移民問題について特集した世界銀行の世界開発報告2023から世界各国の海外移民比率(対母国人口比)の世界マップを掲げた。この世界マップは移民送出国の移民流出の程度をあらわしているが、逆に、対となる移民受け入れ国の移民人口比率の世界マップについては図録1170gに掲げたので参照されたい。

 報告書でこの世界マップには「ほとんどの国では海外移民のほんの小さな割合を占めるに過ぎない」と題されている。

 海外移民比率が20%以上の31か国を、比率の高い順に掲げると次のとおりである(カッコ内は比率の%数値)。パレスチナ(51.7)、トンガ(46.9)、サモア(45.6)、グレナダ(45.4)、ガイアナ(43.1)、セントビンセント・グレナディーン(39.6)、シリア(36.7)、ボスニア・ヘルツェゴビナ(36.3)、ジャマイカ(32.2)、カボベルデ(31.1)、スリナム(30.0)、アルバニア(29.8)、バルバドス(29.3)、アンティグアバーブーダ(29.2)、ミクロネシア(28.8)、アルメニア(28.4)、モルドバ(28.3)、マケドニア(27.2)、フィジー(26.1)、南スーダン(26.0)、セーシェル(25.0)、エルサルバドル(24.4)、セントルシア(24.2)、トリニダードトバゴ(23.5)、カザフスタン(22.9)、クロアチア(21.4)、サントメプリンシペ(21.2)、中央アフリカ(21.0)、ジョージア(20.9)、リトアニア(20.5)、ブルガリア(20.3)。

 面積が大きな国はカザフスタン、南スーダン、中央アフリカ、シリアなどそう多くなく、トンガ、サモアなど太平洋の小さな島国が多いため、世界地図であらわすと余り目立たないことは確かである。

 面積が大きく、人口も多い中国、インド、米国、ブラジル、インドネシアといった国は、海外移民比率が、それぞれ、0.8%、1.6%、0.8%、1.0%、2.0%とせいぜい1〜2%と値が低いという点からも世界的に海外移民比率は余り高くないという印象になる。稼ぐためには国内の大都市へ出るなど国内移住する余地が大きく、海外移住するまでもないからであろう。

 人口・面積大国のなかではロシアの7.1%が例外的に高い値となっている。これには、政治的な国外脱出の側面も含まれていよう。

 米国以外の主要先進国(G7)の値を大きい順に掲げると、英国(7.4)、イタリア(5.3)、ドイツ(5.3)、カナダ(4.0)、フランス(3.4)、日本(0.8)となっている。日本は非常に低いがその他の国も1割は越えていない。西欧諸国の中で海外移民比率が高い国として目立っているのは、ポルトガルの17.5%、アイルランドの14.6%である。

 海外移民比率の地域分布の面的なまとまりとしては、経済困難地域かどうかという条件と働き場所の豊富な経済中心地域へアクセスしやすいかという条件に規定された以下の傾向が認められる。
  1. ヨーロッパでは、西欧、北欧では低く、中東欧や旧ソ連圏、特にロシア周辺国で高い。
  2. 中東紛争地域で高い。
  3. アフリカでは、アフリカ中央部や西アフリカで高い。
  4. 米大陸では、米国に接するメキシコ、中米や中米に近い南米で高い。
 以下に、こうした地域分布に裏打ちされた移民の主要な経由ルートの地図と世界銀行による移民人数のまとめを掲載したので参照されたい。


世界銀行による移民人数のまとめ(図録1170gと共通)
 移民の人数について世銀の世界開発報告書2023は次のように報告している(p.1〜2)

 移民数の基本データは以下の通り(世界開発報告WDR2023移民データベース)。
  • 世界全体で移民人数は1億8,400万人であり人口の約2.3%を占める。そのうち3,700万人は難民である。
  • 移民の約40%(6,400万人の経済移民と1,000万人の難民)は高所得OECD諸国で暮らしている(だいたいそのうち6,100万人は帰化済み)。これらは高技能及び低技能の労働者とその家族、定住するつもりの人びとや短期的な出稼ぎ移民、学生であり、違法移民や国際的なな保護を求めている人々を含んでいる。また、さらに、他のEU諸国で暮らすEU市民1,100万人を含んでいる。
  • 移民の約17%(3,100万人の経済移民)は湾岸諸国(GCC)で暮らしている。彼らのほとんど全ては更新される労働ビザで働く出稼ぎ労働者である。
  • 移民の約43%(5,200万人の経済移民と2,700万人n難民)は低・中所得国で暮らしている(だいたいそのうち3,100万人は帰化済み)。彼らは主として職を求めたり、家族を呼び寄せたりするため、また国際的な保護を求め移動した。
 移民の発着地について同報告書は次のように要約している(p.46〜47)。

「発着地としてはますます重要性を増した国、地域もあれば、重要性が失せたところもある。例えば、ヨーロッパからラテンアメリカへの巨大な移動は今日ではもうない。湾岸諸国への移民は60年前にはほとんど存在しなかったが、今ではこれら諸国はもっとも大きないくつかの移民発着ルートの着地となっている。この間に、かつて発地だったアイルランドやイタリアは今では着地となっている(ここでは、原文のoriginを「発地」、desttinationを「着地」、corridor(回廊)を「発着ルート」と訳した)。

 国境を越える人口移動はますます多くの発着ルートに分散するようになっている。1970年には4万以上の発着点のうちわずか150のルートで世界の移民の65%を占めていた。2020年までのこの割合は50%にまで低下している。今日の主要な発着ルートはメキシコから米国、インドからアラブ首長国連合やサウジアラビア、インドや中国から米国、カザフスタンからロシア、ロシアからカザフスタン、バングラデシュからインド、フィリピンから米国などである。さらにこれらに加えて大きな発着ルートは、シリアとトルコ、ベネズエラとコロンビア、ウクライナとポーランドの間といった移住を余儀なくされる主な難民状況とむすびついている。

送り出し諸国(発出地)

 移民送出の最大地域は中所得諸国である。そうした移民は母国の最貧層でも富裕層でもないのが普通である。すなわち、移動する資金があり、移動するインセンティブもあるのである。紛争と迫害の状況に置かれている時でも、集団全体が暴力の対象となっている場合など例外はあるとはいえ、母国を去る手段を有している者ほどまず最初に母国を離れるものなのである。
 海外移民が母国の人口のかなりのシェアを占めている国もある。多くの小島途上国では人口の25%を大きく越える海外移民率となっている。中欧・東欧の多くの国では、また、15%を越える大きな海外移民率である場合も普通である(彼らは西欧諸国へのアクセスが他地域より容易である)。母国人口に占める難民割合が高いのは中央アフリカ、ソマリア、南スーダン、シリア、ウクライナ、ベネズエラである。すべての国の平均の海外移民率は母国人口の7%である。

受け入れ諸国(到着地)

 移民の到着地は所得水準にかかわりなく世界各国に広がっている。移民流入が多い主要な受け入れ国は米国、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、ドイツ、フランスなどである。オーストラリア、カナダ、英国といったその他の国では時間とともに帰化した移民が多くなっている。

 受け入れ国の移民人口比率はさまざまである。それは湾岸諸国で最高でり、アラブ首長国連邦では88%もの高さに達している。多くのOECD高所得国でも、5〜15%といったかなりの高さに達している。コスタリカ、コートジボアール、ガボン、カザフスタン、マレーシア、シンガポールといった隣国より相対的に裕福な国に向かう地域内の移民もある。移民人口比率は人口の少ないベリーゼ、ジブチ、セイシェルといった国でも高い場合がある。最後に、受け入れ国における難民の割合は、普通、1%以下と大きくないが、例外はある。例えば、2022年中ごろの段階で、レバノンでは6人に1人、ヨルダンでは16人に1人、コロンビアでは21人に1人は難民である。

(2023年8月26日収録)


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