年齢調整済み死亡率推移→図録2158a

 死因別死亡率のトップはがん(癌、ガン、悪性新生物)である(図録2080参照)。人口動態統計からの主な部位別のがんの死亡率(人口10万人当たり死亡者数)の推移を掲げた。男の前立腺がん、女の子宮がんなど男女で独自の部位もあるため、男女別にかかげてある。5年おきと最新年について示した。最新年と1期前の間は5年間とは限らないので、増減の程度の判断には注意が必要である。

 男性に関しては、かつては胃がんが圧倒的に多かったが、近年は、肺がんが急増し、死亡率が1965年以降減少ないし横ばいに転じた胃がんに代わって断然1位となっている。肝臓がんが低下し大腸がんと逆転して、大腸がんが3位、肝臓がんが4位となっている。

 女性に関しては、かつてトップであった胃がん、及び第2位であった子宮がん(子宮頚がんを含む)が横ばい、ないし減少に転じたため、最近では、増加傾向が続く大腸がん、肺がんがトップ2、胃がんが3位となっている。若い時からの女性の喫煙率の上昇によって女性においても肺がんの増加が懸念されている(図録2210)。

 各部位のがんについて治療成績(5年生存率)の推移を図録2160、図録2164に掲げたので参照のこと。

 図の通り、同じ消化器のがんでも、胃がんの死亡率は低下する一方で大腸がんの死亡率は増えている。この治療成績の推移を見ると両者ともに5年生存率は同じように上昇しているので、やはり、がんに罹る率の動きに差が生じてきているためと考えられる。

 これについては、一般に、食の欧米化が関係していると見なされている。すなわち、塩分・塩蔵食品の摂取が減っているせいで胃がんが減り、脂肪や肉類を中心とした欧米型の食事が胃がんを減らす一方で大腸がん(及び前立腺がん)を増やしていると考えられている(栃内新「進化から見た病気」講談社ブルーバックス、p.102〜103)。

 塩分の多い食品の消費量が多い地域ほど胃がんが多い点については図録7758参照。もっとも、国民健康・栄養調査では塩分摂取量は全国平準化が進んでいるのに、胃がんによる都道府県別年齢調整死亡率の地域偏差を1975年から追ってみてもそれほど目立った変化が認められないのはやや不思議である。

 なお、肺がんをはじめ、心臓病などタバコの喫煙に起因する病気によって世界中で多くの人命が失われている点については、図録2208参照。

 子宮頸がんについては、死亡率が上昇しているが、主に性交渉で感染するヒトパピローマウイルス(HPV)がそれを引き起こす。このウィルスの感染を防ぐワクチンの積極的勧奨が2022年になって9年ぶりに再開された。「日本ではこのワクチンを2013年、小6から高1の女子を対象に公費負担の定期接種としたが、しびれなどを訴える人が相次ぎ、勧奨を中止した。その後、ワクチンの有効性・安全性を示すデータは積み重なったが、この症状と接種の間に因果関係はないと判断するのに国は8年も費やした。今でも検診受診率が低い日本の10万人当たりの子宮頸がん患者数は14.7人と西側先進国の倍」と世界から遅れてしまっており、挽回するのも大変だという(東京新聞2022.5.25夕)。

 再開の遅れを国の責任にするような論調だが、2013年当時、接種による体調の悪化症例をテレビでさんざん映し出し、ワクチンの危険性を過剰にアピールしたマスコミの責任をどうして問わないのか、ワクチンを打たず子宮頸がんで亡くなった親が集団訴訟でも起こさないと同じことは繰り返されると思う。

 がんの死亡率が上昇しているのは、基本的には、がんの死亡率が高い高齢者が増えているためである。こうした高齢化要因を除いたがんの部位別の死亡率(年齢調整死亡率)の推移については図録2158a参照。

 また、がん全体の死亡率の推移、及び高齢化の要因を除いたがんの死亡率の推移については、図録2080参照。

 参考のため下図には総ての部位のがんの死亡者数(2020年)を男女別に多い順に示した。


(2008年7月28日収録、11月3日更新、2010年6月24日更新、2011年6月2日更新、2012年9月10日更新、2013年6月6日更新、9月5日確定値更新、2014年6月4日更新、2015年1月14日更新、2016年12月10日更新、2019年2月17日胃がんと大腸がんの比較コメント、2022年5月29日更新、子宮頸がんコメント)


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