もともとの種の数の多さから生物多様性の程度を見てみよう。各国の国土面積は同じでないので生物種の絶対数では必ずしも正確な多様性を判断できないが一つの判断材料にはなる。 哺乳類の種数は、メキシコの525種が一番多く、米国、オーストラリア、カナダといった大陸レベルの国が続き、日本は第5位の180種である。ヨーロッパのどの国よりも多い点が目立っている。 鳥類に関しては、やはりメキシコが千種以上と最も多く、米国、オーストラリアがこれに続き、日本は第4位の700種である。哺乳類と同様ヨーロッパのどの国よりも多い。ヨーロッパの中ではアイルランドが最も多い610種となっている。 維管束植物(種子植物とシダ植物)では、メキシコが2万3千種でやはり最も多く、米国、オーストラリア、トルコ、スペインと続いている。日本は7,000種で第6位である。 メキシコが3つの生物群のすべてで種の数が最多であるのは、国土の大きさばかりでなく、OECD諸国の中で、唯一、種の数が他の気候帯に比べ格段に豊富な熱帯雨林気候の地域を抱えているからであると考えられる。 日本列島は南北に長く、気象も寒暖の差ばかりでなく、四季により多様である。地形も地域ごとに海岸、平野、河川、山岳と複雑に構成されている。このため、元来、生物多様性に富んだ地域であるとされる。上記のように、大陸レベルの国と肩を並べるような生物種の数を日本が抱えている点にこうした特徴をうかがうことができよう。 次ぎに、こうした生物多様性がどのような危機に直面しているかについてふれよう。 OECD各国の絶滅危惧種の比率に着眼して、OECDの報告書(Key Environmental Indicators 2008)は以下のようなコメントを加えている。 「こうした指標は、なお、絶滅が危惧される種の比率が高いことを示している。特に、人口密度の高い国、そして人間の活動の集約レベルの高い国でそうしたことがいえる。 ほとんどの国で、保護エリアの中での種の生存区域の縮小、変容ばかりでなく、保護エリア外(農地や森林といった)での土地利用や集約度の変化によって、無視し得ない比率の種の絶滅が危惧されている。一般的に、保護エリア外における生存区域の縮小や分散化を緩和する措置についてはほとんど前進が見られていない。」 日本の絶滅危惧種の比率は、哺乳類、鳥類、維管束植物が、それぞれ、23.3%、13.1%、24.1%となっている。OECD30カ国の中の順位では、それぞれ、11位、22位、10位となっており、先進国の中でも生物種の絶滅が危惧される程度は決して低いとはいえない。 絶滅の危惧の大きな国としては、鳥類と維管束植物でOECD1位の比率をもつチェコ、また3つの生物群がすべて10位未満の国としてベルギー、ドイツ、ルクセンブルクをあげることができる。 逆に、絶滅の危惧の小さな国としては、3つの生物群の絶滅危惧比率がすべて20位以下の国として、韓国とアイルランドをあげることができる。 メキシコは上記の通り、元来、生存種の豊富な国であり、絶滅危惧種の比率が特段高いわけではないとしても、絶滅危惧種の種の絶対数としては、哺乳類と鳥類に関してOECD諸国の中で他を引き離して最多となっている。比率だけでは判断できない特別の配慮が必要だと考えられる。 ここで、取り上げた国はOECD30カ国、具体的には、図の順にカナダ、メキシコ、米国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、オーストリア、ベルギー、チェコ、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイスランド、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、英国である。 (2009年10月26日収録)
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