厚生労働省が行っている国民生活基礎調査は、毎年の簡易調査の他に3年ごとに大規模調査が行われ、この際には簡易調査の世帯票、所得票に加えて健康票、介護票による調査が実施される。また世帯票、健康票については、サンプル数が全国の30万世帯、74万人と簡易調査の5倍に拡大された調査が行われる。

 この健康票では、体の具合の悪いところ(自覚症状)があればどんなところかをきいており、大規模調査だけに、それぞれの症状について、男女年齢別だけでなく、職業別にも細かく集計されている。末尾にこの健康票の該当部分を掲げた。

 図は、職業別に「もの忘れ」という症状がある人の割合をY軸方向にプロットしている。最ももの忘れの多い職業は農林漁業の4.7%であり、最も少ない職業は保安職の1.4%である。

 全体として、高齢者ほどもの忘れは多くなるので、高齢者の多い職業ほど「もの忘れ」割合も高くなっている状況が、X軸に高齢者割合を取った相関図で右上がりの傾向が認められる点にあらわれている。年齢と「もの忘れ」の相関については図録2131参照。

 年齢構成を考慮すると、回帰直線より上の職業は年齢構成の割にもの忘れの多い職業であり、下の職業は年齢構成の割にもの忘れが少ない職業だといえる。

 現場職系の保安職、運転職、あるいは建設職は「もの忘れ」が比較的少ない職業だと言える。ホワイトカラー系はだいたい年齢の割に「もの忘れ」が多い職業だと言えるが、管理職だけは、むしろ、例外的に少なくなっている。

 「記録」と言うより「記憶」に頼らねばならない職業、その中でも安全に関わる職業では、「もの忘れ」が少ない傾向があると考えられる。

 相関関係を調べるとき、果たして直接の因果関係があるのか、また、どちらが原因でどちらが結果かは十分吟味する必要がある。職業の特性でもの忘れが多くなるのか、それとももの忘れが多いとその職業に就けないのかを考えておかねばならない。

 例えば、警察、消防、自衛隊、警備員からなる保安職、車のドライバーが多くを占める運転職などは、人命にかかわる職業なので、もの忘れの多い者は最初から雇用されないか、あるいはもの忘れが多いことで辞職に結びつきやすいという側面もあろう。

 だが、基本的には、その職業の影響で「もの忘れ」しやすいかどうかが、決まる側面が大きいのではないかと見られる。

 もの忘れと認知症とがどれほど密接に結びついているかは分からない。しかし、もの忘れが少ない職業に長く就いていれば認知症になりにくいとはいえるかもしれない。

 週刊現代は2018年8月4日号で「「かかりやすい病気」は職業で決まる」という記事を掲載している。本図録もこの件について取材している記者からの問い合わせをきっかけに作成したものである。

 記事では、医師からの取材で、同じ仕事の繰り返しが多い教師や公務員をしていた者に認知症が多いという点を指摘している。

 この記事では、「デスクワークの多い会社員は総じてもの忘れをする傾向が高いものの、車のドライバーや警察・消防、警備といった保安職はもの忘れが比較的少ない職業と言えます」という当図録を踏まえた私の見解を引用している。

 記事によれば、湘南長寿園病院院長のフレディ松川氏も同様の見解をもっているらしい。「臨床の現場でもこうしたデータを裏付ける声が上がる。前出の松川氏はタクシー会社で産業医を務めており、その経験から運転手は認知症になりにくいと断言する。「運転という仕事は毎日同じかもしれませんが、常に交通状況や天候などを考慮し、ルート選択で頭を使っています。ただし、生活が不規則だし、運動不足になりがちなので、寿命自体が長いとは言えませんが」」

(2018年7月26日収録)


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