東欧から中東にかけての主要6カ国(ポーランド、ウクライナ、トルコ、イラン、サウジアラビア、イスラエル)の人口増減とそれを要因分解した人口動態(自然増減と社会増減)の推移をそれぞれの対人口比の率で1950年からたどった図を掲げた。

人口増加率・人口動態シリーズ
図録
1172
日本・韓国・ドイツ・フランス・イタリア・スウェーデン・英国・米国
図録
1173
中国・インド・ロシア・ブラジル・インドネシア・バングラデシュ
図録
1173b
ポーランド・ウクライナ・トルコ・イラン・サウジアラビア・イスラエル
図録
1173e
オーストラリア・台湾・タイ・ベトナム・シンガポール・フィリピン

 自然増減は出生数と死亡数の差し引きであるが、自然増減の変動は主に出生率動向によって決まる出生数によるものである。死亡数は高齢化とともに多くなる傾向があるものの、戦争や大災害でもないかぎり、突如、大きく増えたり減ったりせず基本的には安定的に推移するものでありため自然増減を大きく変動させる要因とはみなしがたい。

 社会増減は国からの流出と流入を差し引きした値であり、移民や難民を多く受け入れた時期には大きく増加する。経済不況や災害・戦災などで国外流出が増え、逆に社会減となる場合もある。

 各国とも戦後70年余の動きを見ると、一時期は2〜5%ほどもあった人口増加率が低下し、場合によっては減少に転じるなど人口が低迷しており、これが世界的傾向であることがうかがえる。

 ポーランドやウクライナは人口が減少するまでに至っており、なお人口が増加しているその他の国々とは大きく異なっている。

 ポーランドの人口減は最近の事態であるが、ウクライナはソ連邦崩壊以降、社会主義から資本主義への移行期に大きな社会混乱がロシア同様に降りかかり、1990年代前半から大きな人口減少が続いている点で目立っている。図録1173で見たロシアの人口動態と比較しても、自然増減のレベルが一層低い点、及びロシアは自然減を社会増である程度補えているのに対してウクライナの場合は自然減に加えて社会減が基本的には続いていることから人口動向は一層深刻である。

 そして、さらに2022年からはロシアからの軍事侵攻を受け、女性・子供・高齢者を中心に大量の避難民が国外退去しているので人口減少率はマイナス1%を大きく越えていると考えられる。ウクライナは戦災にともなう危機的な人口動向に見舞われていると言えよう。

 末尾の図にはOECD諸国におけるウクライナ難民の受け入れ数を示した。人数的にはドイツが最も多く、ポーランド、米国がこれに次いでいる。日本は2,300人と少ない。人口比ではエストニアが最も多く、チェコ、リトアニアがこれに次いでいる。

 トルコ、イラン、サウジアラビアといったイスラム諸国では、一時期、高い出生率の下、3%前後の高い自然増加率となっていたが、近年は低下傾向にある。

 3カ国の中でもイランの自然増減は特に大きな変動を見ており、ホメイニ革命やその後の出生抑止をもたらした宗教状況の変化もあって、自然増減率が急速に上昇した後に急速に低下するという経緯をたどっている。トルコとの比較でイランのこうした変化の経緯を図録9270で分析しているので参照されたい。

 取り上げた6カ国の中でサウジアラビアとイスラエルの2カ国は自然増だけでなく社会増が大きい時期がかなり長く続いていた点で目立っている。

 中東産油国の代表選手とも言うべきサウジアラビアの場合、特に石油価格が高騰したオイルショック後に、莫大な石油収入を元手にして巨大な経済開発を推進し、そのための労働力を大規模に流入させてきた歴史がうかがわれる。

 他方、イスラエルは建国の理念にもとづいて、第二次世界大戦後、ディアスポラのユダヤ人が大規模に集結してきたことから大きな社会増となっているのであり、サウジアラビアとは時期も要因も異にしている。

 また、イスラエルは自然増の水準がもともとはそう高くはなかったのであるが、1960年代以降、他の5カ国と異なって、ほとんど横ばいの水準で推移しており、現在ではイスラム諸国を凌駕するまでに至っている点で特異な推移を示している。これは国是として周辺の、あるいは国内のイスラム勢力に飲み込まれないようユダヤ人が高い出生率を保持するポリシーをとっているからだと考えられる。この点は図録1025を参照されたい(エマニュエル・トッドはこうした特徴を「拡大の人口動態、戦闘の人口動態」と呼んでいる)。

 2023年10月にはハマスの奇襲への反撃としてイスラエル軍のガザ侵攻がはじまった。これと関連して図録9240でイスラエルとパレスチナの人口推移を追った。さらに以下には上と同じ形式でパレスチナの人口増加率・人口動態の図を掲げた。イスラエルと異なり社会増減率は1973年の第4次中東戦争終了までは大きなマイナス(難民の発生)であったが、それ以降はイスラエルより高い自然増加率に支えられて人口が大きく伸びてきていたことが分かる。


(ポーランドの社会増減の内訳)

 ポーランドの社会増減はほとんどプラスマイナスゼロの水準である。しかし、それはポーランドの人口流出入の動きがないからではない。

 英国のブレグジット(2016年の国民投票結果を受けて2020年にEU離脱)はEU内の労働移動の自由の下で流入したポーランド人労働者が英国人の仕事と直接競合していたからだと言われる。確かに下図に見られるように、英国人とは職域がやや異なるインドや中国からの移民と並んで欧州のポーランド、ルーマニアなどからの人口流入が多かったことが分かる。


 そこでポーランドの人口の流出と流入の相手先構成比を下図で調べると、人口流出ではドイツが多く、オランダや英国がこれに次いでいる。ドイツは貿易輸出で稼いでいて労働力不足を補う意味でポーランド人労働者をうまく利用できたが英国はそうはいかなかったのであろう。

 一方、ポーランドへの流入を見ると隣接するウクライナからの流入が圧倒的であることが分かる。低賃金労働を求めてドイツから流入した工場でウクライナ人が働いているといった構図なのであろう。


 つまり、「ウクライナ→ポーランド→ドイツ・英国」という人口の流れが存在し、ポーランドは流入と流出が人数的に相殺されて、社会増減がゼロに見えているだけなのである。


(2022年12月21日収録、2023年11月14日パレスチナ図、2024年2月16日ウクライナ難民受け入れ数)


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