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 パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム組織ハマスが、2023年10月7日、ロケット弾や戦闘員の侵入によってイスラエルへの大規模な攻撃を仕掛け、人質を多く拉致した。これに対しイスラエルが報復を開始してから1カ月以上が経過し、これまでの空爆以上に多くの民間人の犠牲を伴うと予想されるイスラエルによる本格的な地上戦が開始されている。世界はイスラエルのハマス掃討作戦を支持する声と過剰防衛を非難する声とに二分されている。


 ここでは、国連推計により、建国から2年目の1950年から2021年までのイスラエルとパレスチナの人口推移を掲げた。同じ資料から作成した両国の人口増加率・人口動態の推移図は図録1173bに掲げたので参照されたい。

 パレスチナをアラブ人国家とユダヤ人国家に分割する1947年の国連によるパレスチナ分割案を受けて、ユダヤ人は1948年にイスラエルを建国した。その結果、欧州やロシアからのユダヤ人の移民が相次ぐ一方で、100万人を超えるアラブ人がパレスチナから追放されて難民となり、イスラエルとアラブ諸国との対立やパレスチナ人の反イスラエル闘争がはじまった。

 1993年には対話による解決を目指してパレスチナ人の暫定自治に合意したが(オスロ合意)、イスラエルによる占領政策により居住領域をじりじりと侵され続けるパレスチナ人の反撥は止まず、紛争は長く続いている。

 それぞれの人口増加率やその構成要素である人口動態、またその要因となる出生と人口流出入の動きを表示選択で見れるようにしているので適宜参照されたい。

 1950年代〜60年代には世界からユダヤ人の移民流入が相次ぎ、当初100万人だったイスラエルの人口は、1970年代には300万人台にまで拡大した。さらに、1991年のソ連崩壊前後に旧ソ連圏からのユダヤ人の大量流入が起こり、再度、人口は大きく増加した(下図参照)。


 その後、21世紀にはいると在外ユダヤ人の流入は減ったが、合計特殊出生率が3以上という高所得国としては異例に高い出生率を背景にイスラエルの人口は伸び続け、2021年には890万人に達している。

 一方、ガザ地区とヨルダン川西岸のパレスチナ人口は、当初は、イスラエルとあまり変わらない100万人程度の水準だったが、数次にわたる中東戦争による難民流出により人口はしばらくは横ばいで推移していた。1973年の第4次中東戦争が終わったあたりから、人口流出の動きが弱まる一方で高い出生率に支えられて、人口はイスラエル以上の増加率で伸び始め、2021年には513万人に達している。

 イスラエルとパレスチナの人口の合計に占めるパレスチナ人口の割合の推移を図中に示しておいた。1950年に42.4%だったのが1974年に27.1%のボトムに達したが、その後、回復傾向をたどり、2021年には36.6%にまで上昇している。居住エリアを蚕食されながら人口比は上昇しているのであり、それだけ過密、劣悪な環境を強いられていると見なせる。

 ただし、パレスチナの人口比率の上昇は近年、横ばいに転じつつある。これは、イスラエルより高かったパレスチナの出生率の水準がイスラエルに近づきつつあるからである(表示選択参照)。

 将来人口については、流入については、世界のユダヤ人口を図示した図録9038で見たようにユダヤ人は世界にそうは残っておらず、建国直後やソ連崩壊の時のような多数の人口流入は起こりそうにない。また、政策的、イデオロギー的なブーストで先進国の水準を1以上上回っている合計特殊出生率も今の水準をどれだけ維持できるかはあやしい。従って、イスラエルの人口増加はこれまでの延長線ということになろう。

 一方、パレスチナの方も出生率の低下傾向を反転させることは難しいと考えられるので現在行われているイスラエルの攻撃でさらに大量の国外退避を迫られない限り、やはりこれまでの延長線ということとなろう。

 したがって、従来の平和的共存路線の下では、イスラエルとパレスチナの人口比も今後、ほぼ横ばいの傾向となりそうである。しかし、人口増加率で見る限り人口増加の劣勢が印象的である。ハマスの奇襲へのイスラエルの過剰とも見える反応には、言明されている報復、安全確保の目的を越え、こうした人口動向での劣勢を挽回しようとする意図が隠れていないとは言い切れまい(注)

(注)歴史家のマクニールは意図的な人口ブーストについて2例をあげている。「人口の圧力は、最近の多くの政治動乱、民族紛争、宗教対立などの一因になっている。カナダのフランス人、イスラエルのユダヤ人のように人口がふえていかない場合には、競争者と感じとった相手に対して無理をしてでも限られた人口に動員をかけ、じぶんたちの将来を確保しようとすることがある」(ウィリアム・H・マクニール「世界史」下、中公文庫、p.387)。図録1173bでもふれたが、エマニュエル・トッドは出生率のかさ上げによる人口ブーストを「拡大の人口動態、戦闘の人口動態」と呼んでいる。

 なお、パレスチナ難民の現状は以下の通りである。パレスチナの人口の約半数は国内のガザ地区とヨルダン川西岸の難民である。ヨルダン、シリア、レバノンなどの国外で暮らす難民を含めるとパレスチナ人の人口はほぼイスラエルと同規模レベルである。


 参考までに、上で掲げたイスラエルとパレスチナ領域推移図の最新状況を以下に掲げた。


(2023年11月8日収録、11月16日人口増加率・人口動態図、12月3日パレスチナ難民図、2024年1月7日ガザ情勢の経過表、1月7日ヨルダン川西岸におけるパレスチナ・イスラエル支配地域、2月8日マクニール引用)


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