ピューリサーチセンターが行った2018年春の国際意識調査は、「自国の変化として宗教の役割が重要になっているかどうか」、そして「そうした変化は良い方向の変化かどうか」について各国の国民がどう思っているかを調べている。

 我々は、イスラム圏を除いて、基本的に世界は脱宗教化(世俗化)して行っていると考えがちである。また、基本的に脱宗教化することが望ましいと世界的に考えられていると日本人は思いがちである。しかし、これは誤解であることがこの調査の結果から分かるのである。

 まず、もっとも宗教を重視するように変化した国はどこかというとインドネシアである。自国におけるこの20年間の宗教の役割の変化について、83%が「より重要になった」、6%が「より重要でなくなった」とこたえている(残りは「変化なし」あるいは「無回答」)。つまり、「より重要になった」が「より重要でなくなった」を77%ポイントも超過している。

 イスラム教徒の多いインドネシアやナイジェリアだけでなく、イスラム圏ではないケニア、フィリピン、インド、ブラジル、ロシア、イスラエルなどでも、宗教の役割が強くなっている。概して、OECD以外の途上国では、宗教の役割が強まっているといえよう。

 ロシアでは反宗教を標榜していた共産主義政権が崩壊したので宗教が復活したという脈絡が考えられる。イスラエルではアラブ人との対立の中でユダヤ教を重視する方向が強まっているのかもしれない。しかし、その他でも、インドやフィリピン、ブラジルなどで宗教の役割が強まった国が多いのは何故だろうか。

 インドの2014年総選挙で誕生し、2019年総選挙でも政権を維持したヒンズー重視のインド人民党モディ政権については、「ヒンズー至上主義者はいつの時代も活動してきたが、決して社会の『主流』ではなかった。だが今は大手を振って活動している」と評する者もあるという(毎日新聞2019年5月18日)。そうした政治状況の背景には、図にみられるような宗教重視に向かう途上国における意識変化があると考えられる。

 一方、日本や欧米先進国などのOECD諸国では、宗教はより重要でなくなったと思っている人の方が多い。脱宗教化(世俗化)がもっとも進んだのはスペインであり、7%が「より重要になった」、65%が「より重要でなくなった」とこたえている。スペインのほか、カナダ、オーストラリア、米国といったプロテスタント国やイタリア、ギリシャなどで宗教が重要でなくなったと感じる人が多い。

 欧米先進国の中ではフランスは宗教が「より重要な役割」となったと感じている人が「より重要でない役割」となったと感じている人と同じぐらい存在している点で目立っている。世俗主義優先という従来からのフランス特有の対宗教スタンスが多文化主義と一部の宗教重視の動きの中でゆれているのである。

 日本は世界の中でも「不変」の回答が56%と非常に多い点が特徴となっている。宗教復権あるいはその逆の脱宗教化の相克にゆれる世界の中にあって奇跡的に宗教無風状態ともいうべき状況にあるのである。日本人の宗教観がいかに世界の中で特異かという点については図録3971d、図録9528参照。

 次に、こうした宗教変化の評価について各国の国民はどう考えているのだろうか。これを見るため、宗教変化とそれへの評価の相関図を2つ目の図に描いた。

 実は、宗教を重視するようになった国民はそれが良い方向の変化だと考え、また脱宗教が進んでいる国民はそれを悪い方向の変化だと考えるのが世界の大勢である。すなわち、多くの国は、相関図における右上の第一象限か左下の第三象限に含まれているのである。すなわち、宗教の役割が大きくなっているにせよ、小さくなっているにせよ、宗教そのものは社会にとって良いものと考えているのである。

 日本人や韓国人はこうした世界の大勢とは異なった考え方を抱いている。すなわち、脱宗教が進んでいる自国の状況を良い方向と考えているのである。孔子は「鬼神を敬して遠ざく」といった。宗教に距離をおく東アジア儒教圏としての共通性もあろう。似た考えの国は、スウェーデンやハンガリー、オーストラリアなどであり、欧米の中では少数派である。

 最後に、宗教動向と家族の絆との関係について見てみよう。ピューリサーチセンターの調査では、家族の絆が強まっているかの見方についても調べている(図録9550)。宗教動向とこれとの相関図を以下に描いてみると、家族の絆が弱まっているから宗教へ傾斜するという考えは成立しにくいことが分かる。すなわち、ほぼ、家族の絆の強化と宗教の役割の強化とは平行しており、双方の弱化も平行しているという傾向が見て取れる。

 宗教の役割が強まっているインドネシア、フィリピンでは、他国にもまして、家族の絆は強まっていると考えられている。両国では、明治維新後の日本で国家神道や家父長制家族が役割を強めたのように、宗教も家族も新しい時代に合わせてリニューアルされ、生活の中に積極的に取り入れられつつあるのかもしれない(図録1548コラム参照)。

 逆に、米国、イタリア、オランダなどでは、脱宗教化が進むのと平行して家族の絆は弱まっていると感じられており、これが最も多いパターンとなっている。

 もっとも、家族の絆が弱まって、宗教の役割が強まっている国もけっこうある(逆はないが)。ナイジェリア、インド、ケニア、ブラジル、ロシアといった国である。こうした国では、あたかも両者の間には代替関係があるかのように見えよう。フランスもこのグループにやや近い点が注目される。


 調査対象国は27か国、すなわち米国、カナダ、フランス、ドイツ、ギリシア、ハンガリー、イタリア、オランダ、ポーランド、スペイン、スウェーデン、英国、ロシア、オーストラリア、インド、インドネシア、日本、フィリピン、韓国、イスラエル、チュニジア、ケニア、ナイジェリア、南アフリカ、アルゼンチン、ブラジル、メキシコである。

(2019年9月7日収録)


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