治安の指標としては、犯罪率(実際に犯罪が多いか)と体感治安(住民がどれだけ治安上の安心を感じているか)とがある。犯罪率は客観指標、体感治安は主観指標であるが、治安そのものが主観的な側面を含むので、ここでは体感治安をグラフにした(体感治安のジェンダーギャップについては図録2785d参照)。

 データは幸福度(生活満足度)に関するOECDの報告書(How's Life? 2017 Measuring Well-being)から引いている。幸福度につながる複数の分野のうち、「生活の安全」(Personal security)分野のデータとして、同報告書は、ギャラップ社調査による「体感治安 Feelings of safety」とOECD保健統計の「他殺率 Homicide rate」を掲げているので、前者とともに後者を図に描き入れた。

 他殺率は、法制度の違いなどから各国比較が難しい犯罪率とは異なり、定義が比較的明確であり、国際基準で作成される死因統計からも資料が得られるデータなので、犯罪率の代わりに用いられている。犯罪率の国際比較については図録2788参照。ここでは体感治安と犯罪率の相関に関する別データも掲げた。

 対象国はOECD35カ国とパートナー国6カ国、合計41カ国である。

 体感治安から見て、最も治安が良いのはノルウェーであり、アイスランド、スロベニアがこれに次いでいる。他方、治安の悪いのは南米や南アフリカである。こうした体感治安が特に悪い国では実際に他殺率も高いことが図からうかがわれる。

 日本の体感治安は70.6%と41か国中19位と中位水準にある。他殺率は0.3と英国に次いで低いにもかかわらず体感治安は一般の国並みなのである。他殺率がずっと高い米国より体感治安ではレベルが低い点に、日本人は心配症ではないかという見方もできよう。犯罪が少なくなっても、いな、犯罪が少なくなるとかえって、一つ一つの犯罪の情報に敏感になるためだと考えられる。

 実際、下に体感治安と他殺率との相関図と相関係数を示したが、他殺率が最低の英国から非常に高い南米の国まで含む全部の国の相関係数は-0.77と「マイナスの相関」が明確であり、犯罪率の低い国の国民ほど治安が良いと感じていることが分かる。

 ところが、他殺率の低い先進国だけの相関係数は0に近づき、プラスにさえなっているのである(右から左へ段々と国数が減ると相関係数のばらつきも大きくなっている)。つまり犯罪率が低くなると体感治安は犯罪率と余り相関しなくなるのである。

 なお、これは「片相関」と私が呼んでいる相関パターンである(図録9482参照)。


 対象41カ国は体感治安の良い方から、ノルウェー、アイスランド、スロベニア、スイス、スペイン、デンマーク、フィンランド、オランダ、カナダ、オーストリア、英国、スウェーデン、ドイツ、アイルランド、米国、ポルトガル、ルクセンブルク、ベルギー、日本、イスラエル、フランス、チェコ、エストニア、ポーランド、ニュージーランド、韓国、オーストラリア、ギリシャ、ラトビア、トルコ、スロバキア、イタリア、ロシア、リトアニア、チリ、ハンガリー、コスタリカ、メキシコ、コロンビア、ブラジル、南アフリカである。

(2018年8月3日収録)


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