日本学術会議の任命拒否問題などで「お答えは差し控える」というフレーズを菅義偉首相らが繰り返しているが、このところこのセリフを聞くことが多くなったと感じている人は多かろう。

 同じことを感じた立命館大の桜井准教授が国会会議録から回答拒否発言の回数を調べた結果を上に掲げた。

 図を見ると、2012年12月に発足し翌年1月から本格稼働した第2次安倍政権以降に回答拒否の件数が格段に増加していることが分かる。

 桜井氏によれば、以前は、回答拒否発言は、外交や安全保障関連で使うぐらいで、ロッキード事件や東京佐川急便事件など「政治とカネ」問題が起きた年以外はそう多くなかったという(東京新聞、2020年11月21日)。

 第2次安倍政権下で多かった政治家の「回答控え」発言は以下の通りである。

安倍前首相 165件
 「モリカケ問題」や桜を見る会などの疑惑
森雅子法相(当時) 94件
 検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案の問題
稲田朋美防衛相(当時) 87件
 自衛隊日報隠蔽問題

 菅政権になっても、国会で同様の発言は増えており、閣僚の記者会見でも、加藤勝信官房長官が、学術会議の問題や杉田水脈(みお)衆院議員の「女性はいくらでもうそをつける」発言などをめぐって、「控える」発言を連発している。

 個人のプライバシーを尊重する風潮が影響していることもあるが、それを隠れ蓑にして横柄な政権運営が許されるようになってしまったということだろう。説明できない政策や人事でも強行するのは善という政権の考え方、あるいはだらしない野党を甘く見た国会軽視、さらに言えば、法規ルールに安住して国民との一体感こそが国を支えるという意識が希薄になるという政治意識の劣化が背景にあると思われる。

 最後の点については、合法的に選出された政権なのだから法を犯さない限り何をしても合法という考え方があろう。合法ということに甘える政治態度である。

 こうした政治態度は何でも合法化したがる風潮につながっている。

 例えば、憲法を一時停止する緊急事態宣言(戒厳令)は、まさに政権が本来有する超法規的な権能であり、政治家は国民の事後了解のみが正当化の根拠となるような事態においても政治責任を果たさなければならないという覚悟をもたなければならない。

 ところが、最近の憲法改正論議を見ていると、緊急事態宣言自体をいろいろな想定ケースを頭において憲法に規定しておかねばならないと考えているようだ。手続きが正当であれば超法規的措置を発動しても責任が軽くなるという甘えた考えに囚われているように思える。超法規的措置を法制化するのは無意味であり、想定外の事態が生じたときの自由度が失わるため、かえって有害なのにである。

(2020年11月22日収録)


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