1.婚外子の世界的増加


 出生率を回復させた国々における出生率回復の要因のひとつとして、結婚しないまま子供を産むことが社会的に認知されている点があげられることが多い。

 そこでここでは、各国における結婚していない母(未婚の母、離別・死別後再婚していない母)からの出生(婚外子・非嫡出子)の割合を掲げた。

 一人親家庭、事実婚を含む二人親家庭で暮らす子どもの割合(国際比較)については、図録1522参照。

 対象国は、OECD36カ国、非嫡出子割合の高い順にチリ、アイスランド、メキシコ、フランス、スロベニア、ノルウェー、エストニア、スウェーデン、デンマーク、ポルトガル、オランダ、ベルギー、チェコ、英国、ハンガリー、ニュージーランド、スペイン、フィンランド、オーストリア、ラトビア、ルクセンブルク、スロバキア、米国、アイルランド、ドイツ、オーストラリア、カナダ、イタリア、リトアニア、ポーランド、スイス、ギリシャ、イスラエル、トルコ、日本、韓国である。

 一目瞭然、目立っているのは日本の婚外子割合の低さである。日本と欧米の文化の差を感じさせる図録である。図にはあげていないが、香港は1980年、1997年に、それぞれ、5.0%、5.6%である(国連人口年鑑・出生統計1999特別号)。香港の値をアジアの代表としてとらえると、儒教圏アジアは欧米と比較して婚外子割合が低く、日本(および韓国)はその中でも格段に低いと見なせるであろう。すなわち、日本の婚外子割合の低さは、アジア的な特徴と日本的な特徴がミックスしたものと考えられる。

 2番目の図に日米の1940年以降の推移を示した。1940年代にはほとんどかわらなかった婚外子の割合が、その後、いかに急速に日米で異なる動きを示したかがうかがわれる。

 欧米主要国の中では、フランスが59.7%と最も高く、これに次いでスウェーデン、デンマークが54.9%、54.0%と50%以上を超えている。北欧のスウェーデンやデンマークは1995年でもこれに近い値であり、かなり前から高かった(毎年の動きを見ると近年はむしろ横這い傾向)。

 欧米の中でもイタリア、ギリシャといった南欧で相対的に婚外子の割合が低い。またフランスやスペイン、アイルランドといったカソリック国、あるいはオランダ、英国といった国も1970年段階では低かったが、その後は、大きく上昇しているのが目立っている(EUROSTATによるとフランスは1980年に11.4%)。

 欧米で婚外子割合が高い要因としては、結婚に伴う法的保護や社会的信用が結婚していなくとも与えられているという側面と若者が未婚でも後先考えずに子どもを生めば後は何とかなる(国、社会が何とかする)という側面の両面があると考えられる。出生率回復に寄与しているのは主として後者の側面であろう。

 自由を求める人間精神はついに結婚制度を変容ないし瓦解せしめているともいえる。

2.フランス

 出生率上昇が注目されているフランスでついに婚外子比率が2006年に50%を越えたことが報道され、ヤフートピックスでは、この図録も引用された。2008年1月19日毎日新聞はこう伝えている。

「フランスで2006年に生まれた子供のうち、両親が正式な結婚を していない婚外子の割合が初めて半数を超えたことが分かった。仏国立統計経済研究所が18日までに発表した。正式な結婚にとらわれないフランス人の考えが反映され た形だ。

 同研究所によると、婚外子の割合は65年には5.9%に過ぎなかったが、次第に増え続け、06年には50.5%(05年は48.4%)と正式な結婚による子供の数を上回った。07年の結婚件数は26万6500件で前年より約1600件減った。

 フランスでは99年、事実婚や同性愛のカップルに対し、税控除や社会保障などについて、結婚に準じる権利を付与するパクス(連帯市民協約)法が制定され、結婚や家族の考えが大きく変わった。「パクス婚」と呼ばれ、「合意でなくとも片方の意思 だけで解消できる」点で結婚より緩やかな形。カトリックの影響で離婚が難しかったことへの反動ともみられる。社会学者のイレーヌ・テリー氏は「家族を形作るのは結婚ではなく子供になりつつある」としている。

 一方、フランスの昨年の合計特殊出生率(1人の女性が一生に産む子供の数)は 1.98で、アイルランドの1.90を上回り、欧州連合(EU)で最高となった。 EU平均は1.52だった。

 フランスの合計特殊出生率は93年に1.66まで落ち込んだ後、上昇に転じた。3歳児から公立保育園に入れるなど出産・育児への行政支援が手厚く、子供の数に応 じた税の優遇措置も上昇に寄与したとされる。初産の平均年齢は29.8歳と、年々上昇している。」

 結婚していない母から生まれた子供であっても、父母が同居していたり、出産後同居あるいは結婚すれば、一人親世帯(母子・父子世帯))の子供とはならない。婚外子割合よりは低い割合であるが、一人親世帯の子供の比率も各国で上昇している点については図録1530参照。

3.米国

 米国では、結婚自体が富裕層の専有物となってきているといわれる(婚姻数が全体として減り、その結果離婚も減少している状況については図録9120参照)。「結婚の衰退」というタイトルで、英エコノミスト誌は、パパ、ママ、子どもたちからなる米国型聖家族が少数派になってしまった状況を報告している。

 人口の58%を占める高卒以下の米国人は、結婚したくてもその余裕はないという。代わりに、婚姻外で子どもを育てているのだ。全国結婚プロジェクト(バージニア大学)によれば、大卒の母の婚外子は6%に過ぎないのに、高卒以下の母の婚外子は44%にのぼる。ブルッキングズ研究所のイザベル・ソーヒル(シニア・フェロー)は「結婚が少ないということは所得が少なく、貧困が多いということである」と見ている。彼女とその同僚研究者は、米国の所得格差の半分は家族構成の変化、すなわち、一人親家族(多くが高卒以下)は貧しくなる一方で、結婚した夫婦(教育があり共稼ぎ)はますます豊かになりつつあるという変化によっているとしている。「これは衝撃的なギャップなのだが、世間の人にはよく理解されていない」と彼女はいう。結婚ギャップを来年の選挙の争点にすることを民主党に期待することは出来ない。未婚の母は圧倒的にバラク・オバマに投票した。「結婚しないで子どもをもっている誰かに結婚すべきだとはいえないでしょう。それは、その人をおとしめることになるからです。」とミズ・ソーヒルは言う。(The Economist June 25th 2011)

 米国では、結婚しないのではなく、結婚できないのが、婚外子増加の理由だというのである。

4.日本

 新聞各紙によると、2005年4月13日、東京地裁は、両親の法的な結婚を子供の日本国籍の条件とした国籍法の規定(3条1項)は憲法14条1項(法の下での平等)違反であるとし、結婚していない日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれた男児に、父母の内縁関係を前提としてであるが、日本国籍を認めた。今回、同じ父母からの兄弟で、出生前の父の認知と出生後の認知とで区別があるのは不当として争われていたもの。引用される識者の発言はおおむね判決妥当としている。

 また、2013年9月4日の最高裁大法廷は裁判官の全員一致で、婚内子(嫡出子)と婚外子(非嫡出子)との相続分差別(後者は前者の2分の1)を規定する民法条項が違憲であるとする判断をはじめて示した。「欧米諸国では1960年代以降、相続の平等化が相次ぎ、2001年にフランスが法改正すると、日本は先進国で唯一格差が残る国となった。」(東京新聞2013年9月5日)

 こうした判決を見ると、日本でも段々と婚外子を社会的に認知していく方向を辿っていると考えられる。

 ただし、日本においては皆婚慣習がなお根強く、婚外子への風当たりも厳しい。このため、非正規労働者など若い貧困層が増えていても、米国とは異なり、結婚する余裕のない者は、男女のカップル形成に至らない(図録2451参照)、あるいはカップルを形成しても出産しないため、婚外子は少ないままなのだといえる。

 もっとも、日本で、皆婚慣習が根強く、婚外子が少ない理由としては、他のアジア諸国と同様に古い家族形態が存続しているためというより、戦後、新しい自由な結婚制度が世界に先駆けて成立したからという見方も成り立つ(戦前には婚外子が多かった点については図録1518参照)。

 日本国憲法は第24条1項で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」としている。「合意のみ」とは、年齢や健康上の理由、親や親族の意見・強制、あるいは宗教、教会や地域の慣習による制約などは法律上は認めないという意味であり、そうした制約を前提とした一切の法令上の規定は憲法違反となる。例えば、フランスのような結婚前の血液検査の義務付けなどはもってのほかだ。「フランスでは役所での婚姻の際に、健康診断書が必要になります。これは血液検査で、病気や持病がないかどうか、もし病気があった場合、お互いにそのことを知ったうえで結婚をするということです。それは、病気や持病が原因での離婚を避けるためでもあります」(朝日デジタル2014年10月14日中村江里子パリからあなたへ「フランスで血液型を聞くということは…」)。ちなみに元アナウンサーの中村江里子は、将来夫になるフランス人男性と初めて食事したときに軽い話題として血液型をきいて、もう結婚の話をするのかと誤解されたというのがこの一文の趣旨である。

 こうして、日本では、役所への届出だけで婚姻が成立し、離婚も協議離婚が容易に認められるという世界でも最も簡便で自由な結婚制度が生まれた(図録1538参照)。こうして、事実婚を選択する大きな理由が日本では欠落することになったことが、極端に低い婚外子比率にむすびついている側面もあろう。そうした意味では、戦前の家制度等による伝統的結婚制度への反動が強かったため成立した世界で最も自由な結婚制度が、現代では、世界で最も遅れているかに見える極端に低い婚外子比率を生んでいることになろう。すなわち、日本は遅れているのではなく、進みすぎていて、未婚のカップルと婚外子が少なくなっているとも言えるのである。

 憲法改正の自民党案では、第24条について、「合意のみ」を「合意」に変更している。家族・親族の絆、地域の絆を強める方向での婚姻、離婚の制度、つまり現行の欧米の制度に戻そうとする保守政党としてはもっともな改正案だと思われるが、改正の結果、見込まれるのは、おそらく意図とは反対の欧米レベルへの事実婚や婚外子の増加であろう。

(2005年4月7日収録、2008年1月21日更新、及びフランスの婚外子半数越えコメント追加、2011年4月26日更新、7月21日米国事例追加、2013年9月5日婚外子相続差別違憲判断、憲法24条関連コメント、日米推移比較追加、9月6日香港データ追加、2014年10月22日フランスの血液検査の例を追加、2017年1月18日更新、2019年9月23日原資料変更) 


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