日本は公務員の少ない国であり、G7(主要先進国)の中で米国、イタリアに次いで少ない。特に女性公務員の数はG7(主要先進国)の中で最も少なく、イスラム教国及びベトナムを除くと対象国中で最も少ない。 欧州債務危機で話題の中心となっていたギリシャの公務員数は確かに多いが、ドイツ、スウェーデンよりは少なく極端なほどではない。もっとも学校・病院など役所以外で働く公務員を含めると非常に多いのかも知れない(公立学校・病院従事者を含めたギリシャの公務員数については図録5192とその「コラム」参照)。 グラフで一目瞭然な通り、世界各国の公務員数は国ごとにかなり異なっているが、男性公務員だけ取り出すとそれほどの違いがない。むしろ、女性公務員の数の違いで各国の差が生じていることが分かる。一般的な女性の社会進出度が影響している側面もあるが、むしろ、女性公務員が担うことが多い保健福祉など社会保障分野関連の対市民サービスに公務員を投入している程度の差が大きく影響していると考えられる。 公務員数で特殊なのはバングラデシュとサウジアラビアである。バングラデシュでは人口千人当たり5.0人と極端に少なく、サウジアラビアでは58.3人と極端に多い。 サウジアラビアの公務員数の多さは産油国であることが影響していると考えられる。サウジアラビアでは行政(公務員)が商業分野を上回り国内の最大産業分野となっている。 他方、バングラデシュは行政機能の発達が非常に遅れているため、公務員数も少なくなっている(図録1050参照)。私はかつて海外NGO調査(2000年)をバングラデシュで行ったことがあるが、市町村長や警察官や学校の先生はいても、市町村役場にあたる行政組織がそもそも不在であり、産業、福祉、衛生などの行政課題についてのヒアリングをしようと思っても担当者がいないことに衝撃を受けたことを思い出す。ダム建設による住民移住の事務も公的機関ではなくNGOが行っていたりする。 また、両国は公務員数では両極端となっているが、女性の公務員が非常に少ない点では共通している。イスラム教国であることが影響していると考えられる。 イスラム教国のエジプト、トルコも女性公務員が少ない。ただし、同じイスラム教国でもマレーシアは女性比率は大きくはないものの一定程度の比率には達しており、「近代化」の程度がしのばれる。上記調査で私がヒアリングしたNGOの担当部局であるマレーシア経済企画庁(EPU)の局長も中国人女性だった(異例の出世と見なされていたが)。 下の図には、独立行政法人、公社・公団、政府系企業、公営企業の職員を含めて各種資料から同等の定義で各国の公務員を積み上げたデータを掲げた。定義上、上で見た純粋公務分野の公務員よりずっと多くなっている。 これで見ても日本の公務員数は少ない。人口千人当たり80人程度が普通であるのに日本はその半分しかいない。州政府の機能が大きいドイツ、米国では地方公務員の数が多い点が特に目立っている。日本はたとえ財政支出から見て「大きい政府」だとしても(実はそうではないが)、公務員数では確実に「小さな政府」であるといえよう。 「行政のムダ」がマスコミ等で大きく取り上げられ、行政改革が大きな課題となっているが、以上のようなデータからすると、「行政の不足」の面も同時に存在している可能性が高く、それ故の国民の不幸が生じている可能性も大きい。介護、プール管理、防衛装備品の調達、道路・建物・エレベーター管理など民間企業に業務の多くを任せていて、そうした企業に年齢を加えるのと平行して公務員が天下っていく方がよいのか、公務員がもっとそうした業務を自ら行った方がよいのか、合理的な検討が必要である。 なおOECDの Government at a Glance 2009 も同様の比較データを掲げているので参照されたい(図録5192参照、最新データは図録5191)。警察官数については図録5196参照。 統計調査ベースでなく、別種の調査の結果からも同じことが言えるかを見ておこう。以下には、共通の調査票を用いた国際比較調査のISSP調査の中で、公的機関就業者(退職者を含む)の割合を示した。これで見ても日本の公的機関就業者は非常に少ないことが裏づけられる。この比率の大きい国はやはり概して女性の公的機関就業者が多い国である点も上と同じである。また、上のデータにはない中国の公的機関就業者が多く、特に男の比率は最も高い点も目立っている。 (2007年11月22日収録、2010年5月10日公務員への優遇を一因に財政難に陥ったと言われるギリシャを追加、2011年10月6日更新、対象国を22か国から40か国に拡大、2015年6月24日ISSP調査結果を追加、6月26日更新、ISSP調査結果からカナダ除外、2018年10月24日更新、2021年5月9日更新、2024年12月21日更新)
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