かつてはコーヒーを飲むとき砂糖を入れるのが普通だったが、今はブラックか、ミルクを入れるだけで飲む人が増えている。

 こうした点を全日本コーヒー協会の「コーヒー需要動向調査」の時系列データで追ってみよう。

 オイルショックから10年、バブル期に日本が突入する直前の1983年には、コーヒーを砂糖とミルクを両方入れて飲む人が61.1%と多数派であり、砂糖だけを入れて飲む人の14.1%を合わせると75.2%と4分の3の人が砂糖を入れていた。

 その後、年々、砂糖を入れないで飲む人が増えて来て、2022年には、コーヒーをブラックで飲む人が46.9%と多数派となり、ミルクだけを入れて飲む人の25.4%を合わせると72.3%とやはり4分の3の人が砂糖を入れずにコーヒーを飲むようになった。

 この40年で砂糖派と非砂糖派が見事に逆転していることが分かるのである。

 この図録の出所となった澁川祐子「味なニッポン戦後史」ではこうした変化について以下のように述べている(p.154〜156)。

 食品科学を中心とした著作を多く残した河野友美は1980年(昭和55年)刊行の『日本人の味覚』(玉川大学出版部)で、「コーヒーが一般によく普及してからの年月が浅いせいかコーヒーを飲む場合、ずい分甘くして飲む人が多い」現状にふれ、「まだ甘味をたっぷり要する伏態、つまり、子どもの嗜好に以ているのではないか」と指摘している。つまり、子どもは甘いミルクコーヒーを人り口にしてその苦味に親しんでいくが、日本人とコーヒーとの付き合いはまだその段階にあって「本当に苦味そのものを味わうまでに至っていない」と容赦ない。

 そう書かれたときから40年余り。三章で述べたように(注)、1990年代に無糖の缶コーヒーが人気を博したあたりから潮目が変わったのだろう。今では少なからぬ人がブラックでコーヒーを飲んでいる印象がある。

(そして当図録のデータを解説したのち−引用者)

 甘くないコーヒーに親しむ人が、少数派から多数派へと見事に逆転したことがはっきりと数字に現れている。河野の表現を借りるなら、長い年月をかけて、ついに日本人もコーヒーの苦味が分かる大人に育ったのである。

(注)朝日新聞は「無糖飲料『味で勝負』」と題した記事(1994年10月24日朝刊)で、5年前に各社が一斉に出したが当時売れなかった無糖缶コーヒーが猛暑だったこの夏にはハトムギなどを使ったブレンド茶とともに「売れに売れた」と報じた。また2007年には「コカ・コーラ・ゼロ」が日本で発売(p.92)。

 下には、2022年度の「コーヒー需要動向調査」から性・年齢別のコーヒーの飲み方のデータを掲げた。年齢別に見ると若い世代ほどコーヒーに砂糖やミルクを入れて飲む傾向が明らかである。高齢者は苦味に鈍感になる、あるいは苦味を楽しめるようになるため、ブラックで飲む人が多い。従って、冒頭の時系列変化には高齢化の影響も多少はあると考えられよう。


(2024年6月6日収録)


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