ここでは、OECDの報告書から、主要国の他殺率の19世紀後半からの長期推移のグラフを掲げた。近年の国際的な他殺率の動きについては、警察統計の動きは図録2776aに、死因統計の動きは図録2774cにまとめた。

 主要国の長期推移は、日本における他殺率水準が戦前から戦後にかけて、また戦後一貫して、低下傾向をたどったことがまず目立っている。

 戦前から戦後直後の段階では、ほぼ、イタリアと同程度の水準であり、英国やドイツなど西欧主要国と比べれば他殺率が高い、殺人の多い国であった。

 英国はシャーロックホームズが活躍する舞台として何か殺人事件の多いイメージがあるが、これはあくまで小説の話だということが分かる。

 戦後の日本は、図録2776にも示した通り、他殺は激減しており、他殺率もイタリアを大きく下回り、ドイツや英国をも下回る殺人の少ない安全な国となっている。

 主要国の他殺率の動きとしては、米国のレベルの高さと大きなうねりが目立っている。米国の他殺率の高さの要因については図録8809参照。

【コラム】歴史的な暴力の減少

 本文に示されたおおかたの国での他殺率の低下は、人類史的な暴力の減少に沿ったものだと論じる学者が登場している。以下にこの論者の説を紹介した東京新聞の筆洗コラムの記事を引用しよう(2016年7月24日)。

「その学者はこんなふうに書き出している。「信じられないような話だが」。続いて「ほとんどの人は信じないに決まっているが」としつこい。そこまでためらい、やっとこう主張する。「長い歳月のあいだに人間の暴力は減少し、今日、私たちは人類が出現して以来、最も平和な時代に暮らしているかもしれないのだ」。スティーブン・ピンカー氏の『暴力の人類史』(青土社、原著2011年)。ハーバード大の心理学教授である。教授がためらった理由は分かる。誰もそう感じていないからである。テロに紛争に殺人事件。世界は暴力に満ちている。「最も平和な時代」の実感がまるでない。それでも、同書によると家庭内から国家間にいたるまであらゆる暴力は減少に向かっている。英国での殺人件数でいえば、十四世紀と二十世紀と比較した場合、95%減である。安定した国家統治や知識、理性の向上によって人類は暴力を大幅に減らすことに成功したという。現代をより暴力的な時代と考えるのは血なまぐさい事件を記憶にとどめやすい一種の「錯覚」で教授は、「現在はそれほど邪悪ではない」という。」

 アマゾンのカスタマーレビューによると著者のしめくくりの言葉は次のようなものである。

「だが、この惑星が重力の不変の法則にしたがって回りつづけてきた一方で、その種は苦しみの数を下げる方法を見つけてもきた。そして人類のますます多くの割合が、平和に生きて、自然な原因で死ねるようにもなってきた。私たちの人生にどれほどの苦難があろうとも、そしてこの世界にどれほどの問題が残っていようとも、暴力の減少は一つの達成であり、私たちはこれをありがたく味わうとともに、それを可能にした文明化と啓蒙の力をあらためて大切に思うべきだろう。」(下巻579頁)

 ピンカーが掲げているのは以下のようなデータである。中世から20世紀半ばへかけての減少傾向は明らかである。X軸は対数目盛りなので表示より減少傾向は急である。20世紀以降については、米国や欧州の例から、減少傾向が1960年以降逆転し、いわば非文明化というべき状況が、世界的な反体制運動、若者反乱、カウンターカルチャー傾向とともにあらわれたが、1990年以降、再度、文明化のプロセスが進んだことが示されている。

 ピンカーは暴力の減少を知ることの意義を次のように述べている。けだし名言である。

「暴力が減少していることを認識すると、世界の見え方が変ってくる。過去の時代はそれほど無垢ではないし、現在はそれほど邪悪で暗くはない、と思えてくるのだ。(中略)私たちが今日ある平和を享受できるのは、過去の世代の人びとが暴力の蔓延する状況に戦慄し、なんとかそれを減らそうと努力したからであり、だからこそ私たちは今日も残る暴力を減らすために努めなければならない。そうした努力が価値あるものだと確信するには、暴力の減少を認めることこそが最も有効だ。人の人に対する残虐行為は長い間、道徳的解釈の対象とされてきた。もし残虐行為が何らかの力によって減少していることがわかれば、それを因果関係の問題として扱うことが可能となる」(上巻、p.20)。

 参考までに冒頭の図の対数目盛でないバージョンを以下に掲げた。


(2014年10月16日収録、2016年7月24日コラム追加、8月24日ピンカー図引用、9月12日ピンカー引用追加、2017年5月2日WDR図、2019年12月6日図録2776aから分離独立)


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