名も知らぬ 遠き島より 流れ寄る 椰子の実一つ
 故郷(ふるさと)の岸を 離れて 汝(なれ)はそも 波に幾月 …

 「椰子の実」は島崎藤村が詠んだ詩であり、柳田国男が伊良湖岬(愛知県渥美半島突端)に滞在した時の「風の強かった翌朝は黒潮に乗って幾年月の旅の果て、椰子の実が一つ、岬の流れから日本民族の故郷は南洋諸島だと確信した」といった話を、親友だった島崎藤村にし、藤村はこの話にヒントを得て、この詩を詠んだといわれる。

 海外からの漂着に関しては、こうしたロマンチックな話は過去のものとなり、現代では、国内の沿岸地域で漂流・漂着ゴミの処理が深刻な問題となっている。そこで全国7県11海岸をモデル地域として漂流・漂着ゴミに関する調査が行われた(報告書)。

 漂着ゴミの発生国については、漂着したライターとペットボトルについて、各地区で季節を変えて回収調査が6回実施された。図では2〜6回のペットボトル調査の結果をかかげている。

 モデル海岸で回収されたペットボトルは、対馬(長崎県)、石垣島、西表島(以上、沖縄県)などの離島では外国のものがほとんどを占め、それ以外の地域では国内のものが半数以上となっていた。

 国別では、中国のものが最も多く、また熊本県上天草市と三重県鳥羽市を除く山形県に至るモデル地域全体にわたっていた。韓国製のものも同じ地域で広く回収された。この他、沖縄・九州では台湾製、北陸・東北の日本海側ではロシア製のペットボトルがかなり見られた。

 沖縄で中国・台湾製の漂着が多いのは当然であるが、韓国から至近の距離にある対馬においても韓国製より中国製の漂着が2倍以上となっているのには驚かされる。海流の影響が大きいことがうかがわれる。柳田国男が生きていれば「日本民族の故郷は中国だと確信」するのではなかろうか。

 報告書(環境省「平成19・20年度漂流・漂着ゴミに係る国内削減方策モデル調査総括検討会報告書」)は以下のように記述している。

「この国別分類は、ペットボトルのラベルやライターに表記された言語、ライターの刻印等によるものであり、必ずしもゴミの発生した国と一致しない。...

 沖縄県や日本海側のモデル地域の近海は、黒潮や対馬暖流が流れている。また、東シナ海大陸棚上...では、黄海から東シナ海への流れが確認できる。

 海外のものの割合が多い地域は、当該地で海外のゴミが発生しているとは考えにくく、これら海流によって海外から運ばれてきたものが漂着している可能性が高い。

 一方、日本の割合が多い三重県や熊本県では、沖合海域に黒潮及び黒潮から派生した流れがあるものの、離岸距離が長いため他の県に比較してその影響が小さいものと推定される。」

 漂流・漂着ゴミ全体の種類としては、日本海側はプラスチック類が3〜4割、山形県、三重県、熊本県では、流木・灌木が7〜9割、沖縄県では、ゴミの種類が多様にわたるなど地域による違いがあったといわれる。

 なお、モデル地域11箇所は、南から沖縄県竹富町(西表島)、沖縄県石垣市(石垣島)、熊本県上天草市(樋島)、熊本県苓北町(富岡)、長崎県対馬市(志多留)、長崎県対馬市(越高)、三重県鳥羽市(答志島)、福井県坂井市、石川県羽咋市、山形県酒田市(赤川河口部)、山形県酒田市(飛鳥西海岸)である。

(2009年6月15日収録)


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