国によって相続税の水準がどう異なるかを理解するために、各国における相続税収額の税金総額に対する比率をグラフにした。

相続税の機能としては、以下の2つがあるとされる(国税庁資料)。
・所得税の補完機能
被相続人が生前において受けた社会及び経済上の要請に基づく税制上の特典、その他による負担の軽減などにより蓄積した財産を相続開始の時点で清算する、いわば所得税を補完する機能である。
・富の集中抑制機能
相続により相続人等が得た偶然の富の増加に対し、その一部を税として徴収することで、相続した者としなかった者との間の財産保有状況の均衡を図り、併せて富の過度の集中を抑制する。
 かつて、贈与税がなかった時代には、財産を生前贈与によって移転することで、容易に相続税課税の回避を行うことができた。特に英国では1974年まで、贈与税がなかったことから、世襲貴族などの資産家の富の承継が可能で、貧富の差の拡大を招いたといわれる。

 贈与税は、従って、相続税の補完税としての側面が強い。

 米国では相続税は「遺産税」(Estate Tax)とよばれる。相続税が、相続財産を法定相続人に分け、その後で税金を払うのに対し、遺産税は、相続財産から税金を差し引き、残りを相続人で分ける。 よって、相続税は相続人の数によって控除額が変わるが、遺産税は人数に関係なく一定となる。

 こうした事情からデータでは、遺産税や贈与税を相続税の一部としてカウントしている。

 OECD諸国の中では韓国の相続税の税収比率が1.59%と最も高く、ベルギー、フランス、日本がこれに続いている。日本は1.33%である。これら4カ国のみが1%を越えており、次のフィンランド以下は、ずっとこの値が低くなる。

 こうした相続税の重さの違いは、課税最低限となる資産額によって大きく影響されている。下図には、相続税の対象となった不動産の割合を示した。米国では対象となったのは0.2%に過ぎず、それでも相続税収額の比率がOECD平均よりは高いということは、富裕層の保有不動産がいかに巨額であるかがうかがわれる(米国の富裕層の資産独占状況は図録4640参照)。


 一方、スウェーデン、オーストラリアなど相続税がそもそもゼロの国も多い。37か国中12カ国が相続税収がゼロである。

 米国においては、生きている間に稼いだお金に所得税がかかり、死んでからも相続税がかかるのは不公平とするのが、共和党の伝統的な考えであり、ブッシュ政権は2001年に、2010年までに相続税を廃止する法案を通した。ところが、2010年にオバマ政権は相続税制度の維持を行った。米国内では、ジャック・ウェルチ、ビル・ゲイツといった金持ちは、人は皆平等という観点や階級の固定化による経済的弊害の観点から相続税の維持を主張しているが、国民の間では廃止論も根強いという(ウィキペディアによる)。

 以下には参考までに日本における相続税の税率を示した。


 相続税のいまの最高税率は相続財産6億円超のばあいの55%である。時代をさかのぼると1988年までは最高税率は75%だった。第2次世界大戦時に日本では高額所得者は金銭で兵役を逃れた歴史があり、「せめて税金で痛みを」との世論を反映した税率だったと言われる(東京新聞、2022年2月25日)。

 2000年代に欧米を中心に相続税廃止ブームが起り、国際的な潮流に乗る形で日本も2003年に最高税率を50%まで引き下げた。その後、2015年に55%となり、現在に至っている。

 相続税の税率を上昇させれば格差是正に役立つと思われがちだが、税率を上げると「超」高所得者の中には合法的な税逃れが生じたり、海外に移転したりしてしまうので、効果は限定的であるのが実情のようだ。

 冒頭図の対象国は37か国であり、図の順にオーストラリア、オーストリア、コロンビア、チェコ、エストニア、イスラエル、メキシコ、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガル、スロバキア、スウェーデン、リトアニア、カナダ、ポーランド、ハンガリー、スロベニア、イタリア、トルコ、ラトビア、チリ、ギリシャ、アイスランド、ルクセンブルク、米国、オランダ、ドイツ、デンマーク、スペイン、スイス、アイルランド、英国、フィンランド、日本、フランス、ベルギー、韓国。

(2022年12月17日収録)


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