ピューリサーチセンター調査におけるロシアに対する主要国国民の肯定的評価の推移をグラフにした。

 2022年のウクライナ侵攻によってロシアの評価が著しく低下したが、それ以前の推移を見ると、日本人のロシアへの評価は以前から一貫して高くないが、西欧主要国では高評価から低評価への起伏が大きい点が目立っている。

 だいたい隣国同士は国境争いが起こりがちであり、仲良くできないのが普通だが、日本とロシアも北方領土問題を抱え、対ロシア評価は長らく低調のまま推移してきている。この点は、内閣府の世論調査の各国への親しみの推移を見ても明らかである(図録7900参照)。

 西欧諸国では、2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを併合するまでは50%近くの国民がロシアを「好ましい」と考える年もあるなど高い評価をロシアに対して抱いていた。ソ連が崩壊し、ロシアが共産主義から離脱し、自由経済に転換した点を高く評価していたともいえる。

 ロシアも西欧に対して融和的な態度をとっていた。2000年前後、プーチン氏はNATO加盟に前向きな発言を繰り返し、大統領に就任した翌年の2001年9月には国賓としてドイツを訪れ、ベルリンの連邦議会で「(旧ソ連の)全体主義は自由と民主主義に対抗できなくなった」と演説した。



 ところが、西欧の対ロ親和政策が口先だけだと悟ったのか、米国のイラク介入に反発したのか、あるいは、経済分野で西欧と肩を並べるのは無理と考えたのか、2007年のミュンヘン安全保障会議では、それまでの融和的態度を改め、NATOの東方拡大や米国の対外介入を激しく非難するに至った。

 プーチンが首相に退いた2008年以降のメドベージェフ政権期には、西欧諸国のロシア評価はさらに上昇したが、メドベージェフ大統領の自由化志向には距離をおき、2012年に大統領に復帰したのちはプーチンは反欧米の独裁色を強めていく。

 クリミア併合でロシア評価は大きく落ち込んだが、ロシアへの編入が住民投票によって決定され、クリミアで多数を占めるロシア系住民が自分たちの意思でウクライナからの離脱を選択したという体裁が整っていた点が2022年の無理やりのウクライナ侵攻とは異なっていたこともあって、その後、ロシア評価は再度回復している。

 この回復時には、西欧諸国の中でドイツの対ロシア評価が一番高かった。その理由として、メルケル前ドイツ首相の外交・安全保障政策首席補佐官だったクリストフ・ホイスゲン氏はこう言っている。

「ドイツはロシアと特別な関係にある国だ。第二次世界大戦の独ソ戦では、2000万を超えるロシア人が命を落とした。われわれには罪の意識がある。感謝の念も抱いている。ドイツは冷戦中、東と西に分断されていたが、ソ連の指導者ゴルバチョフ氏が決断してくれたおかげで、1990年に再統一を果たすことができたからだ。」(東京新聞「レコンキスタの時代」、2023.8.1夕刊)

 さらに、ソ連・東欧との関係改善を目指す1969年以降の東方政策の影響やロシアとの経済関係で利益を模索する動きも与かっていた。

「これらのDNAを多くのドイツ人が宿している。罪の意識、感謝の念、東方政策の影響、そして欲得だ。感情や実利を背景に、ロシアとの良好な関係を望む気持ちが根強く残っていた。」(同上)

 こうしたドイツの立場を大きく転換させたのが、ロシアのウクライナ侵攻だった。この転換は「ツァイテンウェンデ」(時代の転換点)と呼ばれる。ウクライナ侵攻から3日後の2月27日の連邦議会でシュルツ首相がそう宣言し、@ウクライナへの武器供与、A対ロシア包括制裁、B国防費のGDP比2%への引き上げを打ちだした。

 ドイツの対ロシア態度の経緯はこのように特徴づけられるが、英国やフランスもドイツとそう大きく異なっていたわけではないことが図の折れ線グラフの推移からもうかがえる。対ロシア評価の起伏はほとんどこの3国の国民で一致しているのである。

 一方、日本とも西欧主要国とも、まったく異なった対ロシア評価をしている国民としてインドの推移を図に示している。ロシアへの肯定的評価の水準が日本・西欧よりずっと高いばかりでなく、ウクライナ侵攻後に評価が下がっていないという点でも日本や西欧とは、まったく違うのが印象的である。インド人にとってロシアは悪者ではないのである。

 主要国に加え、調査対象国全体の結果を最新の2023年とウクライナ侵攻前の2019年とについて示したグラフを掲げた。


 2023年の値を見ると、ロシアと因縁の深いポーランドの反ロシアぶりは目立っている。逆に、ハンガリーは旧共産圏としては例外的に親ロシアである。2010年に首相に再登板したオルバーン政権はロシアや中国との関係を深める東方開放政策を進め、2022年のロシアによるウクライナ侵攻の際にも、国益に反するとしてウクライナへの軍事支援を拒否。他のNATO諸国と一線を画した(2022年4月に再選)。

 一方、インド、インドネシア、ケニヤ、ナイジェリアといった国の国民は40%以上の肯定的評価をしており、ウクライナ侵攻前の2019年と比較しても、むしろ、肯定的評価の程度が上昇している。中国のデータはないが、おそらく同様ではないだろうか。そうだとすると世界人口の多くを占める主要人口大国では、ロシアへの反発は起きていないこととなる。

 ヨーロッパの中ではギリシャの肯定的評価がハンガリー以上に多いのが目立っているが、2019年からは低下している。ギリシャは同じギリシャ正教だからか親ロシア感情がかねてから高かったようだ。

(2023年9月2日収録)


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