国家官僚エリートとなる国家公務員総合職試験合格者の出身大学ランキングをかかげた。

 2022年度の国家公務員試験制度の改正により「法務区分」(院卒者試験)と「教養区分」(大卒程度試験)が誕生した。他の区分が春に試験を実施するのに対し、この2つの区分のみ秋に試験が実施される。なお、法務区分は司法試験合格者を対象とした試験であり、教養区分は広く大卒者を対象とした試験となる。2023年度の分は春季の分だけ値を掲げている。

 明治以降の高等文官試験は、戦後、国家公務員試験の上級甲種またはT種(旧外務T種を含む)に引き継がれ、いわゆる国家公務員のキャリア制度の基礎となっている。かつて「武官」に対し「文官」と称されたこの上級公務員は、事務官、技官に分かれ、それぞれ、国家公務員T種(行政、法律、経済)、国家公務員T種(理工、農学)の国家公務員試験の合格者から基本的に充当される。2012年度からは国家公務員T種試験が国家公務員総合職試験(大卒、院卒程度)に再編された。図には総合職試験の合格者数と同じ合格者数の昨年の人数をあらわした。

 一目して明らかなとおり、東京大学出身者の比重が高いのが特徴である。2位の京都大学の人数より70人以上多くなっている。3位は北海道大学、4位は早稲田大学である。


 参考までに上位大学の合格者人数の推移を掲げた。明らかに東京大学出身者の人数は減っている(注)。東大出身者の人数が減った分だけ10人以上の大学数は増加している。2015年には15大学だったのが2023年には42大学へと2倍以上に増えている。

(注)サライ.jp(2022.4.19)によると、「2022年の東大入試における文系学部の合格最低点は、文科一類302.5889点、文科二類306.1444点、文科三類305.4111点となっており、文科一類の合格点が最も低いという従来の傾向とは異なる現象が起こっています。これは昨今の東大生の官僚離れ現象と密接な関係があると思われ、いわゆる文一・国家公務員試験・財務省(官僚)という旧来のエリートコースに魅力を感じない受験生が増加していると言うことが推測でき、この傾向は今後も続いていくものと思われます」。

 キャリア官僚の登竜門としては、国家公務員総合職試験合格者ではない例外もある。法務省キャリアは国家公務員T種試験合格者と並んで、司法試験に合格し司法修習を経て法務省のポストについた検事が実権を握っている(注)。また、医師から採用する厚生労働省の医系技官も国家公務員T種試験から外れたキャリア公務員採用制度によっている(かつての武官にあたる自衛官の制服組も同様)。

 なお、外務公務員採用 I 種試験(外務省独自のキャリア採用試験であり“外交官試験”と呼ばれた)は、これが「外務キャリアの不当な特権意識を助長している」等の批判を受けて廃止され、2001年度からは、国家公務員T種試験の合格者からキャリア外交官となる外務省職員を採用している。

 外交に関するこうした試験制度の改革は、キャリア外交官と外務省職員の語学力の低下と外交の停滞につながり、結果として失敗に終わったと元外務省主任分析官の佐藤優が指摘している(毎日新聞「異論反論」2011.1.19)。

「それまで外交官になるには外国語に堪能なことが暗黙の前提とされていた。それが崩れてしまったために外務省の文化が内側から変容してしまった。(中略)上司であるキャリア職員の語学力が弱くなった結果、ノンキャリア(外国語が重視される外務省専門職員採用試験で採用された職員)も緊張感をもたなくなり、外務省全体としての語学力が落ちている」。

 佐藤優は、外交力復活へ向けた対策として、国家公務員T種試験の採用区分に外交職を設け、また外務省専門職採用試験を外交職専門職採用試験として人事院に移管してどの省からもこの試験の合格者を採用できるようにすれば、「語学を重視する文化がよみがえり、外交官の基礎体力が強化される」と提案している。

 佐藤優は、さらに、外務省が2020年の新型コロナに感染したクルーズ船への対応に外務省が主導権を発揮できなかったのも上述の国家公務員試験の変更による影響だと言っている(週刊新潮「佐藤優の頂上対決」2020年5月21日号、山田吉彦東海大学海洋学部教授との対談)。

佐藤「最近の外務省の大きな問題は国際法に弱くなっていることです。外務省の総合職の採用試験が、外交官試験から普通の国家公務員試験に統合されてしまったためです。1980年代は、外務省の上級職員試験も専門職試験も、必ず1題は海洋法でした。だからそれがなくなった今の40代前半以下はそこが弱い。それのせいか、今回、外務省がもう少しやれる局面があったと思うのですが、ほとんど前に出てきませんでした。」

山田「おっしゃる通りで、国際的な問題ですから、本来なら外務省がコントロールしてしかるべき案件でした。でも結局のところ、取り仕切っているのが厚労省なのか、官邸なのか、よく分からないまま動いていった。」

 なお、国会議員の東大比率はここでふれたキャリア官僚の東大比率より低いという点については、図録5217a参照。

(注)経産省取引信用課長だった古賀茂明は、わが国で遅れていた偽造クレジットカードの刑罰立法を目指していた。古賀は、警察庁が天下り先の増加を見通して企図した道路交通法などと共通する行政刑法による立法化に対して、警察庁の動機が不純ということを法務省のキャリアの正義感に訴えて、法務省に刑法改正としての立法を働きかけた。「法務省のキャリア組には、自分たちの天下り先を増やそうなどというよこしまな考えはない。法務省で刑法の改正などを担当するのは、司法試験に合格した検事が中心で、法務省を退官しても弁護士になる道があるので、天下り先を作る必要などないからだ」(古賀茂明「日本中枢の崩壊 (講談社文庫) 」p.293、原著2011年)。作戦は当たり、「最速でも5年かかるといわれていたものが、たった1年で法改正できた」(p.295)という。

 2022年度に取り上げた大学名は、合格者数の多い順に、東京大学、京都大学、北海道大学、早稲田大学、東北大学、慶應義塾大学、立命館大学、岡山大学、中央大学、千葉大学、大阪大学、名古屋大学、東京工業大学、広島大学、九州大学、明治大学、神戸大学、東京農工大学、筑波大学、新潟大学、東京理科大学、法政大学、一橋大学、横浜国立大学、大坂公立大学、東京都立大学、同志社大学、日本大学、岩手大学、東京海洋大学、東京農業大学、愛媛大学、専修大学、中京大学、鹿児島大学、東京外国語大学、金沢大学である。

【コラム】キャリアとノンキャリアの対比 〜中国史から〜

 キャリア官僚の歴史的な源は、中国の科挙合格者(士大夫)であろう。それ以外の実務官僚がノンキャリア官僚ということになる。宮崎市定の「中国史」(1983年)には、キャリアやノンキャリアというものの得失をうかがわせる中国の歴史上の実態についての記述があるので、ここで参考までにふれておこう。

 ノンキャリアの一典型は、宦官である。「宦官は殆ど凡てが下層社会の出身であるだけ世故にたけ、読書階級の家庭で飽食暖衣の恵まれた環境に育ち、ただ邁進に(まっしぐらに)科挙の試験を唯一の目標として、無益な学問競争に勝っただけの高級官僚に比べて、実務に長じていることは同日の談でない。そんならばいっそ科挙官僚を全廃して、宦官政府に万事を任せたらばよいか、と言うとそういうわけには行かない。彼等は言わば廉恥の外におかれた利益追求者の集団で、あらゆる知恵を絞って、その地位を利用して賄賂を貪るのを心掛けるのである。」

 前近代の中国では役得は常識となっており、官僚はすべて分相応な付け届けを半ば公認されていたらしい。それでも、教養あるキャリア官僚はそれが社会制度を壊さない程度に止めようとする動機も同時に有していたが、ノンキャリアの宦官は、「権勢を得た時の取り込みは、桁外れに甚だしい」のであった。賄賂や天下りによって貴重な財源が失われたことだけが問題なのではない。「これだけの財宝が宦官の懐に入るのと平行して、いかに多くの不正が行われて、それが社会に害毒を流したかが問題なのである。」

 また、蒙古民族が中国を支配した元の時代には、科挙を行わず、もっぱらノンキャリアの実務官僚が行政を行っていた。これで行政が簡素化されて合理的な手続きが支配的になったかというとその反対であった。「元代ほど官庁間の文書の往復が頻繁で、時間の空費を顧みなかった時代はない。それは元政府が長きに亘って科挙を行わず、従って進士をとらず、主として役所で実地に叩き上げた胥吏(しょり)をそのまま官員に登用したからである。進士は無用の学を勉強したとは言うものの、まだしもエリート意識によって支えられて個人的な決断力をもっているが、単に経験だけの実務家上りの胥吏は責任を負うことを恐れて決断を回避し、文書を濫発してひたすら上司の意向を窺うに終始するのであった。」

 現代日本のキャリア・ノンキャリアの官僚がこうした実態にあると言いたいのではなく、政治家が適正にコントロールしなければ、こうした状況に陥る可能性がある点を歴史上の教訓とすべきなのである。

 合理性から逸脱した責任回避のための文書形式主義は原発の検査にもあらわれていたようだ。原発勤務など原子力業界で働いてきて自らが福島第一原発事故で避難者となった北村俊郎氏はこう指摘している。「近年は形式主義も横行するようになった。敦賀発電所に勤務時、国の定期検査では会議室の机の端から端までファイルが並ぶほどだった。通産省(当時)の検査官はひたすらチェックしていく。書類作成に子会社や下請けの社員も動員するため、現場が手薄になるという本末転倒の事態が起きた。役所が完璧な書類を欲しがるのは、「見ましたよ」というアリバイ作りの面が大きい。電力会社はこうした役所文化の影響を強く受けている。管理の特異な官僚的人材ばかりが出世するようになり、トップと現場がほとんど断絶してしまった。米国の原発を調査しに行って感心したのは、発電所幹部が作業員に直接指示していたことだ。幹部といえども、プロの技術者なのだ」(毎日新聞2012年1月22日)。

(2011年1月19日収録、11月14日更新、2012年1月10日コラム追加、1月22日コラム加筆、7月20日更新、2013年8月19日更新、2014年4月1日(注)追加、7月1日更新、2015年5月24日更新、2016年4月29日更新、2017年2月3日一時掲載止の後、広告を削除し再掲載、5月30日更新、上位大学推移図、2018年6月4日更新、2018年9月28日元資料を変更し更新、広告再掲載、2019年6月29日更新、2020年5月17日佐藤優新引用、8月21日更新、6月22日更新、2022年4月27日(注)、6月20日更新、2023年6月9日更新)


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