耕地面積に放牧地(Pasture area)を含めると農薬をほとんど使わない農地まで含まれてしまうのでここでは、樹園地など永年作物栽培地や栽培牧草地を含む耕地面積(Arable and permanent crop area)を使用した(同じデータベースにデータあり)。 単位面積当たりの農薬使用量がただちに環境負荷の程度を示すものではない。農業外利用があるほか、気候や生物循環のスピード、農耕形態の違い、農薬の強烈さ、残留性などによって環境負荷は大きく影響されるからである。このデータを使ったOECDの報告書『1990年以降のOECD加盟国の農業に関する環境パフォーマンス』(2008年6月)では無用の誤解を避けて面積当たりの指標ではなく増減指標のみを算出している。 農薬使用量の推移については多くの国で横ばいか減少傾向にある。特に日本やオランダといった集約園芸的生産に特徴のある農業では農薬使用量の水準は高かったが近年は減少傾向にある点が目立っている。有機農業の普及もこうした減少傾向に影響していると考えられる(なお効き目の高い劇薬に近い農薬が先進国では使用禁止等になっている点は別途考慮する必要がある)。 米国、ドイツ、フランスといった穀作農業の比重の高い国では単位面積当たりでは農薬使用量はそれほど多くない。フランスを除くとそれはど使用量も減っていない。ただし上記OECD報告書によれば米国においても農薬規制や非化学的農薬の普及などにより作物生産量に比して農薬使用量は減少と分析している。 イタリアの農薬使用量はやや増加しているが、OECD報告書によれば最近は有機農業の普及により減少傾向とのことである。 OECD報告書によれば日本の農薬使用量は作物生産量以上に減少しており農薬の効率的利用が進んだ結果と分析されている(ただし非化学的農薬経営は2%、有機農業の農地は1%となお少ないと指摘されている)。 オランダ農業は輸出向けを向けを含めた野菜や花きなど集約園芸に特徴があり、面積当たりの化学肥料や農薬の使用量が多く、農薬大国として知られていた。ところが輸 出先であるドイツの環境意識が高まり、国内でも反対運動も起こって天敵(生物農薬)の活用など環境保全型農業への積極的な転換を図ったとされる。データを見る限 りも1990年代初め頃から顕著に農薬使用量が減少している。 農薬規制の強化については、日本では2003年の食品衛生法の改正により、2006年5月末からポジティブリスト制が実施され、各作物について基準が設定されていない農薬が一律基準(0.01ppm)以上含まれる食品の流通が禁じられた。以前はネガティブリスト方式であり、超えてはならない農薬残留値リストに無い海外使用の農薬などの残留を規制できなかったので、導入された新制度である。農業者にとっては、農薬使用基準の遵守の他、農薬散布時のドリフト(飛散等)により、リストにない他作物で規制がかかるといった思わぬ影響がでないようにすることが大きな課題となった。 ヨーロッパでもEU議会で農薬規制の強化のための立法が準備中である。これは評価の基準をリスク(risk)から有害性(hazard)にシフトするものであり、「新しいルールは、生産者がその使用が安全であることを証明しない限り販売が禁じられると言う哲学を有している」と言われ、「最も有害な農薬は市場から消えるもののあろうと予測されている。」(英エコノミスト誌(The Economst 2008.7.5)の「農薬規制−リスクのバランス」による。以下同様)「規制の内容次第では、広く用いられている殺虫剤のピレスロイドも1種類を除いて違法とされる可能性がある。」 促進派は「1980年代に制定された現行法はワークしていないと主張している。」確かに、「最大残留基準(MRLS)を超えた食品の比率は長年横ばいのままである。」他方、多くの農学者は、こうした変化が広がれば農産物価格の上昇は避けられないと指摘している。「英国の環境・農村コンサルタント組織のADASの報告書によれば、最小の影響でも食料生産は4分の1減るであろうとのことである。イタリアの報告書も1月に同様の数字を出している。」 「科学者は科学者、政治家は政治家である。懐疑論者の声に対応して、6月23日のヨーロッパ農相会議は妥協案をひねり出し、特定の農薬の代替物が得られないと思う国は、その農薬の継続使用を求めることができるようにした。この妥協は緑派を怒らせる一方、農学者も英国議会も喜ばせてはいない。」現行システムを評価している「Denholm博士も、例外規定は「全く非現実的だ」と見なす。例外規定の適用を受ける作業は余りに役所仕事であり、2年間もの審査期間がかかるであろうというのだ。」 このように農薬規制については日本でもヨーロッパでも安全と生産性とのジレンマにさらされている。 関心を持たざるを得ない中国の農薬使用量については、中国の公式統計集である中国統計年鑑に掲載されている播種面積と化学農薬生産量のデータから計算した量をグラフにした。輸出入がないとした場合の使用量である(実際は2006年に農薬の生産量が139万トンであるに対して、輸入量が4万3千トンであり、有機化学製品全体と同様に輸出量を上回っていると考えれる)。OECDデータと異なり有効成分量でなく薬剤そのものの重量なので有効成分はもっと少ない筈である。また他国とは異なり耕地面積でなく播種面積を使っているので、果樹園・茶園など樹園地が入らないこと、逆に多毛作がダブルカウントされることを考慮しなければならない。FAO統計の耕地面積と中国統計年鑑の播種面積は近年はほぼ同等となっているので、プラスマイナスが打ち消し合っていると考えられる。もっとも中国の面積統計は基本的に過少報告ではないかという疑念も抱かれていることも考えに入れておく必要がある。 中国の場合は、近年、農薬使用量のレベルがかなり上昇してる点が目立っている。大きな国土の中では自給的な穀作農業のエリアも多いと思われるので集約園芸的な農業では非常に農薬を多く使用しているのではないかと推測させるレベルに達しているといえよう。 (2008年7月7日収録、8月21日日欧の農薬規制についてのコメント追加、2009年9月14日データベースのリンクと耕地面積定義コメント追加、10月28日中国データ更新、2013年8月4日原資料をOECDからFAOに切替えて新版へ移行)
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