 結論から述べると、韓国についての上の疑問への答えは、ほぼイエスと言える。韓国人の許容度意識は「防犯カメラ」、「電子メールなどネット情報」、「電話の盗聴」については、対象国35か国のうち低い方から、それぞれ6位、8位、4位とかなり低く、下表のように日米など主要先進国と比較しても特段に低くなっている点からそれはうかがえよう。
軍事政権下の悪い思い出がこうした政府や警察からの干渉を嫌う態度に結びついていると言えないこともなかろう。韓国と同様に許容度が低くなっている国はどこかを確認してみると、共産圏時代に政府の監視が厳しかった東欧諸国やタイ、フィリピン、ベネズエラといった軍事政権の洗礼を受けている諸国なので、そうした面からも立論が裏づけられよう。 ただし、テロ対策としての警察の「手あたり次第の職務質問」に関しては同順位が27位と英国を除く主要先進国より許容度がむしろ高くなっており、情報面からの政府や警察の市民の自由への干渉とは異なる結果となっている。職務質問という対人接触を伴う市民生活への干渉については文化的なバイアスが情報についてよりも大きいのではないかと想像される。 フランスがテロ対策としての「電話の盗聴」について最も許容度が高いのに対して、同じテロ対策でも「手あたり次第の職務質問」への許容度は最も低い点にも文化的な背景を考えざるを得ないであろう。 そうした点が米国とフランスは似ており、韓国とハンガリーは正反対の状況にある点でこれまた似た状況にある。 なお、この調査が行われたのは,パリ同時テロ 事件(2015年11月)やベルギー連続テロ事件 (2016年3月)など,世界各地でイスラム過激派 によるテロが頻発した時期と重なる。警察のテロ対策として「電話の盗聴」を許容する意見がフランスとベルギーで1位と2位と特に多かったのはこの影響によるところが大きかろう。 政府や警察の干渉の中で「防犯カメラ」へと許容度が相対的に高い点も調査結果からうかがわれる。これに対して「電子メールなどネット情報」への許容度はかなり低い。35か国の単純平均では、前者の許容度は65.8%であるのに対して、後者の許容度は33.7%と約半分となっているのである。 日本でも自治体 が防犯カメラの設置費用を助成するなどの取り 組みによって,防犯カメラの台数が大きく増え, 今や犯罪捜査に欠かせないものとなっている。 防犯カメラによる監視の許容度が比較的高いの は,防犯カメラが身近な安全を保障してくれる という安心感のあらわれなのであろう。 参考文献(一部引用):村田ひろ子「日本人が政府に期待するもの」(NHK放送文化研究所「放送研究と調査」2019年7月号) 35の対象国を最初の図の順番で掲げると、スロベニア、クロアチア、ジョージア、スリナム、ハンガリー、韓国、スペイン、ベネズエラ、トルコ、チェコ、スロバキア、スイス、南アフリカ、ドイツ、イスラエル、米国、ロシア、ノルウェー、リトアニア、日本、チリ、ベルギー、ラトビア、フランス、ニュージーランド、タイ、英国、デンマーク、フィリピン、インド、スウェーデン、アイスランド、オーストラリア、フィンランド、台湾である。 (2022年11月6日収録)
[ 本図録と関連するコンテンツ ] |
|