所得格差、所得の不平等を示すジニ係数に代わる指標として、近年、パルマ比率が注目されている。ここでは、世界の主要地域、主要国のパルマ比率をグラフにした。ジニ係数による所得格差の国際比較については図録4652参照。

 南米チリ出身の経済学者パルマの研究から生まれたこの比率の算出法とその意義についてはコラムを参照。パルマ比率は、所得分布の片寄りを科学的に示す精度をジニ係数とほぼ同様に保ちながら、ジニ係数より、説明の容易さ、分布状況の変化への反応性、地域ごとの違いの反映度において優位性が高い、有用な指標とされている。

 世界のパルマ比率は2005年に1.8(倍)であり、アフリカ南部、ラテンアメリカが、それぞれ、5.2、4.0と非常に高い一方、北欧は1.0と低くなっている。中国は1990年の1.25から2005年の2.15へと72%も上昇し、同じく大きく1.59から2.1へと上昇した米国を上回るに至っている。

 日本は表示されている国別の中で最も低く、地域グループの中で最低の北欧諸国をも下回っている。パルマ比率によれば、日本の所得格差は、世界で最も小さい部類に属するといってよい。

 日本の有識者やマスコミは、犯罪、疾病、貧困などの社会問題については、低減、撲滅へ向けた道徳的判断に適合的なデータに注目すればよいと考えているので、おそらく、このパルマ比率はほとんど注目されないであろう。

【コラム】パルマ比率:所得格差の新指標

 以下は、国連開発計画の報告書のボックス記事「所得格差の新指標:パルマ比率」を日本語訳したものである(CHINA NATIONAL HUMAN DEVELOPMENT REPORT 2016, p.38)。

 ジニ係数は所得格差を測るために使われる最も一般的な指標であるが、使用法が複雑であり説明も難しい。2013年に世界開発センター出身の二人の研究者、Alex CobhamとAndy Sumnerが新しい指標であるパルマ比率(Palma ratio)を提唱した。

 パルマ比率はケンブリッジ大学の経済学者であるGabriel Palmaによって実施された研究がもとになっている。

 世界中の国の所得分布を研究していてPalmaが発見したのは、1990年から2010年にかけて、各国の人口の50%をしめる中間所得者(所得水準の高さによって10区分された人口のうちの第5分位から第9分位まで)の累積所得は、ほぼ常に、国民所得の50%を占めているという点だった。

 残りの半分の所得は低所得者(人口の下位40%)と最上位10%の高所得層に帰することになるが、この2つの集団の所得シェアは国によって大きく異なっていた。

 多くの研究が示すところによると、裕福な10%の総所得の下位40%貧困層の総所得に対する比率は所得分布のどんな変化にも対応して非常に敏感に反応するものとなっている。

 CobhamとSumnerは論文の中で次のように指摘している。すなわち、パルマ比率とジニ係数との相関度は高いが、リニアな関係にはない。上位10%富裕層の所得割合が高まるほどパルマ比率は高まるが、ジニ係数よりも不平等度をより高い精度で示すので、政策立案者の意思決定との適合性が高いといえる。そして、ジニ係数とパルマ比率はともに所得分配の指標であるが、後者は前者より政策立案者や国民にとってより直接的でかつ理解しやすいものと認められる。

 グラフで取り上げている地域・国は、図の順番に、アフリカ南部、ラテンアメリカ、OECD諸国、EU諸国、北欧諸国、ブラジル、南アフリカ、中国、米国、ロシア、インド、英国、日本である。

(2018年1月1日収録)


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