臭い食べ物のランキングをかかげた。順位はアラバスターという器械で測ったAuという臭さ単位の順である(食べ物でないが、履いた靴下で120Au、野球部の練習後のストッキングで420Auという記録もある)。

 第1位は、開缶直後のシュール・ストレンミング、第2位はホンオ・フェ(韓国のエイ料理)で6千〜8千Auとなっており、第3位のエピキュアーチーズ(缶詰チーズ)の1870Auを大きく上回っている。

 くさやの焼きたてと焼く前を1種類とすると、上位10種類のうち7種がアジア産であり、その中でも4種が日本産である。アジアや日本の食品の独特さをあらわしていると言えないこともない。

 以下これらの臭い(が美味い)食べ物に関して、下表で解説を加える。

臭い食べ物の解説
シュール・ストレンミング スウェーデンの魚(ニシン)の缶詰。発酵して缶が膨張し爆発寸前状態にある。開缶にあたっての4つの注意事項が缶詰に書かれているという。@家の中では開缶しない、A開缶するときは必ず何か不用なものを身にまとう、B開缶する前に必ず冷凍庫に入れてガス圧を下げておく、C風下に人がいないかどうかを確かめてから開缶。残念ながら日本では缶の爆発の危険性と食品衛生法上から輸入が禁止されている。
ホンオ・フェ 韓国の食べ物で魚のエイを発酵させたもの。5ミリぐらいにスライスして、醤油、コチュジャン、ニンニク、ネギの入ったタレにつけ、ゆでた豚の3枚肉とサンチュに包んで食べる。とても高価で、韓国では主として結婚式の時に出されるが、強烈なアンモニアのために食べるとぼろぼろ涙が出てくるという。
エピキュアーチーズ ニュージーランドの缶詰チーズで熟成を缶の中で行うため乳酸菌発酵に伴う炭酸ガスや硫化水素などにより缶詰は膨満し破裂しそうな形状を呈する。味は酸味が強くがコクがあり、においはどんなチーズより強烈ですごみを帯びているという。
キビヤック カナディアン・イヌイットたちの食べ物。アザラシのお腹の中に海燕の一種であるアパリアスを60〜70羽ぐらいを詰め込み、土の中で3年ほど発酵させた食べ物。アザラシの脂肪とともに発酵した海鳥肉の体液を食す。ビタミン豊富で煮た肉や焼いた肉にこれをつけて食べる。
くさや サメの頭、魚の内臓や血液などを海水に入れて発酵させた「くさや液」に、ムロアジなど魚の開きを2時間ぐらいつけてから天日で干すという操作を繰り返して仕上げる魚の干し物。くさや液は先祖代々繰り返し連続使用しているという。
鮒鮓 近江産が名高い鮒でつくったなれ鮓(すし)。なれ鮓は魚や鳥獣肉に塩をして、米飯のようなデンプン質とともに保存して、乳酸発酵をさせて作った発酵食品であり、発酵した米飯部分は捨てて魚肉部分だけ食べていた(にぎり寿司はネタをなれ鮓が淡水魚中心だったのを海産魚に変え、酢飯とともに食べれるようにした即席食品)。
納豆 仏教伝来以来肉食への傾斜は小さくなった日本人は、味噌、醤油、豆腐とならんで、納豆を貴重な蛋白源とした。醤油の匂いと合い、漬け物や味噌、くさや、熟鮓とも共通する匂いを有する。「朝霜やむろ揚屋あげやの納豆汁」蕪村(室=港町の名称、揚屋=安い遊郭)
沢庵 大根の糠漬け。大根には他の野菜より多くの含硫化合物(メチオニン、システインなどの含硫アミノ酸やチオシアネートなどの硫化物)を含まれ、糠漬けの発酵過程で微生物の分解を受け揮発性硫黄化合物となって飛散するため、強烈な臭みとなる。
臭豆腐 チートウフウ。植物の汁と石灰等を混合し、納豆菌と酪酸菌によって発酵させた漬け汁に豆腐を一晩程度つけ込んだ食べ物。
ニョクマム ベトナムの魚醤。東南アジアには、他に、タイのナム・プラー、ラオスのナム・パー、カンボジアのマム、ブラ・ホック、ミャンマーのガビ・ガゥンといった魚醤がある。
(資料)小泉武夫「発酵は力なり―食と人類の知恵 (NHK人間講座 (2002年6月~7月期))、同「くさいはうまい」文春文庫(2006年)、柳田友道「うま味の誕生―発酵食品物語」岩波新書(1991年)

 さらに、小泉武夫氏の2015年の新刊には、種々の臭い食べものが★1つからから★5つ以上にまで臭さのランク付けをされていて解説が加えられている。ここでは、最上位の★5つ以上と★5つについて一覧表を作成したので以下に掲げる。

くさい食べもの一覧 (無印は原資料における「★★★★★以上」、*は「★★★★★」、それ未満の星数の食べものは略
魚類 シュール・ストレンミング 上表の通り
ホンオ・フェ   〃
くさや   〃
サバ(鯖)の熟鮓 塩サバと麹と米飯をまぜおよそ2カ月じっくり発酵させて北陸の各家庭や寺院でつくる日本海沿岸の熟鮓の代表。
くされ鮓、本熟鮓 サンマやサバ、アユ、ハヤなどの魚に塩をたっぷり加え、1か月〜1年漬け込み、塩抜き後、炊いた飯を棒状にまるめて魚のおなかに詰め、樽に隙間なく並べ、重石で発酵させる和歌山県新宮市など太平洋岸の熟鮓。30年もののサンマの本熟はドロドロの粥状
フナ鮓* 上表参照。琵琶湖に生息するニゴロブナを原料につくられる現存する日本最古の熟鮓。子持ちのものが特に珍重され、お茶漬けにしても絶品。「鮒ずしや彦根の城に雲かかる」蕪村
パー・ソム* 東北タイの熟鮓で、淡水魚のパー・ソイの頭と内臓を取り除き、炊いたもち米、塩、ニンニク、砂糖を混ぜて発酵・熟成させ、5日ほど置いてつくる。密閉しておけば50日間保存可能。タイにはこの他の熟鮓として、魚や獣肉を切り刻んで肉を米飯で漬けた「パー・マム」、魚を麹で漬け込んだ「パー・チャオ」、塩辛タイプの「パー・チャム」がある。
魚醤 いさじゃ漬け アミを塩で発酵させたくさやの漬け汁そっくりの強烈なにおいの魚醤で秋田の八郎潟の農食民文化のひとつとして残る。最近は臭ささをマイルドにした瓶詰めも売られている。
肉類 キビヤック 上表の通り
大豆製品 腐乳フウルウ(臭腐乳) 中国大陸や台湾で普通に食される豆腐を腐らないように発酵させた食品。カビを生やした硬めの豆腐を塩水に漬けカビを落とし、かめにいれて白酒をふり、泥の中に埋めて1〜2カ月発酵・熟成させ、チーズに似た猛烈に強い酢酸臭を付加させたもの。
臭豆腐チイトウフウ 上表参照。他の豆腐発酵食品の追従を許さない猛烈な臭みを有する。納豆菌と酢酸菌で発酵させたものをさらにもう一度塩汁の中に漬けて発酵・熟成させるものと、酢酸菌や乳酸菌、納豆菌、プロピオン菌などで、強烈なにおいをもつ漬け汁を発酵させておき、その発酵汁の中に豆腐を漬けるタイプのものの2種がある。
野菜・果物 ニンニク 世界各国で香料、薬味、民間薬、強精剤として使用される植物系の中で最もくさい食材。食べた人の息まで、しかも翌朝まで持続するのはニンニクだけ。
ギョウジャニンニク ユリ科の多年草で北海道、東北、長野あたりの味覚のひとつ。野生のもののほうが臭い。
ギンナン(銀杏)殻付き* ギンナンの臭いの本体は外側の果肉状の皮に存在しており、踏み潰すとこの皮が破れて悪臭成分がどっと放たれることとなる。
酒類 アマルワ 東アフリカのウガンダ共和国バトロ族が常飲するバナナ酒。収穫バナナの熟成工程の後、穴の中で足で踏み潰すなど手の込んだステップで液状化させ、さらに濾過汁を放置して自然発酵させる。地域全体に猛烈なにおいが漂い、このにおいから逃れるには、においに気づいた数キロ圏内の住民がみんなで集まって来て飲み干すしかないという。
茅台酒マオタイチュウ* 貴州高原の東に位置する茅台鎮でつくられる代表的な白酒パイチュウ。白酒は普通の酒と異なり液体発酵でなく穴の中での固体発酵という中国だけにしか見られない製法でつくるコウリャン、小麦を原料にした蒸留酒である。蒸したコウリャン、大量の大曲(麹)の小麦、固定もろみによる多次にわたる発酵、蒸留が特徴。
汾酒フェンチュウ* 山西省杏花村で産する白酒であり、甑で蒸したコウリャンに青薦曲を加え、土の中に埋めた大きな陶磁器のかめで仕込むのが特徴。
西鳳酒シイフォンチュウ* 陜西省鳳翔一帯で産するアルコール度数65%の白酒。血料紙(豚の血と石灰を混ぜてつくった丈夫な麻紙)を何重にも貼った酒海と呼ばれる容器で貯蔵する点に特徴。
ルーナイチュウ* 内モンゴルでウマ、ウシ、ヤギの乳酒を蒸留しアルコール度を高めた蒸留酒
チーズ エピキュアー 上表の通り
ハントケーゼ* ある酔狂なドイツ人が女性のにおいを乳製品にたとえて「娘はミルク、花嫁はバター、女房はチーズ」といったという。寝ぼけたナポレオンがチーズを鼻先に突きつけられて「おぉ、ジョセフィーヌ」と叫んだことは有名な話だが、これは南ドイツのカラスミに似た形状のくさやの干物に似た「女房のチーズ」のひとつ
スティルトン* ゴルゴンゾーラ、ロックフォールと並ぶ世界三大ブルーチーズの一つである英国産の「女房チーズ」。
漬物 臭漬チョウズー* 浙江省の特産品であるジェンツァイという野菜を原料につくられる漬物で搾菜など足元に及ばないほど臭いという
(資料)小泉武夫「くさい食べもの大全」東京堂出版、2015年

(2007年6月18日収録、2015年7月31日「くさい食べもの大全」からの情報を追加、2018年11月16日開缶したシュール・ストレンミングの写真追加、2022年1月1日2〜4位写真更新、1月7日コメント補訂)


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