ギャラップ社はロシアが旧ソ連諸国から距離を置かれつつあることを世論調査結果で示した「帝国のたそがれ?ロシアは裏庭での支持を失う」と題した記事を最近、公表した。

 この資料から、まず、ウクライナ侵攻後の2021年から22年にかけてロシアの指導力を承認する割合の変化を各国について見てみよう。

 ロシアのウクライナ軍事侵攻によってロシアの指導力は各国で低下しているが、それでもキルギスやウズベキスタンではなお6割以上の国民がロシアの指導力を認めている。一方、ウクライナは当然であるが、バルト三国やジョージアではロシアの指導力を受け入れる国民は1割以下となっている。この2極に加えて、その他の国は中間の第3極を構成している。

 次に、2006年から最近までの承認、非承認の推移を見てみよう。

 現在、非承認の割合の高いバルト三国、ジョージア、ウクライナのうち、ジョージアはもともと非承認の割合が高かった。バルト三国の場合は、承認、非承認が拮抗していた状態からクリミア併合、ウクライナ侵攻を機にどんどん非承認の割合が高まった。ウクライナの場合は、特にクリミア併合で大きく非承認が承認を逆転し、さらに軍事侵攻を受け非承認がゼロにまで高まった。

 32年前の1991年末にソ連が解体し、11カ国のソ連構成国が独立国家共同体(CIS)の創設協定に調印した。帝国崩壊に伴う混乱を避けるため、新興独立国家による緊急避難的な共同体だった。2年後にはジョージア(グルジア)も加盟した。ところが、ロシアと軍事紛争を起こしたジョージアは2009年に脱退し、ウクライナもロシアによるクリミア併合を機に事実上脱退した(東京新聞「視点」2023.12.27)。こうした動きが承認、非承認の動きにあらわれている。

 モルドバ、およびジョージアと並ぶカフカス3か国のアルメニアとアゼルバイジャンは、以前はロシアの指導力をかなり受け入れていたが、どんどん反ロシアになってきた。アルメニアは、あからさまにロシア離れを図ってきた。アゼルバイジャンに敗北を喫したナゴルノカラバフ紛争で、頼みとするロシアが支援に乗り出さなかったことに強い不満を持っているアルメニアは国際刑事裁判所(ICC)への加盟を決めた。ウクライナの子どもを連れ去った戦争犯罪容疑で、ICCから逮捕状が出ているプーチン氏への反抗であることは明らかだ。2023年10月に開かれたCIS首脳会議には、親欧米路線を強めるモルドバとアルメニアの両国首脳が欠席した。ロシアが盟主を自任するCISは空洞化が進む(東京新聞、同上)。

 中央アジアのキルギス、ウズベキスタンは、ロシアの指導力の受け入れは弱まりつつあるもののロシアへの距離感がなお近い。同じ中央アジアで長い国境線を有するカザフスタンは、キルギス、ウズベキスタンと比べてもロシアの指導力の承認比率が大きく低下し、非承認と逆転している。

「カザフスタンのトカエフ大統領は2023年11月、ロシアのプーチン大統領との共同記者会見の冒頭、カザフ語を使った。プーチン氏はじめロシア側外交団は慌てて同時通訳のイヤホンを装着したという。共同会見でトカエフ氏がとった行動は、カザフは独立国家でありロシアの属国ではない、と暗に意思表示したものだという臆測を呼んだ。

 プーチン氏はかつて「カザフ人は一度も国を持ったことはなかった」と発言したことがある。トカエフ氏は忘れていないだろう。プーチン発言は事実とは異なる。15〜19世紀にカザフ民族によるカザフ・ハン国という遊牧国家が中央アジアに存在した。

 トカエフ氏はロシアによるウクライナ南・東部4州の併合を認めず、侵攻をめぐってプーチン氏に面と向かって苦言を呈したこともある。ただし、トカエフ政権が反ロシアに転じたわけではない。カザフは北のロシアとは7600キロ余の国境で接する。ひところよりは減ったとはいえ、全人口の18%はロシア系だ。巨大な隣人との付き合い方は慎重を期さないと、虎の尾を踏みかねない。

 カザフをはじめ旧ソ連圏の中央アジア各国は中国やトルコ、さらには米国などとも関係を進めるバランス外交によって、ロシア・リスクの回避に努めようとしている」(東京新聞、同上)。

 ロシア周辺国には多くのロシア人が住んでいるが、彼らも同様の感情変化に見舞われている。図には、カザフスタンについては非ロシア人とロシア人のそれぞれの承認と非承認の推移のデータを掲げた。もちろん、ロシア人は非ロシア人より親ロシア感情が高いが、それでも非ロシア人と同様の変化を起こしていることは明確である。

 その結果、下図のように、カザフスタン国内でロシア人と自認する者の割合は顕著に低下しつつある。特にウクライナ侵攻以降にはかつての半分以下となった。ロシア人がロシアに帰ったというより、在留ロシア人がもはやロシア人意識を失いつつあると見られよう。


 カザフスタンのトカエフ大統領がプーチン大統領との共同会見でカザフ語を使ったのは、ここで見た世論調査にもあらわれているような国民の反ロシア感情の高まりを踏まえてのことだろうと理解することができるのである。

 以下には、ロシア周辺の旧ソ連諸国のマップを掲げた。各国の人口、ロシア人比率や国の成り立ちについてはこの図を掲載している図録8975参照。


(2023年12月27日収録)


[ 本図録と関連するコンテンツ ]



関連図録リスト
分野 時事トピックス
テーマ
情報提供 図書案内
アマゾン検索

 

(ここからの購入による紹介料がサイト支援につながります。是非ご協力下さい)