(岸田内閣)

 2021年9月29日に行われた自民党総裁選挙は、1回目の投票で4人の候補者はいずれも過半数に届かなかったため、上位2人に対する決選投票が行われ、その結果、岸田前政務調査会長(64)が、河野規制改革担当大臣(58)を抑えて新しい総裁に選出された。これを受けて臨時国会が召集され、10月4日に行われた総理大臣指名選挙の結果、岸田新総裁が第100代の総理大臣に就任した。

 岸田内閣の支持率は各社の調査で新内閣としては余り高くないことが判明してているが、NHKの調査でも同様である。以下に属性別の結果も掲げたが、いずれの属性でも菅内閣発足時と比較して低くなっている。


 以下に掲げた岸内閣発足時の各社調査結果を見ると差が大きく、少し話題となった。しかし、それは主に質問の仕方によるものであり、支持率と不支持率との比率には余り違いがないことから分かるように各社の政権に対する姿勢が大きく作用しているとも思えない(末尾コラムも参照)。


 その後、議員任期の終了近くになって行われた解散を受け、10月31日に行われた衆議院総選挙は、自公連立政権が実質的に勝利し、野党共闘を組んだ立憲民主党と共産党が敗北、日本維新の会が躍進する結果に終わった(この衆院選については図録5235参照)。

 選挙後の11月の内閣支持率は53%と選挙月に3回行われた調査の支持率を上回った。

 2022年1月にはオミクロン株への置換により第6波の新型コロナの感染拡大が到来したが、妥当な対処を行っていると見なされているためか、内閣支持率は57%とむしろ現内閣最高となっている。

 2022年8月には参院選勝利後の高まった7月の59%から46%へと支持率が急落した。9月、10月にはさらに40%、38%へと低下した。@銃弾に倒れた安倍元首相の国葬決定への疑問、A与党政治家の旧統一教会との不透明な関係、Bコロナ感染者の急増に対する無策、の3つが理由と見なされている。自民党支持率はそれほど急落していないのでAの要因はさほど大きくはないのかもしれない。

 国葬に対する評価は月を追うごとに悪化し、10月には54%が「評価しない」としている。年齢別には30代以下では「評価する」が「評価しない」を上回っているのに対して、40代以上では「評価しない」の方が上回っており、年齢が高い層ほどその程度が大きくなる。


 その後も自らの長男の首相補佐官任命などで支持率がさらに低下し、それを気に病む首相を揶揄するマンガもあらわれた(右図)。国民はなぜそんなに内閣支持率に関心をもつのであろうかと不思議な気がする。

 旧統一教会疑惑の山際経済再生担当大臣、「死刑はんこ」失言の葉梨法務大臣と相次いで閣僚が辞任したのを受けて内閣支持率は11月にはついに自民党支持率を下回り、政争の発生が高まる状況となった。ただし、12月には自民党支持率を再度上回ったので何とか首の皮一枚でつながっている状況である。

 2023年10月4日に2年が経過し、支持率の起伏のデータが以下のようにグラフ化されている。


 10月に入り、「増税メガネ」という悪評が広まったことなどを受け、以下のように支持率の低下が明らかになった。


 11月には増税メガネという悪評に対抗し経済対策として打ち出した減税・給付金の効果もなく、政府三役の所管分野に悖るような不祥事による辞任が三カ月連続したこともあって、支持率が29%と自民党政権復帰後、菅内閣の29%と並ぶ最低となった。自民党支持率の37.7%と比べても低く、選挙の顔すげ替えに向けた政争がさかんとなろう。

 さらに12月には、折からの安倍派を中心とした派閥資金パーティをめぐる裏金疑惑から内閣支持率が23%と自公政権復帰以降、最低を更新した。党の問題なので自民党支持率も29.5%と政権復帰後はじめて3割を切っている。政権の危機と言えよう。

 岸田内閣は党首討論にも消極的と報じられた。


 2024年3月には、裏金疑惑が尾を引いている中、さらに、露出の多い衣装の女性ダンサーを招いた和歌山における党の会合開催が発覚し、一層、自民党への不人気は高まった。


(この図録について)

 吉田内閣以降の戦後の歴代内閣について、内閣支持率の経過について一覧するグラフを掲げた。小泉内閣以降の内閣支持率は結果が公表されているNHK「政治意識月例調査」(最新はここ)を使用している。

 図録5212kでは、この手の政治世論調査の結果について日本人は馬鹿正直に真に受けているわけでもない点を各国比較から明らかにしているので参照されたい。

 NHK調査の毎月の実施日は最近の実績では5日〜12日の金曜日からはじまる金土日となっている。5日あるいは12日が金曜となる月以外は、実施日があらかじめ決まっているといえる。ただし、2016年7月は参院選が10日に行われたので翌週となっている。2017年8月は内閣改造後のなるべく早い時期の実施となる4日の金曜からの3日間となっている。2017年10a月は衆議院解散後のなるべく早い時期の実施となる9月29日〜10月1日、10b月は10月7日〜9日の3日間となっている。

 各内閣について、ほぼ、共通しているのは、組閣当時に高かった支持率が政権末期には大きく低下する傾向である。

 人気のなくなった旧政権から、心機一転、国民の期待を受けて新内閣が誕生する。新しい政権が種々の政策を実行すると万民を満足させるわけには行かないから、あるいは政策のマイナス面も目立つようになるから、人気は低下する。あるいは人気先行で成立した内閣は約束した政策、企図した政策が実現できず人気を失う。近年は後者の側面が強まっているといえよう。首相・閣僚の不祥事や問題発言で人気が低下する場合もある。

 こうした傾向は日本だけではない。下図に英国首相の支持率の推移をサッチャー首相から最近スキャンダルで不人気となり首相を辞任したジョンソン首相まで掲げた。資料元の英国エコノミスト誌がこの図に付した表題は「不人気競争」(Unpopularity contest)である。


 王室を赤裸々に描き何かと物議をかもした「ザ・クラウン」というネットフリックス・ドラマの2023年末に公開された最終シーズンでは、王室の人気のなさと対照的なトニー・ブレア首相への支持率の驚異的な高さに危機感を抱いた女王や王室メンバーがこう会話するシーンを設けている。王族の一人「首相というのは称賛と共に現れ、最後は担架で退出するものよ。人気も健康も失ってね」。エリザベス女王「その通り。彼は違うかもしれない」。しかし、実際は、上図の通り、大量破壊兵器保有の証拠もないままイラク戦争に加担した責任を問われブレア政権の支持率は急降下した。

 自民党支持率の動きを参考までに内閣支持率の推移グラフに加えた。自民党支持率は自民党が政権を失った時期を除いて40%前後と安定しており、それを上回るところからはじまり下回るに至ることが多かった内閣支持率とは対照的である。人気の落ちた首相の首をすげ替えることによって政党の支持率を保ってきているといえる。小泉政権の特殊性は自民党支持率を内閣支持率が一貫して上回り続けたところにある。自民党の議員はこの内閣のおかげで実力以上に当選できると感じるから政局は官邸主導となり、長期政権が実現する(注)。2期目の安倍内閣にも似たようなところがあった。

(注)当時の自民党ポスターに「自民党をぶっ壊す!」と記されていてまことに驚いたことを思い出す。これは小泉首相のキャッチフレーズだったが総裁の人気が党の人気を大きく上回ればこんな珍妙なことも起るのである。

 ついでに米国大統領の支持率推移を図録8752から下に転載した。最初の一年ぐらいは高くても下がっていくのは同じであるが推移パターンは大統領によってかなりの差がある。原寸の図は元図録へのリンクで見ていただきたい。


 政界では、内閣支持率と自民党支持率を足した数字が50%を切ると、政権維持に早晩行き詰まる、との説(青木の法則)が広く知られているが、この数字は調査機関が異なればかなり違ってくる。内閣支持率が自民党支持率を下回ると政権維持が困難となるという説の方がよいと思う。


 古くは、60年安保紛争で人気が急落した岸内閣に代わって、分かりやすい「所得倍増計画」を掲げた池田内閣が当時は圧倒的と感じられた高支持率を獲得した(毎日新聞以外の世論調査で60年8月に支持率51%)。しかし公害や過疎化など高度経済成長の陰の部分への国民の不満により支持率は低下。次の佐藤内閣にバトンタッチされた。

 日韓国交回復、沖縄返還を実現した佐藤内閣も最後には支持率が20%以下となった。「列島改造論」を掲げ、庶民宰相として人望が厚く、53%という異例の高支持率だった田中内閣は当初、日中国交正常化を実現して世界をあっといわせたが、狂乱物価と金権政治批判で支持率は急落し18%にまで下げた。

 海部内閣や小渕内閣のように首相自身に余り人気がなかったため当初の支持率が低かったものの、その後、案外出来るじゃないかということで支持率が上昇したケースもある。党内の位置などから余り大きな施策を実施しなかった(できなかった)から人気も下がらなかったという見方もできる。

 森内閣は最初から支持率が低く、最後は9%と最低水準となったことで目立っている。

 それを継いだ小泉内閣は、首相のキャラクターに対する人気や構造改革への期待もあって、史上最高の支持率で登場し、以下のような事象やサプライズによる支持率の上下はあったものの比較的高い水準の支持率を維持していたといえる。

2002年1月 田中真紀子外相更迭
2002年9月 電撃的な北朝鮮訪問
2003年9月 安倍晋三幹事長起用
2005年9月 郵政解散

 小泉政権の比較的安定した高支持率の理由として、改定前の小渕内閣以前のデータの引用元であった林知己夫・櫻庭雅文「数字が明かす日本人の潜在力 」講談社(2002年)は、実施した政策が小粒だったため、大きな失望にも見舞われないで済んだからだとする見解を示している。

 小泉内閣が自民党総裁任期満了にともなう総辞職で政権を明け渡した後の安倍、福田、麻生という自民党3内閣、その後の鳩山、菅、野田の民主党3内閣は、いずれも共通して、先行した人気や期待に適う政権運営を実現できず短期間で支持率を低下させて移り変わっていったことは記憶に新しい。

(菅内閣)

 2021年9月3日、菅義偉総理大臣が内閣支持率の低迷の中で総裁選不出馬、すなわち事実上の退陣を表明した。その後に行われた9月調査の内閣支持率は30%とほぼ横ばいだった。

 菅内閣の2021年7月の内閣支持率は33%と安倍内閣(第2次)最終月である2020年9月の34%を下回り、それより深刻なことに、安倍内閣最終月と同様、自民党支持率(34.9%)をも下回った。同年8月にはさらに29%とついに3割を切り、引き続き自民党支持率(33.4%)をかなり下回った。これは、与党の政治家にとって菅首相を選挙の顔として選挙を戦う気が失せて来ていることを意味しており、まず間違いなく政争が起きよう。


 上には8月までの各社の菅内閣の支持率推移を掲げた。東京オリンピックでの日本選手の活躍は期待したように支持率上昇にはむすびつかず、むしろ平行して進んだ5波の感染拡大への無策がマイナスに作用した結果と見られている。末尾のコラムでもふれている通り、各社の結果に水準差はあるものの推移についてはおおむね同じ動きをたどっていることがよく分かる。

 7月8日(木)の記者会見で、4度目となる緊急事態宣言発令を踏まえ、「休業要請に応じていただけない店については、金融機関に対してしっかり情報を共有しながら順守の働きかけを行っていただく」などと発言した西村康稔コロナ担当大臣に対しては、飲食業だけでなく国民からも筋が違う、非常識といった批判が巻き起こっており、この週末に行われた調査に影響した可能性がある。

 コロナ対策にうんざりしている国民のうさばらしのターゲットになりかねない「貧すれば鈍す」ならぬ「窮すれば鈍す」といったかたちの不規則発言をした西村大臣に責任を取らせられるかが政争の発火点になりそうな気配である。

 一方、時事通信がNHK調査と同時期の9〜12日に実施した7月の世論調査で、菅内閣の支持率が前月比3.8ポイント減の29.3%と「危険水域」と見なされる20%台まで落ちたことがその後話題となった。しかし、この調査での自民党支持率は21.4%とさらに低いため、政争を惹起する可能性はNHK調査が示唆するほどではないとも解せる。

 2021年5月の菅内閣支持率はコロナ対策の不評判もあって35%と発足後最低となり、第2次安倍内閣の最末期34%に近づいた。自民党支持率33.7%なので支持率逆転という内閣最大の危機にも近づいている。驚くような打開策を政権か自民党が採る可能性もある。

 2020年9月16日に発足した自民党菅(すが)内閣の初回の内閣支持率は62%と高かった。政権発足時の内閣支持率としては小泉内閣の81%、鳩山内閣の72%に次ぐ水準で第1次と第2次の安倍内閣や菅(かん)内閣、野田内閣の発足時と同じ程度となっている。

 同月の自民党支持率は40.8%とこちらもかなり高くなった。安倍首相の辞任から総裁選、新内閣発足へという新首相とともに政権党が示した一連の政治プロセスについてはそれほど悪評ではなかったといえる。

 日本学術会議が推薦した6人の任命を菅首相が任命拒否しながら、その理由を示さないことに批判が集まり、「安全保障関連法に反対する学者の会」の調べによると、今回の任命拒否に対して声明や要望を出している団体は10月20日時点で、学会や協会、大学・研究所、大学人、労働組合、諸団体など合わせて612団体に上っているというが(週刊金曜日2010.10.10)、11月の世論調査結果によれば、国民はこの問題の影響を受けてはいないようだ。

 その後、12月には菅内閣の支持率は急落している。理由として考えられるのは以下である。
  • 新型コロナ患者の増加にもかかわらずGoToトラベルへの対応が後手に回る
  • 自己紹介の「ガースー発言」が出たネット番組で「トラベル」一時停止を「考えていないと」断言
  • 政府による少人数の会食呼びかけにもかかわらず、自らは二階幹事長ら8人と忘年会のステーキ会食
 支持率の急落ケースについて過去を振り返ると以下が記憶によみがえる。
鳩山由紀夫内閣(2009年9月〜10年6月)
・米軍普天間飛行場の移設を「最低でも県外」と公約しながら途中で断念
・母親からの献金を別の人物からと偽装
第1次安倍内閣(2006年9月〜07年9月)
・郵政民営化に反対して離党した「造反組」を復党させる
・「消えた年金」問題
森喜朗内閣(2000年4月〜01年4月)
・米原潜と水産高校実習船「えひめ丸」衝突事故の際のゴルフ継続
・「神の国」発言
 森喜朗元首相はその後も要職を歴任し、2014年からは東京オリンピック・パラリンピックの組織委員会会長を務めているが、以下のように首相時代に劣らず失言を繰り返し、その都度、物議をかもしてきている。

森喜朗元首相の失言
年月 発言 場面
2000年
5月
日本の国、まさに天皇を中心にしている神の国であるということを国民のみなさんにしっかりと承知していただく 神道政治連盟国会議員懇談会の会合で
2000年
6月
そのまま(選挙に)関心がないといって寝てしまってくれれば 衆議院の演説で投票先未定の有権者について
2001年
2月
これがどうして危機管理なんですか。事故でしょ 実習船「えひめ丸」と米原潜との衝突事故対応について
2003年
6月
子供を一人もつくらない女性の面倒を、税金でみなさいというのはおかしい 鹿児島市での少子化を巡る討論会で
2014年
2月
あの子、大事なときに必ず転ぶんですよね ソチ五輪の浅田真央選手について
2016年
7月
どうしてみんな国歌を歌わないのか。国歌も歌えないような選手は日本の選手ではない リオデジャネイロ五輪日本選手団の壮行会で
2021年
2月
女性がたくさん入っている理事会は時間がかかります JOC評議員会で
2022年
10月
つえを突いていると身体障害者に見えて、みんなが大事にしてくれる 金沢医科大創立50周年記念式典で自身のつえ使用に関し
(資料)毎日新聞(2021.2.5)、東京新聞(2022.10.30)

(2期目安倍内閣末期)

 安倍内閣の内閣支持率の2015年の落ち込みは、安全保障法制の審議への不信によるものであり、2017年の落ち込みは、森友・加計学園問題や「共謀罪」新設などによるものであるが、いずれもその後支持率を回復させてきた。

 しかし、2020年8月、34%と第2次安倍政権発足後最低の値となった。しかし、このことより、内閣支持率が自民党の支持率をはじめて下回った点が重大である(自民党支持率35.5%)。与党の政治家が安倍首相を旗頭に選挙を戦う気が失せて来るからである。

 こうした支持率の低さも一因となったのであろうか、同月28日、安倍首相は官邸で記者会見し、持病の潰瘍性大腸炎の再発により、首相の職務継続困難という理由で辞任する意向を表明した。

(2期目安倍内閣)

 2013年1月からの2期目の安倍内閣は比較的高い支持率を維持している。同年9月の調査は6日(金)〜 8日(日)の3日間に行われており、8日早朝には2020年オリンピック大会の開催地に東京が決定したことが判明した。首相も決定直前の最終プレゼンテーションで大きな役割を果たしたと伝えられたので、一日分だけであるが、この影響があらわれていると見ることができる。その後、汚染水漏れの事実が明らかになる一方で、10月1日には安倍首相が消費増税8%への引き上げを宣言した。だからといって内閣支持率が大きく低下しているようには見えない。

 政治学者の山口二郎は東京新聞の「本音のコラム」(2013年10月13日)で「だまされたがる人々」という表題で世論調査結果に対してこう不服を述べている。「最近の各紙の世論調査結果を見ると、人々はむしろ積極的に、あるいは諦めからか、為政者にだまされたがっているようである。多数派の人々は、福島第一原発の汚染水が制御不能の状態にあることも、消費増税と経済対策のセットが普通人の雇用や生活の改善につながらないことも、分かっている。つまり、首相が嘘をついていることを知っているのである。しかし、内閣支持率は依然として高止まりしている。民主政治では、為政者が嘘をついたり、国民に害を及ぼす失敗を隠蔽したりすれば、国民の側が為政者をとがめるはずだという前提が存在する。(中略)しかし、肝心の国民が、世の中こんなものだと現状を受け入れていては、(政治や行政の虚偽を批判する)言論は無意味となる。」(カッコ内は引用者の補足)

 真実を述べても何ら現実を解決する能力がない政権より、嘘を述べても嘘を本当にする見込みのある政権の方がましだという国民の気持ちのあらわれであって、だまされたがっているわけではないし、山口のような言論人が不服を述べるようなことでもない。ましてや、その真実が必ずしも言論人の述べるとおりの真実とは限らないとすればなおさらなのである。言論人が口舌の徒に過ぎない場合も多いのだ。

 2013年12月6日に特定秘密法案が参院で可決され、法律が成立した。与党の数的優勢に頼った国会通過への批判は強く(図録j015)、6日(金)〜 8日(日)に行われた調査結果にもこれが反映された。なお図の値の低下幅からは自民党への批判というより安倍政権に対する失望という側面が強かったことがうかがえる。そして、暮れも迫った12月26日、安倍晋三首相は靖国神社に参拝した。中韓ばかりでなく米国などその他諸外国からも東アジアの関係悪化を憂う声が挙がったが、1月11日(土)〜13日(月)の世論調査の内閣支持率はむしろ回復している。

 2014年4月からは消費税が値上げされた。また、4月11日には原発ゼロという自民党公約に反する原子力をベース電源とするエネルギー基本計画が閣議決定された。しかし、4月11日(金)〜13日(日)を調査期間とする4月の内閣支持率はむしろ3月より上昇した。集団的自衛権を容認する解釈改憲や武器輸出三原則の見直しを含めて、安部内閣の個別政策には批判が強いのに対して内閣支持率が5割以上を維持している理由がなんだろうとする記事を掲載する新聞もあらわれたが、結局、個別には気に入らなくとも他に頼れる政治家がいないという結論以外にはないようだ(東京新聞2014年4月15日)。

 2014年7月調査の調査日は、7月11日(金)〜13日(日)だったが、47%と今次安倍内閣の最低値となった。これは7月1日の集団的自衛権行使容認閣議決定の影響である(図録j018)。これが安倍内閣の没落のはじまりとなるか、単なるエピソードで過ぎるかは今後の推移次第である。8月は少なくとも再度50%を越えた。

 2014年9月に実施された内閣改造による支持率の変化についてはページ末コラム参照。

 2015年7月調査の調査日は、 7月10日(金)〜12日(日)だったが、41%と今次安倍内閣ではじめて不支持を下回った。これは安保法制に対して、反対の声が高まっているためである。時期的に広島・長崎の原爆記念日にかかる8月調査もその影響もあってか引き続き支持率は37%へ下降した。安全保障関連法案については図録5223でふれた正宗白鳥の1960年安保反対運動評を参照。9月からは再度支持率が不支持率を上回っている。

 2017年7月調査は東京都議会議員選挙後の7月7日(金)〜9日(日)が調査日だったが、35%と再度不支持率を下回り、今次安倍内閣で最低となった。テロ等準備罪の強引な成立、森友学園・加計学園疑惑、稲田防衛相の自衛隊政治利用、安倍チルドレン2期目国会議員の不祥事、これらによる都議選の自民党大敗などが影響していると考えられる。

 その後、一時的な支持率回復を奇禍として実施された解散・総選挙において野党分裂により与党が勝利し、その翌月の支持率もかなり回復した。

 2018年4月には財務省の決済文書書き換え問題で再度支持率の大幅低落。不支持率を下回る。

 歴代最長となった第2次安倍政権の内閣支持率の推移については、毎日新聞に回顧記事が掲載されていたので、以下に引用する(数字は毎日新聞調査によるものであり、NHK調査とは必ずしも一致しない)。

「06年発足の第1次政権は発足当初67%あった支持率が1年でほぼ半減し、07年参院選の惨敗を経て退陣した。一方、12年12月発足の第2次政権は何度か下降局面を迎えながら、おおむね40%台を維持。アベノミクスを通じた景気回復への期待を背景に、13年3月には70%と第2次政権で最高を記録した。そのまま13年夏の参院選で勝利し、衆参で多数派が異なる「ねじれ」を解消。首相は特定秘密保護法、集団的自衛権の限定行使を容認する閣議決定などに取り組み、14年11月には「消費増税延期」を掲げて衆院解散に打って出て大勝し、基盤を固めた。

 翌15年9月には安全保障関連法を成立させた。その直前の15年8月に支持率は32%に落ち込んだが、この年に国政選挙はなかった。首相はその後は支持率の「蓄積」に努め、16年1月に51%に回復。この年夏の参院選にも勝利した。

 この後、長期政権の「ひずみ」が噴出する。17年2月に森友学園問題、17年5月に加計学園問題が表面化し支持率は急落。7月の東京都議選では小池百合子都知事が率いる「都民ファーストの会」が躍進して都議会自民党が惨敗。第2次政権を通じて最低の支持率26%を記録した。

 国会閉会後に支持率がある程度回復すると、首相は17年9月に北朝鮮のミサイルと少子化という「国難」突破を主張して衆院を解散。小池氏が旗揚げした希望の党の失速もあり、与党が衆院の3分の2を維持する大勝を遂げ、11月の支持率は46%に回復した。18年3月に財務省の公文書改ざん問題が発覚して33%に下落したが、19年4月の新元号「令和」発表などで40%台に回復した。

 終幕への転機は、今年の新型コロナウイルス感染症対策だ。全国一斉休校の要請や、各世帯に2枚ずつの布マスク配布策などが批判を浴びた。今年4月に調査方法を変更したため単純比較はできないが、5月に支持率は27%まで下がった。自民幹部は「浮揚策は内閣改造か衆院解散だ」と身構えたが、体調不良の首相が選んだのは退陣だった。

 その後の支持率は永田町関係者の話題をさらった。8月22日の34%が、辞任表明後の9月8日には50%となった。麻生太郎副総理兼財務相は「最後の支持率が50%を超えるのは、ちょっと予想できないことだ。首相は極めて恵まれた政治家だった」とたたえた」(毎日新聞2020.9.16)。

第2次以降安倍内閣の主な出来事
2012年 12月16日 第2次安倍内閣の発足
2013年 3月15日 安倍首相が環太平洋連携協定(TPP)への交渉参加を表明
4月22日 首相が村山談話について「そのまま継承しているわけではない」と国会答弁
7月21日 参院選で自民党が圧勝
10月1日 首相が14年4月から消費税率を8%に引き上げると表明
12月6日 特定秘密保護法が成立
12月26日 首相が靖国神社を参拝。米国が「失望」と異例の声明
2014年 4月1日 武器輸出三原則を見直し、輸出を容認する新三原則を閣議決定
4月11日 原発稼動を明記したエネルギー基本計画を閣議決定
7月1日 集団的自衛権の行使容認を閣議決定
9月3日 内閣改造
10月20日 小渕優子経産相、松島みどり法相、政治資金、選挙活動の疑惑を理由に閣僚辞任
11月21日 衆議院解散。その後の総選挙で低投票率下で自民党勝利
12月24日 第3次安倍内閣の発足
2015年 2月23日 国の補助金交付企業からの寄付問題で西川公也前農相が辞任
他閣僚を含め同様の「政治とカネ」問題が国会で追及される
6月4日 衆院憲法審査会で自民党推薦を含む憲法学者3人全員が安保法制に関する法案を「憲法違反」と発言
7月16日 安全保障関連法案の衆議院通過
7月17日 新国立競技場建設計画白紙に戻すと首相表明
8月3日 礒崎陽輔首相補佐官、安全保障関連法案についての「法的安定性は関係ない」との発言を撤回、謝罪
9月8日 自民党総裁選で安倍首相が無投票で再選される
9月19日 未明に参院で可決し安保関連法案が成立
10月7日 第3次安倍改造内閣発足
10月13日 財務省還付案を撤回し、消費税10%上げと同時の軽減税率導入を決める
12月28日 慰安婦問題で日韓合意。安倍晋三首相はおわびと反省を表明
2016年 1月28日 甘利明経済再生担当相が自身と秘書の金銭問題で辞任
3月2日 参院予算委員会で憲法改正について「私の在任中に成し遂げたいと考えている」と述べ、強い意欲を示す
5月11日 伊勢志摩サミットにあわせた米国大統領の広島訪問決定が報道される(27日現職大統領としてのはじめての広島訪問)
6月1日 消費税10%上げの延期を発表
7月10日 参院選で与党が圧勝
8月21日 リオ五輪閉会式でマリオに扮して登場
11月17日 世界の首脳としてははじめてトランプ次期米国大統領と面会(世界のマスコミ注視)
12月
15・16日
山口県長門市と東京都でプーチン大統領と日露首脳会談(期待された北方領土に関する具体的進展はなし)
12月27日 オバマ米大統領とハワイの真珠湾を訪れ戦没者を慰霊
2017年 2月10日 日米首脳会談。さきに大統領選挙当選後にトランプ次期大統領と極めて異例となる就任前の直接会談をニューヨークで敢行
2月17日 衆院予算委員会で森友学園問題に関わる設置認可や敷地の国有地払い下げに「私や妻、事務所は一切関わっていない。もし関わっていれば首相も国会議員も辞める」と述べる
4月26日 今村雅弘復興相の大震災「東北で良かった」発言の責任を取り辞任
5月3日 9条3項に自衛隊位置づけ、教育無償化を内容とする憲法改正を2020年に施行したいという談話を憲法記念日に発表
6月9日 学校法人「加計学園」の獣医学部新設を巡り、内閣府が文部科学省に総理の意向に言及して早期開学を促したとされる文書について、「存在が確認できない」との立場を一転して再調査を指示(その後、調査の結果、存在を認める)
6月15日 与党が「テロ等準備罪」を新設する改正組織犯罪処罰法を参院委員会採決を省略して成立させる
6月27日 稲田朋美防衛相が、東京都議選の応援演説で「防衛省、自衛隊としてもお願いしたい」と失言するも、在職を擁護
7月2日 東京都議会議員選挙で自民党大敗
7月28日 稲田朋美防衛相が、これまでの発言と異なり、南スーダンにPKOで派遣された陸上自衛隊の日報の保管の事実を非公表とする方針について、陸自幹部から報告を受けていた疑惑が浮上し、一連の不祥事の責任を取って辞任を表明
8月3日 第3次安倍第3次改造内閣発足
9月3日 北朝鮮が、8月29日に日本列島を越えて弾道ミサイルを発射したのに続き、今度は、水爆と見られる核実験を強行
9月7日 民進党の幹事長に内定していた山尾志桜里議員の不倫疑惑(9月7日発売週刊文春スクープ)
9月25日 希望の党の結成(代表小池百合子)
9月28日 衆議院を解散する
10月10日 衆議院選挙公示(22日投票)
10月22日 衆議院選挙で与党大勝
2018年 3月12日 学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書書き換えを財務省認める
3月27日 決裁文書改ざん問題について国会で佐川宣寿・前国税庁長官(前理財局長)への証人喚問
10月2日 総裁選後に内閣改造
2019年 4月1日 新元号「令和」決定・発表(NHK調査5〜7日))
4月9日 5年後の新紙幣デザイン発表
4月10日 桜田義孝五輪相失言辞任
(資料)東京新聞2014.9.3、毎日新聞2016.12.24など

【コラム】報道各社における内閣支持率の食い違い

 2014年9月に実施された安倍政権の内閣改造は、これによって内閣支持率が上昇したかどうかの関心を呼んだ。そのため、内閣改造後すぐに新聞各紙は世論調査を実施したが、結果は各紙によって大きく異なっていた。この点を下表で見てみよう(毎日新聞2014.9.6の記事を参照した)。

安倍政権2014年9月の改革改造前後の内閣支持率
                単位:%、%ポイント
  支持率 不支持率 支持・不支持以外の割合
改造前 改造後 変化 改造前 改造後 改造前 改造後
毎日新聞 47 47 ±0 34 32 19 21
読売新聞 51 64 +13 41 29 8 7
日経新聞 49 60 +11 36 26 15 14
共同通信 49.8 54.9 +5.1 39.1 29.0 11.1 16.1
朝日新聞 42 47 +5 35 30 23 23
NHK 51 58 +7 33 28 16 14
(注)改造後の調査日は朝日6日、7日、NHK5〜7日、それ以外は3日、4日
(資料)毎日新聞2014.9.6、朝日新聞2014.9.8、NHK放送文化研究所

 内閣支持率が上がったか下がったかの変化の前に、支持率の水準そのものがまず異なっている。毎日がもっとも低く、読売がもっとも高い水準である。

 理由は2つある。まず、聞き方の問題である。すなわち、「分からない」とか「関心がない」とかいう中間的な回答をどこまで許容するか、あるいは逆にあいまいな回答に対して「あえて言えばどちらですか」と重ね聞きするかどうかである。支持・不支持以外の回答が何%あるかでこれが判別できる。改造後の数値では朝日が23%ともっとも多く、読売が7%ともっとも少ない。結果として、支持率も見かけ上朝日は低くなり、読売は高くなる傾向が生じるのである。

 次に、どの新聞からの世論調査かによって回答者が回答を拒否するかどうかに違いがあることから政府に好意的な論調の新聞とそうでない新聞とで回答にバイアスがかかる点があげられよう。なお、聞いてくる新聞社によって回答者が回答を変えることがありうるといういわゆるブランドイメージ説はあてはまらないだろう。

 これらは内閣支持率の水準の違いに関する説明であるが、内閣改造に対する内閣支持率の変化の違いの説明にもなっていよう。私は聞き方や回答者のバイアスによって水準の違いは当たり前だが、いつも同じようなかたちで調査は行われているので変化の方向や変化幅にはそう大きな違いがない筈だと思っていた。ところが、今回は、変化についても±0から+13までという10%ポイント以上のこんなに大きな違いが生じていたのは少し意外であった。

(追記)

 報道各社における内閣支持率の食い違いについては、ダイヤモンド・オンラインの連載記事(2017.8.30)でも取り上げたので参照されたい。

 ここでは、上でふれた変化幅の大きな違いについて、バイアスがかかった報道各社への回答者の性格の違いから説明している。すなわち、読売、日経といった政権寄りの新聞への回答者の方が脱イデオロギー化が進んでおり、直近に起こった政治的事件への反応度が高いという仮説を提出した。

(追記2)

 各社の内閣支持率の推移についての違いと同一性を示す図を本文で取り上げた菅内閣の事例から以下に再録する。


【コラム】政府に対する荷風の慨嘆

 政府のなすことに不満を覚えることは多い。もっとひどい政府もあったと考えてみずから慰めるしかない。太平洋戦争中の政府のやり方を嘆いた永井荷風の日記の言を思い起こそう。

「近年軍人政府の為す所を見るに愚劣野卑にして国家的品位を保つもの殆どなし。歴史ありて以来時として種々野蛮なる国家の存在せしことありしかど、現代日本の如き低劣滑稽なる政治の行はれしこといまだかつて一たびもその例なかりしなり。かくの如き国家と政府の行末はいかになるべきや」(「断腸亭日乗」昭和18(1943)年6月25日)。

 どう考えても嘆かわしいのに一般庶民は余り反応しないのに不思議な気持ちを抱くのも荷風だけではなかろう。

「凡そこの度開戦以来現代民衆の心情ほど解しがたきものはなし。多年従事せし職業を奪われて職工に徴集せらるるもさして悲しまず。空襲近しと言はれてもまた驚き騒がず。何事の起り来るとも唯その成りゆきに任せて寸毫の感激をも催すことなし。彼らは唯電車の乗降りに必死となりて先を争ふのみ。これ現代一般の世情なるべく全く不可解の状態なり」(同昭和19(1944)年3月24日)。

 なお図に取り上げた内閣を掲げると、岸内閣、池田内閣、佐藤内閣、田中内閣、三木内閣、福田内閣、大平内閣、鈴木内閣、中曽根内閣、、竹下内閣、宇野内閣、海部内閣、宮澤内閣、細川内閣、羽田内閣、村山内閣、橋本内閣、小渕内閣、森内閣、小泉内閣、安倍内閣、福田内閣、麻生内閣、鳩山内閣、菅(かん)内閣、野田内閣、安倍内閣、菅(すが)内閣、岸田内閣である。

(2013年6月13日収録、6月16日3つのグラフの順番を新しい方からに入れ替え、7/9・8/13・9/12更新、10/13山口引用、10/17・11/16・12/10更新、2014年1/14・2/11・3/11・4/15・5/12・6/9更新、7/10調査実施日についてのコメント追加、7/15・8/11更新、9月3日第2次以降安倍内閣年表追加、9月8日更新、安倍改造内閣前後の支持率変化の表・コメント追加、10/16・11/10・12/8更新、2015年1/13・2/9・3/10・4/17・5/16・6/9・7/13・8/10・9/14・10/13更新、10月15日政党支持率との関連などのコメント追加、10月20日文章内(注)追加、11/9・12/14更新、2016年1/12・2/8・3/14・5/12・6/13・8/2・8/8・9/12・10/11・11/14・12/12更新、12/24年表更新(以下年表は随時更新)、2017年1/12・2/13・3/13・4/10・5/15・6/13・7/10更新、コメントのコラム化、8/7更新、8月16日森内閣以前をデータ源未記載の林知己夫ら(2002)の図から毎日新聞世論調査結果に改定、8月30日コラム追記、9/11・10/2・10/10・11/13・12/16更新、2018年1/22・2/19・3/12更新、3月21日表示切替、4/9更新、4/23岸内閣から池田内閣への移行時期修正、5/15・6/13更新、7月10日更新・政権期民主党支持率、9/18・10/16・11/13・12/17更新、2019年1/17・2/12・3/13・4/11・5/13・6/10・7/16・9/12・11/12・12/9更新、2020年2/10・3/9・4/13・5/18・6/22・7/13・8/11更新、9/4コメント改訂、9月16日安倍政権回顧、9/23・10/12・11/9更新、11/11コメント改訂、12/14更新、12/21菅内閣支持率急落についてのコメント、2021年1月12日更新、2月5日森元首相の失言集、2/8・3/8・4/12・5/10・6/14・7/12更新、7月15日コラム・荷風、7月17日時事調査、8/10更新、8/13各社支持率推移図、9/13・10/11更新、10月12日菅内閣発足時との比較、10月15日岸内閣発足時各社調査結果比較、11/8・12/13更新、2022年1/12・2/14・3/15・4/11・5/9・6/14・6/21・6/28・7/19更新、7月31日英国首相の支持率推移グラフ、8/8・9/12・10/11更新、10月11日国葬評価、10月20日支持率を気にする首相マンガ、11/15・12/12更新、2023年逐次更新、10/4 2年間推移図、10月18日最近各社支持率表、12月16日ザ・クラウン引用、12月26日党首討論回数推移図、2024年1月8日米国大統領支持率推移図、1/15・3/11・4/8更新、1月28日麻生副総理戯画、3月13日女性ダンサー問題までの岸田政権不祥事一覧表)


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