(まとめ)

 大きな家畜は大人1人に1頭、鶏は人口1人当り3羽近く世界で飼養。地域分布は中国に豚が多く中南米に牛馬が多いなど大陸別に特徴。

(世界の家畜頭数)

 FAOの2014年データによると、世界の人口は73億人であるが、牛は14.7億頭、豚は9.9億頭、羊は12.0億頭、山羊は10.1億頭などとなっており、この他、水牛、馬、ロバ、ラバ、ラクダなど大きな家畜を含めると合計して50.0億頭となっている。世界の人口の4分の1は15歳未満の子供であるので、世界全体で、だいたい大人1人当たり、約1頭家畜を飼っていることとなる。

 また鶏は採卵鶏あるいはブロイラー等として214.1億羽飼養されているので、人口1人当たりでは、2.9羽飼っていることとなる。

 今や家畜のバイオマスは野生の哺乳類・鳥類だけでなく人類をも上回っている(図録4165)。

 日本は家畜の少ない国であり、人口1.3億人に対し、鶏以外の家畜は1,355万頭と約10分の1、10人で1頭飼っていることになっている。

 米国は牛の数が多く、3人弱で1頭程度、牛を飼っている。中国は豚が多いのが目立っている。

(主要家畜の地域別分布)

 家畜ごとの世界の中の地域別のシェアで分布状態を探ってみよう。

 牛はラテンアメリカが27.7%と最も多いが、伝統的な飼養方法によるサハラ以南アフリカ、南アジアでの構成比も比較的高く、また北ヨーロッパや北アメリカでもかなりの牛を飼っている。世界の人口構成と余り大きく異なってはいない。

 豚は森林性のいのししからヨーロッパ、アジアと大陸ごとに別々に家畜化されたと言われるが、乾燥地域には広がらなかったし、イスラム教国では食べることが禁忌(タブー)となっているので分布が限られている(コラム参照)。

 ローマ人がやってくる前のガリア人は肉をよく食べた。「ヨーロッパでは、ガリア人は高品質の豚肉製品をつくることで知られていた。紀元前二世紀のギリシアの歴史家ポリュビオスは、ガリア人について「肉しか食べず、戦争と養殖を行う原始的な民族」と記している。ガリア人はとくに豚をよく食べた。力と勇気の象徴だった猪も狩ったり飼育していたりしたが、実際には豚ほどはたくさんは食べなかった。豚は交換の際の単位としても利用された」(ジャック・アタリ「食の歴史」プレジデント社、原著2019年、p.87〜88)。中国についで北ヨーロッパで豚が多いのはこうした伝統を引き継ぐものであろう。

 今では、中国が48.1%と突出している(図録0300参照)。この他、豚肉の加工製品であるハム・ソーセージを食べるヨーロッパや南北アメリカに分布が集中している。意外なことに世界全体では牛より豚の方が数が少ないのはこうした事情による。

 羊は中東・北アフリカとサハラ以南アフリカ、及びオセアニアに比較的集中しているのが目立っている。ヨーロッパでもかつては古代から食肉源、また羊毛用として多く飼われていた。14世紀英国では800万頭のヒツジが飼われていたが、これは人口の3倍だった。

 馬はラテンアメリカが37.1%と最も多く、集中している。

 鶏はおおむね人口分布と比例しており、世界どこでも卵が利用され、鳥肉が食べられている。

【コラム】肉食のタブー

1.イスラム教徒の豚肉忌避

 イスラム教とがユダヤ教とともに豚肉をタブーとしている。これが豚肉かどうかの情報に対する生理的な反応である点について、高田公理「生理、文化、そして情報」(伏木亨編『味覚と嗜好 (食の文化フォーラム)』ドメス出版、2006年)はこう紹介している。

「著名なSF作家「がイスラム圏を旅したとき、とんでもないいたずらを思いついた。

 「イスラム教徒に豚肉を食べさせたらどうなるか」

 そこで豚肉を原料とするソーセージを焼いてイスラム教徒に振る舞った。すると彼らは、「うまい、うまい」と、それらを食べてしまった。

 やがて宴が終わるころ、SF作家が種明かしをした。

 「さっき君らが食ったんは、じつは豚肉やったんや」

 その瞬間、彼らは顔面蒼白になり、嘔吐しはじめた。やがて全身の痙攣が始まり、呼吸困難になり、顔面はさらに青さを増した。救急車をよばねばならなくなるし、警察官が来て尋問を受けなければならなくなるし...すんでのところで逮捕されるところだったという」。

2.焼くと煮るの対立

 特定の動物肉ばかりでなく、魚食や肉の部位、また同じ肉でも焼いて食べるか煮て食べるかという料理のタブーや対立もある。タンザニアのマンゴーラ村で民族学調査を行った石毛直道は次のように報告している(石毛直道「食わず嫌い−悪食とタブー」(同上書))。

「そこには、狩猟・採取民のハッザ族、牧畜民のダトーガ族、半農半牧民のイラク族、農耕民のスワヒリという4つの生活様式を異にする人びとが居住していた。」ハッザ族男性が弓矢で狩猟した「クサムラカモシカなどの大動物の肉には、成人男性だけが食用を許される部位がある。心臓、胸の一部、肩と首の部位、内臓の一部は「神の肉」といわれて男だけが食べ、女子どもにとっては食用が禁じられるタブーの肉とされる」。

「ウシを主要な家畜として放牧に従事する牧畜民のダトーガ族と、トウモロコシを主作物とする農耕とウシの放牧をあわせておこなう半農半牧民のイラク族は、魚を食べることがタブーである」。

「ダトーガ族ウシの肉を煮て食べるが、焼き肉にすることはない。焼いて食べるのはマサイ族の料理法なので、自分たちは煮て食べるのだという。おなじくウシを飼う牧畜民であるマサイ族とダトーガ族は、歴史的に敵対関係にあった。マサイ族との戦いに敗れて、ダトーガ族はマンゴーラ村に移住してきた過去をもつ。ところで、マサイ族の男は、肉を煮るのは、女の食べ方であるといってきらう。女の料理法である煮た肉が家屋内でおこなわれるのにたいして、男の料理である焼き肉は、女から離れた野外でつくられ、食べられなくてはならないことになっている」。

(2004年8月26日収録、2011年3月28日コラム追加、2017年7月27日更新、2020年11月11日ジャック・アタリ引用、2024年1月12日羊コメント補訂)


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